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| 担当編集者は知っている。 |
本書は内田樹さんによる「村上春樹論」。 内田さんがいままで村上さんについて ブログなどで書き綴られた文章を 大幅に加筆修正したものです。 特に、なぜ村上春樹小説は 多くの日本の文芸評論家から 無視されたり、嫌われたりするのか? について論じているところは、 たいへん腑に落ちて、痛快です! 「作家」と「批評家」の資質の違いや、 いい作品とは? いい評論とは? まで、わかりやすく論じるこの本を、 担当されたアルテスパブリッシングの 鈴木さんにお話をうかがいました。 本書は、創立されたばかりの アルテスパブリッシングの出版第1冊目の 記念すべき本でもあります。 (「ほぼ日」渡辺) ****************************************** 担当編集者/ アルテスパブリッシング 鈴木茂 内田樹さんの新著『村上春樹にご用心』は、 この4月に設立したわがアルテスパブリッシングの 刊行第1弾となるできたてほやほやの新刊です。 たいへん反応が良いため発売前に3千部増刷という、 まずは順調なスタートを切ることができました。 先月は内田さんが第6回小林秀雄賞を受賞されるという おめでたい出来事もあり、担当編集者として お祝いの席にも参加させていただきました。 そこで会う人ごとに訊かれたのが、 「どうして内田さんの本を出せたの?」。 音楽の本を作ってきた とくに内田さんとご縁のなかった編集者がなぜ? ‥‥と不思議に思われたのも無理はありません。 ここで恐るべき誕生秘話でもあると盛り上がるのですが、 残念ながら特別な秘策があったわけでも 奥の手を使ったわけでもなんでもないんです。 『ためらいの倫理学』、『街場の現代思想』などに触れて、 橋本治以来の知性として尊敬していた内田樹さんって、 いったいどんな人なんだろう? どんな声でどんなふうに話すんだろう? というまったくのミーハー根性から 平川克美さんとのトークショーに 出かけたのが始まりでした。 四方八方に話題の広がるトークを楽しんだあと、 その場で初めてご挨拶。 数日後、トークショーに同行した同僚の船山から おそるおそる 「村上春樹論集を出させていただけませんか?」と オファーしてみたところ、 「いいですよ〜」というメールが 拍子抜けするほどあっさり届きました。 と、いきさつはそれだけなのですが、 なにしろ当時アルテスパブリッシングは まだ世の中に存在していませんでした。 しかもぼくらの編集者としての力量やセンス、資金力、 宣伝力、なにもかも内田さんはご存じありません。 それなのに並みいる大出版社をさしおいて、 大事な原稿を預けてくださるとは! あとで伺ったところ、 「若い人の新しい船出の力になりたい」という お気持ちからのことだそうで (ぼくはもう四十路半ばを過ぎてますが)。 極小版元に大きなチャンスを与えてくださった 内田さんにはいくら感謝してもしきれません。 「内田さんの本が作れる!」と喜び勇んで さっそく過去のブログをすべて洗い出し、 取捨選択に頭を悩ませていると、 内田さんからも、雑誌の依頼に応じて書かれたテキスト (「朝ご飯の物語論的機能」 「ふるさとは遠きにありて思ふもの」など)が 次々に送られてきます。 選びだしたテキストを 5つのパートにわけて構成し直して 全部を順番に貼り付けた第1稿をお送りすると、 またまた思いがけないほど早く、 「できました」といきなり完成原稿が送られてきました。 翌朝早く東京を発ち、 神戸女学院大学を訪ねる予定でしたが、 興奮してしまって、結局ほとんど眠らずに 読みふけってしまったことは言うまでもありません。 白状してしまうと、 満足のいく目次案ができたとはいえ、 はたしてこれで1冊の本として 成り立っているのだろうか? という不安がなかったわけではありません。 ところがところが、さすが内田さんです。 