担当編集者は知っている。


『山本周五郎探偵小説全集』全6巻+別巻
著者:山本周五郎
編者:末國善己
価格:1〜6巻は各2,940円(税込)
   別巻のみ3,360円(税込)
発行:作品社
ISBN-13: 978-4861821455
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山本周五郎さんが戦前に
少年少女のために執筆し、
入手困難となっていた探偵小説が発掘され、
全集になりました。
山本周五郎さんの小説が好きな方にも
ミステリーが好きな方にも
おすすめの全集です。
この全集を担当された作品社の
青木さんにお話をうかがいました。
(「ほぼ日」渡辺)

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担当編集者/
   作品社 編集部 青木誠也



山本周五郎といえば、
NHK大河ドラマや映画にもなった
『樅ノ木は残った』『赤ひげ診療譚』『五瓣の椿』
『日々平安』(『椿三十郎』)などで知られる、
日本の戦後のエンタテインメント小説を代表する
偉大な作家です。
しかし、周五郎が戦前から戦中にかけての約10年間、
主に少年少女雑誌を発表媒体に、
数多くのミステリー作品を著わしていたことを知る人は、
決して多くないでしょう。
新潮文庫に収録されて読むことのできる短篇も
いくつかありますが、
その全体像はほとんど研究されていなかった、
といっても過言ではありません。

その、周五郎の知られざるミステリー小説の作品群を、
はじめて一挙にまとめて読むことのできるのが、
このたび完結した『山本周五郎探偵小説全集』
(全6巻+別巻1)なのです。
本シリーズ編者の文芸評論家・末國善己氏が、
「山本周五郎の探偵小説の復刻が遅れたのは、
 散逸が激しく、公的な機関にも
 ほとんど所蔵されていない博文館の
 少年少女雑誌に発表されたことも
 大きかったように思える。
 『山本周五郎探偵小説全集』の刊行にあたっては、
 山本周五郎が戦前に活躍した『少女世界』
 『少年少女譚海』『新少年』などの雑誌を
 可能な限り調査し、60篇を超える作品を集成した。
 若干ながら、雑誌が発見できず
 収録できなかった作品もあるが、
 本全集があれば山本周五郎の残した
 探偵小説の全貌が概観できるはずだ」
(全集パンフレットより)と胸を張る通り、
まさに幻の作品群といえるでしょう。

末國氏は続けて、
「戦前の少年雑誌に発表された長篇探偵小説は、
 中国大陸(『ウラルの東』『血史ケルレン城』)や
 南洋(『南方十字星』)、
 果てはイタリア人の圧政に苦しむエチオピア
 (『獅子王旗の下に』)などを舞台に、
 主人公が悪の組織と戦う血湧き肉躍る冒険活劇で、
 その完成度は山中峯太郎の名作に勝るとも劣らない。
 一方、短篇は『亡霊ホテル』『殺生谷の鬼火』
 『新造船の怪』というタイトルからも分かるように、
 冒頭に置かれた奇怪で幻想的な謎が、
 合理的に解明される本格探偵小説になっており、
 今読んでもまったく古びていない。
 それだけに、ミステリーファンは
 山本周五郎の探偵作家としての確かな手腕を、
 古くからの山本周五郎のファンは、
 周五郎作品の新たな魅力――
 希代のストーリーテラーとして
 『五辮の椿』『樅ノ木は残った』などの
 傑作を残した作者の原点を
 発見できるのではないだろうか」
と解説しています。

本シリーズは、基本的に各巻の巻頭に長篇作品を配し、
内容的にそれに類する短篇作品を
その後に収録しました。
長篇は全作品が単行本初収録、
短篇も約8割が現在入手可能な単行本・全集・選集に
収められていない作品です。


『第一巻 少年探偵・春田龍介』には、
天才的な探偵能力を持つ中学生・春田龍介が活躍する
シリーズの短篇5作品と長篇1作品、
加えて、やはり旧制中学や大学に通う若き秀才を
主人公に据えた短篇4作品を収録しています。
末國氏の上記解説のように、「春田龍介」シリーズは
短篇は理学博士である父親の
重大な発明の機密を守ったり、
宝石の盗難事件や怪しげな屋敷で発生した
殺人事件を解決したりといった謎解きものですが、
唯一の長篇「ウラルの東」は、
中国大陸を舞台に龍介とその弟分である
“メリケン壮太”が繰り広げるアクションが圧倒的。
75年前の子供たちが興奮して読んだであろうことが
よくわかる作品です。


『第二巻 シャーロック・ホームズ異聞』は、
長篇「シャーロック・ホームズ」と
やや長めの短篇5作品収録。
いずれもが海外のミステリーの
影響が見られる作風ですが、
特筆すべきはやはり巻頭の「シャーロック・ホームズ」。
なんと、あのコナン・ドイルの名探偵ホームズが
日本にやってきて、
「モンゴール王の秘宝」なる財宝をめぐって
悪漢たちと壮絶な戦いを繰り広げます。
もちろん独立した作品としても十二分に楽しめますが、
随所に原作シリーズのエッセンスが
織り込まれているので、
ドイル作品に親しんだ方であれば、
より興味深く読めるでしょう。


