担当編集者は知っている。


『S-Fマガジン』2007年9月号
価格:890円(税込)
発行:早川書房
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多くの小説家やクリエイターに影響を与えた
アメリカ現代文学の作家カート・ヴォネガット。
今年の春に逝去され、そのときには「ほぼ日」でも
「本読む馬鹿が、私は好きよ。」で作品をご紹介しました。
今回は、ヴォネガットの日本語版を
たくさん出版している早川書房の
ヴォネガット担当である上池さんに
その人物や作品について、また、追悼特集を組まれた
「S-Fマガジン」9月号のことなどをうかがいました。
(「ほぼ日」渡辺)

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担当編集者/
早川書房 編集部第二課 上池利文



カート・ヴォネガットは、頭の怪我が原因で
2007年4月11日に亡くなりました。84歳でした。
以下、簡単にヴォネガットの経歴を記します。

ヴォネガットは1922年11月11日、
ドイツ系アメリカ人として
インディアナ州インディアナポリスに生まれ、
コーネル大学で化学を学びました。
在学中、第二次世界大戦に従軍、
ドイツ軍の捕虜となってドレスデンにいるとき、
味方である連合軍による大空襲を受けました。
そのときの経験は
『スローターハウス5』で描かれています。

戦後はシカゴ大学の大学院で学びながら、
新聞記者をします。
やがて、ジェネラル・エレクトリック社の
広報課に就職しました。
この頃から書きはじめた短篇が
さまざまな雑誌に売れはじめ、作家として独立。

1952年に長篇第一作『プレイヤー・ピアノ』を発表。
この作品には、ジェネラル・エレクトリック社での
経験が生かされています。
『タイタンの妖女』『猫のゆりかご』
『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』
映画化された『スローターハウス5』など、
多くの名作を発表。
そのあたたかい視線とユーモアあふれる筆致は、
多くの作家に影響を与えてきました。
日本でも、さまざまな分野で活躍される方々が
ヴォネガットの作品を愛読書にあげています。

   ★★★

いろいろな作品を担当してきましたが、
好きな作家を担当できるのは幸せなことです。
ハインラインやアシモフ、クラークを筆頭に、
フレドリック・ブラウン、ダン・シモンズ、
ポール・アンダースン、オースン・スコット・カード、
ダニエル・キイス、グレッグ・イーガン、
テッド・チャン、フィリップ・K・ディック、
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア、
コニー・ウィリス‥‥
思いつくままに、あげていくときりがないくらい、
担当できてうれしかった作家はたくさんいます。
なかでも、ヴォネガットは、
学生時代から好きな作家であっただけに、
亡くなったことはショックでした。

1997年に発表した『タイムクエイク』のプロローグで、
ヴォネガットはこれが最後の本となると宣言しました。
しかし、その後も「In These Times」という月刊誌で
エッセイを発表したり、絵を描いたり、
旺盛な作家活動を続けていました。
2003年には、同誌で、ギル・バーマンという
スタンダップ・コメディアンを主人公にした
『If God Were Alive Today』という題名の
小説を執筆中だと書いていました。
きっといつか完成するだろうと楽しみにしていたのに、
その刊行前に亡くなったことは
ほんとうに残念なことです。

学生時代、まだ文庫化されていなかった
『猫のゆりかご』を探して、古本屋をめぐり、
ようやく見つけたときのうれしさは、
いまでも忘れられません。
ヴォネガットが朗読した
『猫のゆりかご』のレコードを買って、
ヴォネガットが「ナイス、ナイス、ヴェリ・ナイス」と
唄う声を聞いて感激したこともありました。
(いまでは、インターネットで探すと、
 ヴォネガットの唄う「カリプソ第53番」や、
 ヴォネガットの自作の朗読を聞いたり、
 YouTubeでヴォネガットの講演の模様などを
 見たりすることもできます。)

   ★★★

ヴォネガットの小説は、すべて早川書房の
「ハヤカワ文庫SF」で刊行していますし、
エッセイ集3冊も早川書房から出版しました。
数冊の例外はありますが、
ヴォネガットの著作のほとんどは
早川書房が刊行してきたと言えるでしょう。
そんな早川書房の編集者となって
長い年月がたちましたが、
ヴォネガットの本を担当するようになったのは、
けっこう最近のことです。
わたしが担当したのは
『プレイヤー・ピアノ』の新版、
『バゴンボの嗅ぎタバコ入れ』
『ホーカス・ポーカス』
『タイムクエイク』の文庫化などです。
そのさいに、ヴォネガットの原文と、
浅倉久志氏や伊藤典夫氏の訳文に
接することができたのは、
編集者として、ファンとして
何にもかえがたい貴重な体験でした。

ヴォネガットが日本でこれだけ人気が出たのは、
作品の魅力によるのはもちろんのことですが、
浅倉氏、伊藤氏をはじめとする、
すぐれた翻訳者にめぐまれたおかげもあると思います。
「そういうものだ」「その他いろいろ」「ハイホー」
「プーティーウィッ」といった印象深い一言や、
ユーモアと皮肉のきいた文章を
みごとな日本語にしてくださった
訳者の方々の功績ははかりしれません。

さらには、本のカバーで、
ヴォネガットの世界をみごとに表現してくださった
和田誠氏の絵とデザインも
ヴォネガット・ファンを日本に根づかせる
大きな力となったと思います。

日本でいちばん長い歴史と伝統をもつSF専門誌、
「S-Fマガジン」の2007年9月号は、
「カート・ヴォネガット追悼特集」を組んでいます。
表紙は、和田誠氏の描いたヴォネガットの肖像です。

ヴォネガットのインタビューをはじめ、
巽孝之氏の追悼評論、
さらには、池澤夏樹、太田光、風間賢二、香山リカ、
川上未映子、沼野充義、若島正、各氏による
追悼エッセイ、
牧眞司氏編「主要登場人物名言集」、
邦訳作品解題など、もりだくさんの内容です。

追悼特集に掲載されているインタビューは、
ヴォネガットが亡くなる前年に行われたもので、
今になって読むと、
いろいろと考えさせられるものがあります。
ロバート・アルトマン監督の遺作となった
映画『今宵、フィッツジェラルド劇場で』
アルトマン監督について触れている個所などは、
監督のファンはもちろん、ファンでなくても
いわくいいがたい気持ちをかきたてられるくだりです。

また、追悼エッセイは、どの筆者の文章にも、
ヴォネガットへの熱い思いがこもっていて、
読みごたえがあります。

ユーモアと皮肉と
人間へのあたたかい視線が感じられる
ヴォネガットの作品。
読んだことのない方は、ぜひ一冊読んでみてください。
読めば、きっと、その魅力がわかると思います。
最後に、ご参考までに、
おすすめの作品を8冊ご案内します。


■早川書房のおすすめするヴォネガット


『プレイヤー・ピアノ』

『タイタンの妖女』

『猫のゆりかご』

『ローズウォーターさん、
あなたに神のお恵みを』

『スローターハウス5』

『デッドアイ・ディック』

『ガラパゴスの箱舟』

『バゴンボの
嗅ぎタバコ入れ』

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『S-Fマガジン』2007年9月号
価格:890円(税込)
発行:早川書房
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メールの題名に本のタイトルを入れて、
postman@1101.comに送ってください。

2007-07-31-TUE

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