担当編集者は知っている。


『紙の空から』
編訳:柴田元幸
価格:2,625円(税込)
発行:晶文社
ISBN-13: 978-4794967046
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編者と翻訳は、ポール・オースターや
リチャード・パワーズなど
現代アメリカ文学の翻訳家として知られる
柴田元幸さん。
この本には、柴田元幸さんが選んだ
14の旅の物語が収められています。
この本を担当された晶文社の
倉田晃宏さんにお話をうかがいました。
(「ほぼ日」渡辺)

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担当編集者/
晶文社 編集部 倉田晃宏



『紙の空から』は、「地上で読む機内誌」と銘打つ
雑誌「ペーパースカイ」との
コラボレーションでうまれました。
刊行されたのは昨年11月ですが、
この春、「週刊ブックレビュー」(NHK-BS)で
紹介されてから、ぐんぐんと売上げがのびています。
コラボレーションと書いたのは、
雑誌の連載をまとめてできあがった本、
ということです。
連載の副題が〈柴田元幸の文学旅行〉だったので、
旅がテーマの短編小説集とうたい、
前衛作家の作品から
若い女性の繊細な感情を描く作品まで収め、
読書家にも、そうでない人にも、
楽しめる1冊となっています。
収録作は全部で14本。
ガイ・ダヴェンポート「ブレシアの飛行機」
ジュディ・バトニッツ「道順」
ジェーン・ガーダム「すすり泣く子供」
スティーヴン・ミルハウザー「空飛ぶ絨毯」
V.S.プリチェット「がっかりする人は多い」
チャールズ・シミック「恐ろしい楽園」
ロジャー・パルバース「ヨナ」
スチュアート・ダイベック「パラツキー・マン」
バリー・ユアグロー「ツリーハウス+僕の友だちビル」
マグナス・ミルズ「夜走る人々」
ピーター・ケアリー「アメリカン・ドリームズ」
ロバート・クーヴァー「グランドホテル夜の旅+
グランドホテル・ペニーアーケード」
ハワード・ネメロフ「夢博物館」
カズオ・イシグロ「日の暮れた村」
短編なので、少し若い人にも読んでいただければ、
と願っております。

「ペーパースカイ」は、創刊当初から読んでいました。
編集長が外国人ということもあってか、
記事の切り口が重くなく、
読むと新しい視野が開けてくるような雑誌でした。
いま思えば、スローライフとか
ニューアーバニズムといった感覚を、
いちはやく日本に紹介していた
雑誌だったのかもしれません。


イラスト(c)板谷龍一郎

さて、その雑誌に柴田元幸さんが
海外の短編小説を翻訳されていました。
私は柴田さんと全く面識がなかったのですが、
本にできたらいいな、と思ったわけです。
とあるイベントで知り合ったライターさんが、
「ペーパースカイ」で執筆されているということで、
相談しましたら、
雑誌の担当編集者を紹介してくれました。
そうしためぐりあわせのよさで、
この本の企画は動きだしたわけです。

「ペーパースカイ」の編集部は渋谷にあり、
有名な話ではありますが、
古民家を改造したオフィスです。
伝統を尊重しつつも新しいスタイルで、
この雑誌にこの編集部あり、と感心いたします。
そこで、連載の担当をしている井出さんや、
編集長のルーカスさんと打ち合せ、
「今度いっしょに柴田さんに会いにいきましょう」
という話になりました。


イラスト(c)nakaban

「これまでにないような形で作りたいんですよね〜」
というのが柴田さんのご意見でした。
「ペーパースカイ」は、
英語と日本語のバイリンガル(二か国語表記)で
編集されていたので、
この本も当初はバイリンガルになる予定でした。
なので、最初のうち、柴田さんが翻訳した
和文と原書の英文のふたつのテキストデータが、
私の手もとに届きました。
ここで不思議なのは、
どうして原書の
英文のテキストデータがあるのだろうか? 
ということです。
翻訳版権を取得すると、
原書のテキストデータが手にはいるなんて
話は聞いたことがありません。
「ペーパースカイ」の担当の井出さんに聞くと、
雑誌に掲載する原書の英文のテキストデータも
柴田さんからいただいているということでした。
とすると、
写経さながら、柴田さんは原書を見ながら、
テキストを自分でタイピングしているのだろうか? 
などと考えて、
人間技を超える翻訳家魂に、私は心を打たれました。

