担当編集者は知っている。


『あの戦争から遠く離れて
 ―私につながる歴史をたどる旅』

著者:城戸久枝
価格:1,680円(税込)
発行:情報センター出版局
ISBN-13: 978-4795847422
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1970年、日中国交断絶中の文化大革命のさなかに
中国から自力で帰国した
中国残留孤児のお父さんを持つ31歳の城戸さん。
クラスメートからは
「久枝ちゃんのお父さんは中国人なの?」と問われ、
中国残留孤児二世からは「ただの日本人」と見なされる
あいまいな自分のアイデンティティを探そう
と思った著者が、
お父さんの激動の半生を10年かけて取材し、
まとめたノンフィクションです。
ドラマチックなお父さんの半生にハラハラドキドキし、
父と子の絆の強さに心打たれます。
この本を担当された情報センター出版局の
田代さんと神成さんにお話をうかがいました。
(「ほぼ日」渡辺)

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担当編集者/
情報センター出版局 編集部 田代靖久



うおおっ。こりゃ凄い――
初めてお会いした、2006年3月のある日、
城戸久枝さんのお話をうかがっての第一印象でした。
私が担当したある作家の出版を祝うオフ会でのことです。
以前からその作家の方に、
日本生まれの中国残留孤児二世で
ノンフィクション・ライターをしている
知り合いの女性がいるので
ぜひとも会って欲しい、と言われていたのですが、
なかなかお目にかかる機会がないまま、
1年近くが過ぎてしまっていました。

初対面のその日。
名刺交換をして、二言三言ことばを交わし、
その後、2次会の会場に席を移してから
隣に座って彼女の話をじっくり聞いていくと、
「うわわっ。凄いじゃないですか!」(←心の声です)
という話のオンパレード。ぶっとびました。
いわく‥‥
「父は1970年に帰国した中国残留孤児」
(え、たしか残留孤児の帰国が本格的に始まって
 大きな話題になっていたのは80年代でしたよね‥‥)
「帰国したのは28歳の時、文化大革命のさなかでした」
(え、え、あの『ワイルド・スワン』の時代ですか!?)
「父は自分の力で身元を探し出して帰国したんです」
(え、え、え、それってつまり、歴史上、実質的な、
 残留孤児の帰国者第一号ということなのでは‥‥??)
以下略。


▲著者の父・城戸幹(中国名・孫玉福)氏の
 小学校卒業写真


驚きました。
私は、中国残留孤児の問題について、
特別な興味があったわけではなく、
新聞やテレビで知る以上の知識もありませんでした。
なので城戸さんにお会いする前は、
城戸さんには失礼ながら、
それほど大きな期待はしていなかったのです。
ちょうど中国残留孤児たちを原告とした
国家賠償訴訟が全国で進行中ではありましたが、
きっと地味なテーマの企画なのだろうなぁ‥‥
という先入観があったのですね。

ところがどっこい。
そんな先入観は気持ちよく裏切られました。
城戸さんの口から語られるお父上の物語の断片は、
じつにエキサイティングかつドラマチック。
まさに“運命のドラマ”というほかありません。
こんな凄い「物語」が、これまで
ほとんど一切世の中に伝えられてこなかった、
というその事実に興奮しました。
しかも城戸さん自身が、
中国留学も経験していて、中国語もペラペラ。
すでに10年近くそのテーマを追いかけている
というのですから、熱いです。骨太です。
書き手としての「芯」があります。
これはもう何がどうあっても本にするしかありません。
「そんな人の書いたそんな熱い本が読みたいっ!」
強くそう思わずにはいられなかったのです。
私はそれまでに、ノンフィクションを中心に
100冊近い書籍の編集に携わってきていましたが、
じつに久方ぶりに、そしてなかば衝動的に、
編集者としての血が騒ぐのを感じました。
タマラナイ瞬間です。

ひとしきりお話をうかがったあと、
「ふむふむ。面白いですね‥‥じつに面白いです。
 んー。ぜひもっと詳しい話を聞きたいですね」
などと、つとめて冷静なふうを装いながら、
(ぐふふ。これは凄いノンフィクションになるぞ‥‥)
と、密かに確信していました。
では、早速、日をあらためて打合せをしましょう。
そう言って、間髪をいれず
次回の打合せのアポをとったことは
言うまでもありません。
こうしてこの本の製作がスタートしました。

ところで、
「ほぼ日」の読者のみなさんは
お若い方が多いと思いますので、
ここで少し説明させていただきたいと思います。
昭和のはじめ、日本は
満州(いまの中国東北地方)への移民を
国の政策として進めました。
満州に渡った開拓移民の数は昭和20年の終戦までに
およそ32万人にもおよびます。
そして終戦前後の混乱の中、
日本から遠く離れた満州の地で、
親と生き別れたり、死に別れたりした
日本人の子供が大勢いました。
運良く生き延びることができた彼らは、多く、
現地の中国人にもらわれて育てられることになります。
(孤児の中には、城戸さんのお父上のように
 軍人の家族として彼の地に生まれた子供もいました)


▲著者の祖父・城戸弥三郎氏と
 幼少の父・幹氏(満州にて)


その後、1958年に日本と中国は
全面的に国交が断絶してしまい、
引揚船等の人道的な交流もなくなりました。
そして中国では、
1960年代の後半から70年代のなかばにかけて、
悪名高い「文化大革命」の嵐が吹き荒れます。
中国に残された孤児たちの
日本への帰国が可能となるのは、
1972年に日中の国交が正常化してから
さらに10年近くがたち、
文化大革命も終わった1980年代のことです。

