担当編集者は知っている。


『スノーフレーク』
著者:ケネス・リブレクト
写真:パトリシア・ラスムッセン
価格:2,730円(税込)
発行:山と溪谷社
ISBN-13: 978-4635680110
【Amazon.co.jpはこちら】

雪の結晶はひとつひとつが
すべて違うかたちをしています。
本書は雪の結晶が生まれる過程や、
美しい様々なかたちとその成り立ち、
雪が白い理由など、
雪にまつわる謎を探った本です。
たくさん紹介されている美しい雪の結晶の写真と、
「樹枝十二花」「星状結晶」「中空角柱」
「雲粒付六花」などの雪の種類の名称を
眺めているだけでもわくわくします。
この本を担当された山と渓谷社の
神谷さんにお話をうかがいました。
(「ほぼ日」渡辺)

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担当編集者/
   山と溪谷社 書籍部 神谷有二



東京にも雪が降りましたね。
雪国の人たちには申し訳ないのですが、
やっぱり雪が降るとわくわくします。

あの朝、わたしはフリースの手袋をして、
ルーペを持って、雪が降りしきるなか外に出ました。


▲これは僕がいつも持ち歩いているルーペです。



フリースに雪がのると、すぐには解けず、
しばし雪結晶を観察することができます。
ルーペを見ると、
小さなつぶつぶがびっしりついた雪結晶が。

ほほう、これは濃密雲粒付結晶か。
結晶ができたあとに、濃い雲を抜けてきたのだな‥‥。

ふふふ、かっこよくないですか、ちょっと。
こんなことが分かるようになったのは、
『スノーフレーク』のおかげ。

この本は、2003年にアメリカで出版された
『THE SNOWFLAKE Winter's Secret Beauty』の
翻訳本です。わたしが担当して、
昨シーズンの冬に出版しました。



雪結晶の不思議を紹介したサイエンス本で、
研究の歴史や雪結晶のでき方、
種類などを解説しています。
第4章は、雪結晶研究の先駆者、
中谷宇吉郎博士の話に当てられ、
彼の業績をわかりやすく紹介してあり、
日本人としてはうれしいところです。

ただ、サイエンス本とはいっても、
書店さんによっては、
写真集の棚においていただいているように、
写真がとても美しく、
それだけでも楽しめる1冊になっています。



原著との出会いは、ある年の初冬の洋書店でした。
まさにひと目ぼれ。
見たこともないような、美しい雪結晶の写真。
ページをめくるたびに現れる、さまざまのかたち。
「これは日本語版を出版せねば!」とその場で決意し、
即、購入して、翌日には海外事業部に持ち込みました。

そこからエージェントに
日本語出版の状況を問い合わせると、
某出版社と競合状態にあることが判明。
しかも、誰もが認める児童書ナンバーワン出版社。
ぐぐぐ、大人向けの本なのに、
負けてたまるか状態でした。

どうも海外事業部の担当者は、
その状況に燃えたようで、先方と交渉を進め、
「取ったゼ!」と意気揚々と連絡してきました。

こちらは、
「えっ? まだ社内の企画が通ってないですけど‥‥」
という状態で‥‥。



翻訳の本には、翻訳もの特有の、
普通の企画とはまた違った大変さがあります。
でも、そもそも、先方には話が
「通っちゃった」わけですし‥‥。
多少、紆余曲折は経るわけですが、
とにかく汗をかきかき、
なんとか企画がGOになったわけです。

最終的には、日本マーケットでの販売を考え、
原著から、本のサイズをやや小さくリサイズして、
本文の用紙を変え、全体にやわらかく、
かわいらしい雰囲気を出すことにしました。



正直、わたしは英語が得意ではないので、
はじめはテキストが多いなあ
としか思っていませんでした。
でも、翻訳者からあがってくる日本語を読むと、
著者の雪結晶に対する愛と
科学に対する真摯な姿勢に感動しました。

自分の吐く息が、
めぐりめぐって雪になって降ってくる話とか、
雪結晶のかたちは科学的に見てもほぼ無限であるとか、
話は確かに科学的なのですが、
自然に対する謙虚さ‥‥、
裏返せば科学というものに対する謙虚さを、
著者は明確にもっているのです。

ちょうど、雪結晶の生成をめぐって、
エセ科学問題が話題となっているときでした。
優しい声をかけると、きれいな雪結晶ができる‥‥
というやつです。

もちろん著者は自身のサイト
明確に否定しているのですが、
少なくともこの本を読むだけでも、
それが自然を冒涜しているに等しいことだ
と思いました。

自然の美しさは、
科学で解き明かされるものではありません。
でも、科学が自然の美しさを
損なうわけでもありません。
逆に、より深淵で計り知れない
自然の姿を浮き彫りにします。

著者は、ときに冷徹な科学者の目で、
また、ときには
子どものころの感動を忘れない少年の目で、
雪結晶と向き合っているのです。
研究対象に対する感動を忘れない科学者って、
すてきだなと素朴に思いました。



はるか空の彼方でできた雪結晶は、
地上に降りてくる間に
さまざまな温度、湿度を経験し、
無限のかたちとなって、
わたしたちの前に現れます。

「雪は空からの手紙である」という言葉は、
この本でも紹介されている中谷博士の名言です。

なにげなく見ている雪を、そんな視点で見ると、
いちだんと、そのはかなさと美しさに心を打たれます。

この本は、そんなことを教えてくれました。
雪が、いちだんと待ち遠しくなりますよ。

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『スノーフレーク』
著者:ケネス・リブレクト
写真:パトリシア・ラスムッセン
価格:2,730円(税込)
発行:山と溪谷社
ISBN-13: 978-4635680110
【Amazon.co.jpはこちら】

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2008-02-05-TUE

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