担当編集者は知っている。


『風に顔をあげて』
著者:平安寿子
価格:1,470円(税込)
発行:角川書店
ISBN-13: 978-4048738125
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長年、フリーライターとして活躍されてきた
著者の平安寿子(たいらあすこ)さんは、
あるとき、アン・タイラーの作品に触発されて、
小説を書きはじめ、
初の単行本を刊行されたのは、
40代の後半だったという作家さんです。
みずみずしい、軽妙な語り口で、
人の心の機微をきめ細やかに描き、
生きていくことのつらさやよろこびを
実感させてくれるこの本を
担当された角川書店の津々見さんに
お話をうかがいました。
(「ほぼ日」渡辺)

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担当編集者/
  角川書店 第一編集部 津々見潤子



25歳。微妙です。

職場にどんどん若い子が入ってきて
「かわいい役」はもう張れなくなってきているのに、
まだまだ責任ある仕事を任されるわけでもない。

10代の頃に持っていた夢を見続けられるほど
純粋でもないし、かといって
くたびれた中年の仲間入りもできない。

自分が遠くその時代を離れていても、
あの頃の息苦しさや閉塞感は、
今なおリアルに思い描けるものです。

25歳に限らなくても、なんとなくあてが外れて、
ままならない人生に先が見えなくなった時‥‥。
誰にでも訪れるそんな時に、
本当に心の支えや光を与えてくれるのは、
ハウツーものや自己啓発の本ではなくて、
小説なんだなあ、としみじみ再発見したのが、
本書の原稿を最初に受け取った時でした。

人生の微妙な岐路に立ち、悩む本書の主人公・風実は
自称プロのフリーター。
自分ではちゃんとバイトをがんばってるからオッケー、
と思っていたのに、同僚の高校生から
「その年でフリーターって不安じゃないですか?」
と言われてしまって大ショック! 
25歳で定職がないと、いかにもヤバイ感じ?
自称ボクサーの彼は、
年下に強烈なパンチをくらって
ノックアウトされてからは、
もうボクシングなんてやめると言い出す始末。
おまけに、夜中に部屋に転がり込んできた弟からは、
ゲイだとカミングアウトされて、
もう風実の周囲は大変なことに‥‥。

がんばる女子を主人公にした物語を書きましょう、
という合い言葉で始まったこの書き下ろし長編は、
最初に原稿を依頼した編集者が
異動した後も書き続けられ、
長い時間を経てようやく完成しました。

著者の平安寿子さんは、デビュー以来一貫して
悩める女性が壁にぶつかりながらも、
その先に進んでいく姿を描いてきた作家さん。
独特のリズムがあって
ユーモアたっぷりの文章で人気です。
そして、ずーっと
私の大好きな作家さんでもありました。
好きな作家さんの書き下ろしの原稿がとれる。
編集者にとって、これにまさる喜びはありません。
夢、というか恋がひとつ叶ったような興奮です。

最初にこの原稿を読んだ時は驚きでした。

「これは、もはやがんばる女子の物語ではない」

という感じです。
「女子」どころか、本書の中には、
なんだか大変なことになっている人たちがいっぱい!

高校卒業を前に自分のアイデンティティに悩む弟・幹や、
来年27歳になるのにまだ夢を追っている英一、
38歳で部長に抜擢されながらも
予想外の激務に自分を見失う小池さんをはじめ、
一人で娘を育て上げた55歳の仕事人・三益さんや、
屋台レストランを経営する42歳と35歳の林さん夫婦、
キャバクラで働く女性の子供を預かる
順子、美里母娘(74歳と55歳)、
そして幼い風実たち姉弟を捨てて出て行ったきりの父と、
いまだにその父に執着する母まで、
さまざまな世代の人たちが
さまざまな悩みを抱えながら四苦八苦する、
壮大な物語になりました。

装画はヒロミチイトさん。
これまた、私がずーっとお仕事をご一緒したい
と思っていたイラストレーターさんです。
単行本のカバーを飾るのは、これが初めてとなりました。
これまた、長年の恋が叶った感じと言いましょうか。
こんなふうに書くと、
編集者の仕事は、恋が必ず叶う魔法使いのようですね。
絵を実際にスケッチされたのは
東京・有栖川宮記念公園だそうです。

装丁の高柳雅人さんが、
スコーンと抜けた空に
さーっと風が吹き抜けていくような、
奥行きのあるデザインにしてくれました。

自分の悩みで頭がいっぱいの時は、
周囲のことなど見えなくなりがちですが、
おもしろい本を読んでしばし現実から遠く離れて、
笑ったり泣いたりしたあとに、
心にほっこり灯がともるような気持ちになる――。
本書は、そんな「小説の力」を感じられる作品です。

ぜひ、手にとって読んでみてください。

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『風に顔をあげて』
著者:平安寿子
価格:1,470円(税込)
発行:角川書店
ISBN-13: 978-4048738125
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担当編集者さんへの激励や感想などは、
メールの題名に本のタイトルを入れて、
postman@1101.comに送ってください。

2008-01-11-FRI

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