‥‥という歴史の大きな流れを前提にしてみると、
この本で記された、城戸さんのお父上の物語が、
どれほど信じがたい体験なのかがわかります。


▲著者の父と父の養母

厚生省(当時)による
中国残留孤児の身元探しが始まる
はるか前の1970年、
国交が断絶していた中国から、
文化大革命の混乱を乗り越えて、
ほぼ自力で身元を探し出し
独力で帰国した日本人戦争孤児。
それが城戸さんのお父上でした。
もちろん、そんな奇跡のような体験をして
日本に帰ってきた中国残留孤児は、
あとにも先にも城戸さんのお父上だけです。


▲城戸幹(中国名・孫玉福)氏の青年時代(写真中央)

刊行が決まって原稿を書き始めていただくと、
さらにうれしい驚きがありました。
文章の神はディテールに宿る、とはよく言われますが、
自分の父親のこととはいえ、
よくここまで調べたなぁ‥‥(嘆息)
というほどの精緻な筆致で、
日本と中国、2つの国の間で強く生き抜いた
若き日のお父上の物語が綴られていたのです。
10年という時間のかけ方はダテではありませんでした。

私はぐいぐいと原稿に引き込まれていきました。
城戸さんのお父上の稀有な体験が、
戦中戦後から文化大革命に至るまでの
現代中国の様子とともに、
じつに生き生きと活写されていました。
異国に残されたひとりの日本人戦争孤児が、
さまざまな苦難を乗り越えて、人間として成長していく
その姿は、まさに“ビルドゥングスロマン”です。
まるで小説を読んでいるかのような感覚で
一気に読み進めることができる、
とてもストーリー性の強い
ノンフィクションの誕生を確信しました。
中国残留孤児をテーマにした本としては
山崎豊子氏のベストセラー小説『大地の子』
有名ですが、まさに、あの本に優るとも劣らない
リアルな感動の物語が立ち現われてきたのです。

さて、ここまでの説明で、
ようやくこの本の面白さを
半分だけお伝えしたことになります。
というのも、この本は、
中国残留孤児だった父親の数奇な運命を描いた
人物ノンフィクションであるとともに、
日本で生まれ育ったひとりの
中国残留孤児二世である女性が、
父親の生きた足跡をたどる自分自身の姿をも描いた、
いまを生きる父と娘の「絆」の物語でもあるからです。


▲著者と父、近影

現在31歳の城戸さんは、大学4年のときに
中国東北地方の吉林大学に留学。
父親の育った牡丹江という土地で、
血のつながらない親戚や父親の知人たちと出会い、
父親の残した人間関係にどっぷりと浸っていきました。
二世といっても日本で生まれ日本で育った
ごく普通の大学生だった彼女は、
歴史というものについて
特別に関心が深かったわけではありません。
それでも、異文化の激しい「反日」感情の中で、
歴史に翻弄された父親の半生をたどるうちに、
「あぁ、歴史って、教科書のなかにある、
 自分と関係ない遠い世界のことではないんだ」
ということに自覚的になっていきました。
そして、父の生きてきた歴史があって、
自分がここにこうして存在するという
かけがえのない人生の不思議に胸を打たれます。

2年間の留学からの帰国後は、
自在に操る中国語を武器に
国家賠償訴訟原告の孤児たちと交流を重ねるとともに、
少しずつ、時間をかけて父親本人にも取材を進め、
執筆のための準備を進めていきました。
本書の後半、第2部では、
そうして父親の生き方を次第に理解していく
等身大の彼女自身の姿を描いています。
戦争の“被害者”である“残留孤児だった父”と、
戦争の“加害者”だとされる“軍人だった祖父”――
そのふたりの存在の間で、戦争のもたらす運命、
自分自身につながっていく家族の歴史、
というものについて考えていきます。

これを読んでいる「ほぼ日」の読者のみなさんは、
ご自分の父親、母親の生きてきた人生について、
どれくらいのことを知っていらっしゃるでしょうか。
この本を書いた城戸さんの場合、
父親が残留孤児だったという特殊性はありますが、
人生の中のいつかのタイミングで、
自分の親のことを知りたいと思う気持ちは
いつの時代も、誰にとっても、
普遍的なものではないかと思っています。
親と子が真正面から向き合うことが
なんとなく気恥ずかしく感じられるような風潮のいま、
この本に記された、親と子の「絆」の物語が、
より多くの読者の方に読まれることを願ってやみません。



情報センター出版局 営業部 神成好彦

私は営業部の者なのですが、
私もどうしてもこの本についてお伝えしたくて、
ひとこと書かせていただくことにしました。

他に言いようがないのですが、
この本は心から、本当に凄い本だと確信しています。
私はこの本を没頭して読み進めながら、
ノンフィクションだとわかりながらも、
ふと何度も「これは現実に起きたことだ」
と確認していました。
そのくらい、内容が濃く、
ドラマチックで一気読みしてしまう本です。

そして読み終えた今、本書のサブタイトル
「私につながる歴史をたどる旅」の「私」とは、
実は、読み手ひとりひとりの
“読んでいる自分”につながる歴史をたどる旅、
だと気づきます。

この本を、できる限りたくさんの方に
読んでいただくことが
私の義務である、とさえ思っています。
なんたって、面白いからです!
(私は営業ですが、普通は
 ここまで言い切れません)。

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『あの戦争から遠く離れて
 ―私につながる歴史をたどる旅』

著者:城戸久枝
価格:1,680円(税込)
発行:情報センター出版局
ISBN-13: 978-4795847422
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2007-08-31-FRI

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