担当編集者は知っている。


『歩いて親しむ 街路樹の散歩みち』
著者:多田多恵子
写真:亀田龍吉
価格:1,890円(税込)
発行:山と溪谷社
ISBN-13: 978-4635063111
【Amazon.co.jpはこちら】


この本は、街路樹や植え込み、
生け垣などに使われている身近な植物を、
美しい写真で紹介しているビジュアル本です。
ふだん、買い物や通勤・通学で
なんとなく歩いている道も、
足を止めて、周囲の草木を眺めると
また違った風景が見えてきます。
散歩をさらに楽しくしてくれる、
この本を担当された山と渓谷社の
江種さんにお話をうかがいました。
(「ほぼ日」渡辺)

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担当編集者/
   山と溪谷社・書籍部 江種雅行



私はこれまで図鑑などを多く手がけてきました。
たとえば10年前に作った図鑑に
『日本の海水魚』(山溪カラー名鑑)があります。
724ページの図鑑です。
ダイビングに凝っていた当時、考えついた企画で、
文章、写真、専門家への依頼をたった1人で行いました。
しかし、パソコン操作がわからなかった私が、
1度に70名以上の著者に手配するのは
たいへんな負担だったと記憶しています。
しかし、内容が固まってくるに連れて、
読者より先に具体的な紙面が見られる喜びを
覚えたものです。
特に印刷立会い(印刷所で印刷される前に現場で
色調子を指示する作業)での、
色調整ではほぼ徹夜が10日間も続いたのですが、
カラー刷りが出てくるとわくわくしたものです。

そして、ある日のこと。
通勤に通る町並みを何気なく見ていた景色に、
ふと気がつくと見慣れているはずの
「街路樹」がありました。
この立派なケヤキの樹はいつからあったのだろう。
この樹の実はどのような形をしているのだろう、
花は咲くのだろうか。
この樹に鳥や虫は集まってくるのだろうか‥‥。


▲ケヤキ
 日本在来の樹木であるケヤキは
 街路樹としておなじみ。
 背の高いケヤキの根元には
 ツツジの仲間が植えられ、
 街に彩りを添えています。


そんな思いで町並みの「街路樹」を見ると、
ケヤキのほかにも思った以上に
種類豊富に立ち並んでいることに気付きました。
クスノキ、トチノキ、ハナミズキ、フウ、スズカケノキ、
トウカエデ、アオギリ、サルスベリなどなど。
常緑樹、落葉樹、生け垣の植物や
コニファー(針葉樹)なども目につきます。


▲ハナミズキとコノテガシワ
 背の高いハナミズキと低いコノテガシワが
 交互に植えられています。
 ハナミズキは外来種で最近人気のある樹木です。


「街路樹」の種類を知りたい、
どのような1年を過ごしているのかを知ってみたい。
植物の生活にその戦略があるのかを知りたい。
その時、「自分が知りたい事柄を本にする」、
編集者の性がむくむくとわき上がってきたのです。
まさに「海水魚」のときと同じです。

本にするには、まず植物の姿が
よりリアルに見ることができる白バックの写真
(切り抜きではないが背景を白にしてある)の
組み合わせを使うといい、種類を調べてみよう、
著者は植物生態学の先生に書いていただく、
そうだ、食べることができる「街路樹」も
紹介していきたい‥‥。
このように、おおまかな編集方針を思い浮かべながら、
「街路樹」を意識して見ていると、
四季折々にその姿を変えている変化が見えてきました。
これは本にするべきとの確信から
編集方針を本格的に固めていったのです。


▲スズカケノキと、モミジバスズカケノキは
 混同されやすい‥‥。
 でも見比べてみるとちゃんと違うんです!
 本書は葉の形、実の形などを比較できるよう、
 紙面構成しています。


しかも普通にそうだろうと思っているものほど
特定しにくいのです。
たとえばスズカケノキですが、
街路樹のプレートを見てください。
和名に「スズカケノキ」と書かれていますが、
実はそのほとんどが
「モミジバスズカケノキ」である場合が多いのですよ。
とすれば、実際に生えている樹を見て
固有名を特定するほかないのです。
そうなってくると重要なのは写真です。
写真材料が少なければ
固有名を特定できない場合があります。
名前は、葉の形、樹皮、実など、
複数の材料が揃ってようやく明らかにできるのです。
しかしこれだけの材料を集めるのは至難の業です。
季節という問題もあります。
このような材料不足が著者の多田先生を泣かせて、
執筆を遅らせる原因になってしまいました。



▲スズカケノキ、モミジバスズカケノキ
 違いがわかりますでしょうか。
 葉が深く裂けているのはスズカケノキの葉(上)。
 モミジバスズカケノキの葉(下)は
 それに比べて裂け方が浅いのです。


また、写真素材もなかなか集まらず、
1年が過ぎ、2年が過ぎ、
なんとか写真素材と文章原稿が最終的に揃ったのは、
なんと発売の1ヵ月半前だったのです。
このような間際の写真変更は、
これまでにレイアウト変更を繰りかえしてきた
「罪」なのか、時間の余裕がないことからか‥‥。
デザイナーの了承を得て、
編集者である自分が幾晩も徹夜して
調整していくしか方法がありませんでした。
今にして思うに、この本の編集の難しさは、
いかに写真素材をビジュアルに組み立てるか、
それにどのように文章を調整するかにありました。
しかも、膨大なデジタル写真原稿から選び
これらを組み合わせること、
この作業は至難の業が必要だったように思います。
ともあれ、「街路樹」という身近な植物を、
この図鑑がより鮮明に紹介できたと思いますし、
ほかの図鑑にはない内容で構成できたのではないか
と思っています。

以上のような流れで出来上がったのが、
街の休日『街路樹の散歩みち』。
日常生活に、「歩いて親しむこと」を
コンセプトに考えた本です。
普段、何気なく通り過ぎている街路を、
意味のある時間「豊かな心の生活」に導くことを
目指したビジュアルな「大人の絵本」でもあります。

街路樹に、「これだけの美しさ」
「これだけの四季の変化」があること、
あわせて「植物たちの生き抜く戦略や生態」
などを紹介しています。
街路樹、公園樹、生け垣、コニファー(針葉樹)など、
じつは身近にこれだけの植物があるということを
読者の皆さんに知っていただき、
楽しんでいただけたらと願っています。

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『歩いて親しむ 街路樹の散歩みち』
著者:多田多恵子
写真:亀田龍吉
価格:1,890円(税込)
発行:山と溪谷社
ISBN-13: 978-4635063111
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メールの題名に本のタイトルを入れて、
postman@1101.comに送ってください。

2008-03-04-TUE

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