担当編集者は知っている。


『スプーと死者の森のおばあちゃん
 スプーの日記』(第1巻)

著者:なかひらまい
価格:1,680円(税込)
発行:トランスビュー
ISBN-13: 978-4901510363
【Amazon.co.jpはこちら】


誰も知らない、とある国に住む
スプーという魔術師志願の子を主人公に
その世界で起きる不思議な出来事を
日記形式でブログにつづったところ、
大きな話題に。
この本は、人気ブログから生まれた
ファンタジーです。
著者のなかひらまいさんが主宰する
コンテンツ制作会社STUDIO M.O.G.の
森内さんにお話をうかがいました。
(「ほぼ日」渡辺)

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監修/ STUDIO M.O.G.代表取締役 森内淳


この物語を書いたなかひらまいは、
普段から、宗教・心理・古代史・
人類学・民俗学・精神世界など、
ありとあらゆる文献を読みあさっています。
時には、古書を手に入れるために
相当な時間をかけてネットサーフィンをしています。
それくらい本が好きです。
同時に、『ゲド戦記』
『ゲゲゲの鬼太郎』(正確には『鬼太郎夜話』)、
『新耳袋』の世界をこよなく愛しています。

ただ、自分で物語を書くという発想は
少しもありませんでした。
なにせ、なかひらの本業はイラストなのですから。
だから、『スプーの日記』をブログで書き始めた時も、
本になるなんて思ってもいなかったわけです。
スプーという架空の魔法使いがいて、
その子が日記を書き続けるという設定は
面白いとは思いましたが、
なにせ、ずいぶんと深層心理に
深く入り込んだ内容だったので、
大衆には響かないんじゃないか、と。
そう思っていたわけです。
日記についているイラストも、
今じゃ「キモかわいい」とか
「コワかわいい」とかいうとらえ方がありますが、
これを2005年に書き始めた頃には、
いまほど一般的な概念ではなかったですからね。



ところが、ある日、出版社・トランスビューの
中嶋廣社長から電話があったんです。いわく、
「『スプーの日記』は古くからある妖精とか
 モノノケの幽玄の世界と
 現代的な要素がミックスされていて、
 ひじょうに不思議だ。面白いので本にしたい」と。
そのときはさすがに何かの間違いじゃないか、
と思いました。
なかひらはイラストレーターとしては
いろんなところで活躍していますが、
作家としては無名です。
しかもトランスビューは、
池田晶子さんの『14歳からの哲学』をはじめ、
めちゃくちゃクオリティの高い本しか出していません。
ところが、話はそれだけではありませんでした。
中嶋さんは
「売れなくてもいいから3部作は出したい」と。
まるでキツネにつままれたような話でした。



中嶋さんは、『スプーの日記』の普遍性を
気に入ってくれたみたいです。
たしかにこの物語は、
お手軽なファンタジーではありません。
魔法使いの話なのに、3部作の終わりで
ようやく魔法の杖を手に入れるような話です。
自分自身と、それを取り巻く世界
(家族や友人もふくめて)との関係について、
悩み、葛藤するお話です。
『指輪物語』でフロドが指輪を捨てに行く苦しみが、
『スプーの日記』には、常にともなっています。
しかし、マーケティングの概念から言うと、
今、出版して儲かる本じゃありません。
ところが、中嶋さんはこう言いました。
そもそも出版界では、編集者が気に入った作家に、
売れようが売れまいが何十冊も本を書かせたんだ、と。
やがて時代がマッチするときが来る、と。
そのときには、それまで出した本が全部売れる、と。
『スプーの日記』は、
流行に乗った内容じゃないかもしれないけど、
むしろその方がいい、と。
そうやってこの『スプーの日記』シリーズは、
世に出ることになったんです。
モノノケの本を書いていたら、
本当にモノノケみたいな人に
出会ってしまったわけです(笑)。



出版が決まったあと、なかひらは、本文はもちろん、
イラストもたっぷりと時間をかけて仕上げていきました。
ぼくも編集者として、
かなり突っ込んだ意見を言わせてもらいました。
中嶋さんの方も一切の妥協をしませんでした。
20年でも30年でも読み継がれる本にしたい、
という意志のもと、このシリーズを作り上げました。
また、イラストに関しても、
1巻の『スプーと死者の森のおばあちゃん
ースプーの日記』

異世界の不思議な感覚を表現するために多色刷り、
2巻の『スプーの日記2 暗闇のモンスター』
モヤモヤが立ちこめる話なので黒1色、
3巻の『スプーの日記3 地下鉄の精霊』は、
暗闇からの再生の話なので
黒をベースに特色を使ったりと、
細部までこだわりました。
カバー・デザインも一過性のものじゃ駄目だ、
ということで、
クラフト・エヴィング商會を起用しました。
彼らも多忙なところ、
この本にたくさんの時間をさいてくれました。
だから、『スプーの日記』シリーズは、内容はもちろん、
マテリアルとしても優れた作品になりました。
モノノケの世界がわからなくても、
不思議な絵を眺めてるだけで楽しめる
作品になりました。

これはもう、ブログ時代からは考えられないほど
素晴らしい飛躍です。
作品って成長するんだなあ、と実感しました。
こういうことをやっていると、
だんだんキャラクターが
一人歩きをするようになるんです。
今、STUDIO M.O.G.のウェブサイト
スプーのマンガを連載しているんですが、
このスプーちゃん、たしかに生きてるんです。
もう勝手にセリフを喋って、勝手に行動しちゃう。
つくづく、作品って面白いなあ、と思います。



『スプーの日記』シリーズは、おかげさまで、
精神世界やファンタジーの本質を見抜いている読者には
高い評価をもらっています。
本屋さんでは平積みではなく、
大きな書店の精神世界のコーナーに
ひっそりと置かれているのが現状ですが、
中嶋さんは、口コミだけでじわじわと売れていけばいい、
と言っています。
作家の会社の社長であるぼくにしてみりゃ
ドカンと宣伝してドカンと売れた方がいいに
決まってるんですが、
ここは黙って、中嶋さんのいうことを聞いてます(笑)。
もし、この本を見つけたら、
スプーちゃんと一緒に自分の心の奥へと
旅をしてみてください。

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『スプーと死者の森のおばあちゃん
 スプーの日記』(第1巻)

著者:なかひらまい
価格:1,680円(税込)
発行:トランスビュー
ISBN-13: 978-4901510363
【Amazon.co.jpはこちら】

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メールの題名に本のタイトルを入れて、
postman@1101.comに送ってください。

2008-03-11-TUE

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