はやる気持ちを抑えながら読み進めていくと、 この本の肝のひとつと考えていた 「倍音的エクリチュール」をはじめ、 「冬ソナと村上春樹」、 「100パーセントの女の子とウェーバー的直感について」 といった刺激的な論考が、 元となったブログの何倍もの長さと密度をもって 見事に生まれ変わっているのです。 とりわけ感動したのが 「倍音的エクリチュール」と 「太宰治と村上春樹」です。 後者は、ありがちなストーリーの意味解釈や 主題の探求などではなく、 作家が創作を通じて行なっている 繊細なコミュニケーション技術を ズバリ解明してくれていますし、 また、音楽と同じように 文学がからだで体験するものであることを 「倍音」というキーワードを軸に解き明かした前者は、 まさに目が覚めるような鮮烈な論考でした。 「音楽を愛する人のための出版社」を 目指している僕らにとって、 これは願ってもない嬉しいプレゼントでもありました。 これで本の核が見えた! あとはタイトルと章の順番をすこしだけいじればOK! 不安は確信に変わりました。 さあ、となると問題はタイトルと装丁です。 最初に内田さんから提示されたタイトル案は 『雪かきくん、世界を救う 私的・村上春樹論』。 なんのことだかわかりづらいし、 できればメイン・タイトルに村上春樹を入れたいなあ。 こちらからもいくつか提案しましたが、 どれも却下されて「決めました」と送られてきたのが 『村上春樹にご用心』だった、というわけです。 ご自身のブログの紹介文にも書かれているとおり、 これは大瀧詠一の曲名からとったもの。 なんともキャッチーで微妙に 意味不明なところがまたすばらしい! ここでもまた内田さんに脱帽です。 僕たちはいっぽうで「雪かきくん」のイメージを とても気に入っていました (「文化的雪かき仕事」の雪かきです。 村上文学をお好きな方ならお分かりですよね)。 雪かきくんのイラストを入れたい! いままでの内田本にはなかった ポップでキュートな装丁にしたい! イメージだけは膨らみますが、 でも「ご用心」と「雪かき」って ぜんぜん結びつかない‥‥ う〜〜〜〜〜ん‥‥ デザイナーの岩郷重力さんと頭を捻り続けました。 そして‥‥ フジモトマサルさんに すばらしいイラストをかいていただき、 あれやこれやの試行錯誤の末にできあがったのが、 このカヴァー、この帯、このコピー、このデザインです。 ![]() あんまり素敵な装丁ができたのが嬉しくて、 雪かきくんをあしらった 特製しおりまで作っちゃいました(お金かかるのに)。 ![]() それにしても、一度の催促すらしなかったというのに こんなに面白くて深くてためになる本が できあがってしまっていいんでしょうか? 村上文学の理解として これほどストンと腑に落ちたものはありませんし、 文学というものがもたらしてくれる体験の 本質を、これほどスリリングに 説得力をもって解明している本をぼくは知りません。 読んでいると、村上春樹の作品を 次々にもう一度読み直したくなってたまらなくなります。 それだけではなく、ほかの作家の作品もこれまでとは ちがった意味と質をもって再度楽しむことができそうで、 いてもたってもいられなくなります。 いやいや文学だけではなく音楽までもが、 きっと新しい表情を見せてくれそうです。 発売からまだ2週間ほどしか経っていませんが、 すでにブログやmixiなどで多くの方が、 「ウチダ流ハルキ文学の読み方」への 感動や驚きを語ってくださっています。 ところで先週発表された2007年ノーベル文学賞。 残念ながら村上春樹さんの受賞はなりませんでした。 じつはこの本の巻頭には、 1年前に内田さんが予定稿として 書いたまま埋もれていた幻の受賞祝辞を収録しています。 この気の早い祝辞がいつの日かバーチャルではなく リアルなものになることを祈りつつ、 それまでは内田さんにガイドをお願いして、 村上文学をもう一度味わいなおしてみませんか? ******************************************
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2007-10-16-TUE
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