『第三巻 怪奇探偵小説』の巻頭に掲げた長篇
「南方十字星」は、
南洋の孤島に眠る大金鉱をめぐる、
主人公である大河内士郎少年の父・信之や
その兄・忠地宗近伯爵が進める日本の開発チームと、
吹き矢を使う暗殺者を擁する謎の陰謀団
「南方十字星」の戦いを描きます。
作品後半の南洋の無名島の場面には、
キング・コングを髣髴とさせる
「50フィートもあろうという巨大な」
ゴリラが現われ、ストーリーを盛り上げます。
短篇は、この大ゴリラのような奇怪な生物、
あるいは幽霊や透明人間のような
怪異が登場する作品を9つ選んで収録しました。


『第四巻 海洋冒険譚』は、ひょんな行きがかりから
国防のための秘密結社のメンバーとなった
主人公・北平馬が、結社のリーダー「A1号」から
次々と下される指令をこなしていくというストーリー。
作中、潜水服を着て、海底の沈没船を
秘密基地にしているスパイたちを捕らえにいく場面は、
非常にスリリングで印象的です。
短篇は、「棺桶島」「新造船」「難破船」「流血船」
「廃灯台」「海浜荘」「魔島」などの語を
タイトルに持つ、海とかかわりの深いものを中心に
10作品セレクトしました。


『第五巻 スパイ小説』の長篇「少年間諜X13号」は、
主人公・大和八郎の行く先々に現われては
彼を苦しめるアメリカの美少女スパイ
リリアン・ロオレンスが
作品をいっそう魅力的なものにしています。
短篇4作品も、長篇同様にスパイを扱ったものが中心。
また、従姉妹の犯した罪を着せられて
孤島の感化院に送られた少女・康子が、
そのやさしい心根を持って
同じ感化院に送られてきた子供たち、
さらには獰悪な教導師までをも
改心させていく少女向けの長篇小説「うたえ西風」も
この第5巻に収録しました。
連載していた「少女世界」が休刊になってしまったために
未完の作品ですが、ほぼ事件の決着はついており、
結末の推測は容易だと思われます。


『第六巻 軍事探偵小説』は、
ロシアと満州との中間地域にかつてあり、
今は亡びたとされる“ケルレン王国”の
再建を目指して主人公・東忠三が立ち働く
「血史ケルレン城」が巻頭の長篇。
その他も、対イタリア戦下のエチオピアでの
ある新聞記者の活躍を描く中篇「獅子王旗の下に」や、
ロシア・パルチザンに潜入した少女が主人公の
短篇「逆撃吹雪を衝いて」、
長く日本に住むノルウェー人が登場する
短篇「火の紙票(カード)」など、
国際色豊かなラインナップになっています。
また、猿の耳を移植された男の手記、
動物園から豹が逃げ出した日のある義姉弟の出来事、
「弛緩性神経症」の妻を持つ男や、
鴉片(アヘン)で現実と妄想の境界が
曖昧になった男の独白など、
異色の幻想譚も併せて収録しました。


『別巻 時代伝奇小説』は、織田・徳川によって滅亡した
武田家を再興させるために
秘宝の巻物を探して戦う
4人の少年剣士の冒険譚「悪龍窟秘譚」と、
老中・阿部正編を攫って南洋を目指す海賊
「海の狼」たちと行動をともにする浪人と、
その養女でありながら彼を恋い慕う少女が主人公の
「南海日本城」という、2つの長篇が中心です。
併録した短篇もすべて、
時代物でミステリー的な結構を持った作品です。
後年、数多くの人情味溢れる時代小説をものして
人気作家となった山本周五郎の、
原点ともいうべき作品の数々を、
ここで読むことができます。

第1巻から順に読み始めていただくもよし、
ご興味のある巻をまず手に取っていただくもよし。
日本探偵小説史の巨大な空隙を埋める画期的な本全集、
7巻62篇を、皆様ぜひとも味わってください。


【おねがい】

「ほぼ日」の読者のみなさまにおねがいです。
山本周五郎の探偵小説が掲載されている可能性のある
以下の雑誌を探しています。
所有している機関、または個人をご存知の方は、
作品社編集部へご一報ください。

「少年少女譚海」1931年3月号/同7月号〜8月号/
 同10月号/1932年8月号別冊附録
「新少年」1935年8月号頃〜1936年4月号頃/
 1936年7月号〜10月号/1937年2月号〜3月号/
 同6月号/同8月号/同10月号/1939年9月号

作品社編集部へのメールはこちら
sakuhinsha@tssplaza.co.jp


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『山本周五郎探偵小説全集』全6巻+別巻
著者:山本周五郎
編者:末國善己
価格:1〜6巻は各2,940円(税込)
   別巻のみ3,360円(税込)
発行:作品社
ISBN-13: 978-4861821455
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2008-03-25-TUE

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