担当編集者は知っている。


『クラシックでわかる世界史』
著者:西原稔
価格:2,520円(税込)
発行:アルテスパブリッシング
ISBN-13: 978-4903951010
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ハプスブルグ家の結婚政策がオペラを発展させた?
ヴィヴァルディは皇帝に協奏曲と機密情報を提供した?
フリーメイソンとモーツァルトの関係とは?
‥‥宗教改革から第一次世界大戦終結までの
激動のヨーロッパを音楽家たちは
どう生き抜いたか?
著者は桐朋学園大学音楽学部教授の西原稔さん。
NHKの番組「ぴあのピア」の監修もされています。
この本を担当されたアルテスパブリッシングの
木村さんにお話をうかがいました。
(「ほぼ日」渡辺)

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担当編集者/
  アルテスパブリッシング 木村元



 1733年、バッハはザクセン選帝侯に
 《ロ短調ミサ曲》を献呈した。
 ルターが宗教改革を開始した聖地ザクセンの君主に
 敬虔なルター派信徒の彼がなぜ、
 カトリックのミサ曲を捧げたのか──


『クラシックでわかる世界史』のオビの文句を
どうしようかと、ない知恵をしぼっていたときに生まれた
無数の「案」のひとつです。
キャッチコピーにしては専門的なことばが多すぎるし、
なんか回りくどくてよろしくありませんね。
とうぜんボツになったわけですが、
いまあらためてひっぱりだしてみると、
「音楽書」というものの面白さを
表しているようにも思います。

内田樹著『村上春樹にご用心』を皮切りに
出版活動を開始した「アルテスパブリッシング」ですが、
そもそも社是というかモットーは
「音楽を愛する人のための出版社」です。
ともに代表をつとめる鈴木茂とわたくし木村は、
ふたりとも音楽専門出版社の出身。

音楽って、ことばにできるものなの? 
音楽と出版って、そもそも相容れないものなんじゃない?
──前の職場にいたときから、
いつも自問自答してきたテーマです。
編集者であるまえに音楽ファンだという意識の強い
わたしたちにとっては、
音楽の魅力そのものをことばで表現することなんか、
どだい不可能だという厳然たる事実から
すべてを始めなければなりません。
音楽は聴くもの。知識なんか必要ない。
いやむしろよけいな先入観にとらわれず、
虚心で聴きなさい──よくいわれることですよね。
それもまた真なり、と畏敬の念をもって
深くうなずいてしまう自分もいるのは事実です。

さて、冒頭のボツになったキャッチコピーですが、
「ロ短調ミサ曲」といえば、「バッハの最高傑作」
「バロック音楽の精華」「クラシック音楽の最高峰」
などなど、美術でいえばダ・ヴィンチの
「モナリザ」などと同じく、
つねに最大級の賛辞とともに語られる名作中の名作です。
そんな名作を前に、こざかしいウンチクなど必要なし! 
と言い切ってしまっても、もちろんいいのですが、
バッハとて人の子、時代の子。
われわれ現代人と造りはそんなに変わらないはずの
一個の人間が、どうしてそんなものすごい作品を
作りあげることができたのか、
彼をしてこの名曲を作らせた動因は
いったいなんだったのか──
そういうことを問うてみることに
まったく意味がないとも思われません。

ここで少しお勉強。
キリスト教は、大きくカトリックと
プロテスタントに分けられます。
バッハ(1685-1750)のちょうど200年前に
ドイツのザクセンで活躍した
マルティン・ルター(1483-1546)というひとが、
ローマ教会(=カトリック)の改革を唱えて破門され、
ザクセン選帝侯の庇護を受けながら
独自の教義にもとづく新たな教会をうちたてたのが、
プロテスタントのはじまりです。
そしてバッハは敬虔なルター派、
つまりプロテスタント信者でした。

「ミサ曲」というのは
カトリックでおこなわれる典礼の、
ここぞという場面で歌われる歌をまとめたもの。
だから「ミサ曲」といえば、ほとんどの場合、
カトリックの音楽と考えられます。
プロテスタントでそれに相当するのは、
讃美歌とかコラールとかよばれる音楽です。
聖歌隊が天国の恩寵のごとく
信者の頭上から響かせるミサ曲に対して、
信者みずからが力強く歌うコラール、
といえばイメージをもっていただけるでしょうか。
ルター自身が数多くのコラールを自作したこと、
バッハの音楽にもその伝統が色濃く流れていることは、
よく知られているところです。

そんな敬虔なプロテスタント信者だったバッハが、
どうしてカトリックの音楽であるミサ曲を
作らなければならなかったのか。
そしてその曲を、こともあろうに
ルター派の聖地といってもいい
ザクセンの君主フリードリヒ・アウグスト2世に
捧げたのはなぜか?

この謎解きの続きはぜひ、
本を読んでお確かめいただくとして、つまり
「知識を頭に詰めこんで音楽を聴いても、
 音楽の魅力はわからない」と言い切ってしまうか、
「いままで知らなかった知識を得ることで、
 作曲家の人間性や時代背景がわかり、
 それまでに気づかなかった
 その音楽の別の一面が見えてくる」と考えるか──
もちろん、わが社としては、後者を強くお薦めしたい、
と考えるわけです。
音楽の楽しみがより広がり深まって、
ハッピーな音楽生活を送れるような気がしませんか?

『クラシックでわかる世界史』には、上記のような
作曲家や作品にまつわるエピソードが満載されていて、
それが西洋史(一部、日本も含む)の重要な事件と
関連して解説されることで、
音楽の歴史と世界の歴史をいっしょに
学ぶことができる読み物となっています。
とはいっても、
たんなる知識やエピソードの羅列ではなく、
もう一歩踏みこんで、
その音楽のどこが素晴らしいか、
作曲家はどんな思いでその作品を書いたのか
といった部分にまで、
大胆に光を当てているのが魅力です。

著者は桐朋学園大学教授で音楽学者の西原稔さん。
「音楽史を書いていただきたいのですが、
 まず企画書のもとになるような
 構成案をいただけませんか?」とお願いして、
1カ月後に大学を訪ねたら、
「できました!」と本1冊分の原稿を手渡された‥‥
というような仰天エピソードにも事欠かない方ですが、
お会いするたびに
「○○を調べていたら、こんな発見がありました!」
と目を輝かせて教えてくださる、
音楽大好き、勉強大好きおじさんでもあります。
西原さんを見ていると、そしてその文章を読んでいると、
さきに触れた「音楽とのハッピーな付き合い方」の
一典型を見るような気がするのです。

さて、冒頭でご紹介したオビのキャッチコピー、
けっきょくはこうなりました。

 ルターの宗教改革から第一次世界大戦終結まで
 激動のヨーロッパを生き抜いた作曲家たちは
 時代の真実を音楽に刻み込んでいった──

 名曲が生まれるとき、
 歴史は動く。


最後の2行は「歌は世につれ」というのに
近いかもしれません。
でも、あえて「歴史が動くとき、名曲が生まれる。」と
しなかったのは、
ひとりの作曲家が時代を超える名曲を生み出す
ということは、
世界史の大事件にも匹敵する偉大な出来事なのだ、
ということを強調したかったからです。

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『クラシックでわかる世界史』
著者:西原稔
価格:2,520円(税込)
発行:アルテスパブリッシング
ISBN-13: 978-4903951010
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担当編集者さんへの激励や感想などは、
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postman@1101.comに送ってください。

2007-12-11-TUE

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