‥‥しばらくはそう思いこんでいたのですが、
いま考えると、
OCR(光学文字認識)でパソコンに
原文(英語テキスト)をとりこんで、
翻訳作業を効率よく進めていたのではないか
と推察したりもします。
これなら原書もいらず、
ノートパソコン一台で、どこででも、
和英と見比べながら翻訳作業を進められます。


イラスト(c)はしもとようこ

ともあれ、『紙の空から』を
ご覧いただくとわかるように、
ある日バイリンガル案は流れ、
収録する小説の数を増やし、
きれいなイラストで彩るという方向に進路変更します。
カズオ・イシグロやミルハウザー、
ダイベックといった同時代の雄
(他界した作家もありますが
 精神は同時代ということで‥‥)の
14作品が収録され、
うち2本は訳し下し、
12本にカラーイラストつきという構成になりました。

もともと晶文社の本作りは、
ウィリアム・モリスのリトルプレスを意識しています。
弊社の初代編集長の小野二郎氏は、
ウィリアム・モリスの研究者でもありました。
ウィリアム・モリスは、洋食器をいろどる
花柄模様でもおなじみですが、
晩年は、独自の思想にもとづいて
小さな出版社を経営していました。
その美しい造本には定評があり、
余白のとりかたの法則
(のどが最もせまく、天、小口、地の順に、
 より広いスペースをとっていく)などは
よく知られています。
晶文社の本は、最初の2ページが無地で、
3ページ目からタイトル扉がはじまります。
これなども、モリス方式を踏襲した
と伝え聞いております。
話がそれましたが、そうしたことで、
きれいな装画のある「理想の書物」を作るべく、
私は、はりきって編集作業にはいっていきました。

イラストレーターの選択は、
雑誌掲載時の井出さんの手によるもの。
どこかとんがったところがある
気鋭のアーティストの空気感が、
うまいこと本に封じこめられたのではないでしょうか。
ブックデザインは岩淵まどかさん。
雑誌のときから
デザインを担当されているベテランなので、
安心しておまかせすることができました。

私はといえば、お昼からゲラとにらめっこ。
これが至福のときでした。
言葉というのは不思議なもので、
少し時間をかけて読むと、
違う世界が見えてきたりします。
ひとつひとつの言葉に意味があり、
とくに柴田さんの訳語には、
そのひとつひとつに味わいがありました。
「土曜日」といえばそれは「土曜日」で、
「煙突を建てる」といったら「煙突を建てる」、
「きらきら光っている」といえば
「きらきら光っている」のです。
なんだか詩を読んでるような気分です。
そうした言葉がつながって
物語の世界をひろげていきます。
海のむこうの原著者が思い描いた世界が、
日本語と英語のステレオ効果で浮きあがり、
言葉をこえた純粋な空間をあらしめるように
思えるわけです。

すべての物語は何らかの意味で旅の物語であり、
どんなに現実的で日常的な情景が描かれていようと、
それはいわゆる現実や日常とはどこか違った
〈もうひとつの国〉なのだし、
そもそも読み手にしてみれば、
物語を読むという営み自体、
どんな物語であれ、
一種旅に出るようなものだと言うことができるだろう。
(『紙の空から』あとがきより)


これは、柴田さんによる、
『紙の空から』あとがきからの引用です。
一見ロマンチックなひびきをもちますが、
実際に物語の世界に行って帰ってきた人の
つぶやきとして聞くと、深いものがあります。
書籍編集者がいうのもなんですが、
読書ってほんとにいいものだと思います。

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『紙の空から』
編訳:柴田元幸
価格:2,625円(税込)
発行:晶文社
ISBN-13: 978-4794967046
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2007-08-21-TUE

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