担当編集者は知っている。


『松岡正剛千夜千冊』
(全7巻+特別巻)
著者:松岡正剛
価格:99,750円(税込)
発行:求龍堂
ISBN-13: 978-4763006424
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編集者であり、作家である松岡正剛さんが、
ウェブ上で2000年から始めた「千夜千冊」
古今東西の本を週5冊のペースで1日1冊を取り上げ、
いまでは千冊を超える本が紹介されている
膨大な本の情報サイトです。
この全集はそのサイトから生まれました。
ウェブの原稿をそのまま本にしようとしたら、
松岡さんから全面加筆と書き直しが入ったとか
(つまり約1万頁分に朱筆がびっしりですよ)、
1冊が『広辞苑』よりも厚くなり、
製本機におさまらなかったため紙を薄くしたとか、
セット価格99,750円(税込)という高い値段に関わらず、
予想を越えてよく売れているなど
スケールの大きな話が満載の全集です。
担当された求龍堂の鎌田さんにお話をうかがいました。
(「ほぼ日」渡辺)

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担当編集者/
求龍堂 編集部 鎌田恵理子


「求龍堂といえば美術」であり、
創業84年社員30名弱、編集者7人という、
ある意味特異な存在である出版社が、
なぜ『松岡正剛千夜千冊』‥‥
全7巻+特別巻、各巻平均1300頁、
総登場人物2万5000人という
ブックアーカイブの大著を刊行したのでしょうか? 
「全集といえば○○」とか、
出版社にはそれぞれ得意とする
棲み分けがあるはずなのになぜ? 
ウェブ「千夜千冊」連載の当時から
多くの出版社が注目し、
千冊達成が目前に迫った2004年夏、
それぞれがお互いの出方を探っている状況のなか、
それはごくシンプルに決着を見ました。
当時の求龍堂の社長が「は〜い。やりたいです」と
いの一番に名乗りをあげたのです。嗚呼。

今考えれば、「全集といえば○○」の会社なら、
全集の怖さ、大変さを知っているわけで、
いやがおうでも慎重になるのは当然でしょう。
しかし、無知とは怖く、しかし強い。
結果として、無欲の勝利というか、
神様は見捨てないというか、
『松岡正剛千夜千冊』は無事に刊行され
「2006年出版界の事件」と呼ばれ、
そして全集としては異例のスピードで重版もされました。
本当に「出版」って、魔物。

重ねていえば全集の企画が持ち上がった当時、
私は担当ではありませんでした。
当時の担当者の父上が病に倒れたために
ピンチヒッターとなりました。
松岡先生の熱烈なファンの編集者の方たちに
殴られそうですが、
私は『熊谷守一油彩全作品集』
(定価8万4000円、B4サイズ、約500頁)など
「高額で大きな本」には慣れていたので、
まあやってみようと「無知は強し」で引き受けました。
それでもせっかく担当したのですから、
十文字美信氏による、
本そのものの姿を視覚に現した撮り下ろし
《本の貌》を口絵に掲載するなど
ビジュアルの試みも頑張りました。
(ちょっと話を強引にそらしますが、
 これがご縁となり十文字美信氏の
 初期から最新作までをまとめた
 『感性のバケモノになりたい』を
 2008年新春に刊行します。
 かなり凄いです。ご期待ください。)
こうして、私と若手ボーイの二人組は
「全集編集室」をもつでもなく、専任になるでもなく
『松岡正剛千夜千冊』という
大宇宙のもくずになるのでした。合掌。

ウェブ「千夜千冊」が始まったのは2000年2月。
松岡氏が主催している「ISIS編集学校」のサイトに
毎日更新できる連載という前提で、
本の紹介ならと「ほんの」軽い気持ちで始まりました。
あれから7年、現在、何かを調べようと、
「澁澤龍彦」でも「石井桃子」でも
検索キーをたたくと項目の上位に必ずや
「松岡正剛の千夜千冊○○○」が登場します。
ウェブで多くの人に読まれているものを、
なぜわざわざ本で読むか、
その象徴的な例として某社編集者談をご紹介しますと、
「著者に原稿を依頼するとき
 僕はウェブ『千夜千冊』で検索して、あたりをつけて、
 読むべき資料を読んでから会いにいきます。
 その人の全体を把握するのには必須ですね」
そして、その人は続けていいました。
「読むときにはコピー&ペーストして
 ワードに貼り直して縦組みにして読みます。
 横組みだと頭に入らないんですよね」
 
そうなのです「横組み/縦組み」つまり「ウェブ/本」、
ここにはメディア文化論としても興味深いツボがあり、
我々もおおいに翻弄されました。
全集制作は、すでにウェブ連載の原稿があるのだから、
それを出力して松岡氏に赤字を入れてもらい
最終確認の意味でゲラを見ていただくということで
作業は開始されました。
しかし、最終確認としてお渡ししたゲラが、
元の姿もないぐらいに追加訂正が書き込まれて、
真っ赤になって戻ってきたのです。
ほとんど、いちから書き直したといっても
過言ではないぐらいに「真っ赤」でした。
松岡氏によると、
縦組みのゲラになって初めて
日本語の文章として姿を現わし、
行間が立ち上がってきて、
ウェブで言い放っていた情報の
点と点を繋ぐ要素を書き加えずにはおられなかった、
とのことでした。
こうして編集方法は急遽変更され、
ウェブの出力はノーチェックのまま入稿し、
ともかく縦組みのゲラにしてお渡しして
思う存分に手を入れていただくということになりました。





初稿はもとより再校そして三校‥‥、
真っ赤なゲラの応酬は
このまま永遠に続くのかと思うような、
著者、担当者、印刷現場、三つ巴の格闘が続きました。
結果、文字量は50パーセント増え、
ウェブとは別物といっても過言ではないほどに
「ウェブ」連載は「本」として生まれ変わったのでした。

本は自分で探すからこそ読書は楽しいのであり、
「松岡正剛に教えてもらいたくないよ〜」
という本好きの方には
手に取ってもいただけないのかもしれませんが
‥‥それは相当もったいないですよ、
と声を大にしていいたいです。
確かに個人の仕事なので話がややっこしいですが、
『松岡正剛千夜千冊』の内容は国家プロジェクトでも
成し得ないほどの規模と精度と密度でできています。
ですから、国会図書館のように、
また辞書や辞典をひくように
『松岡正剛千夜千冊』を活用していただきたいのです。
そして『松岡正剛千夜千冊』に
ぐいぐいと書き込みをして、
マイ「千夜千冊」をつくっていただければと思います。
海外旅行の一回の金額よりもお手ごろで一生楽しめます。
現在、二刷りも順調に部数を伸ばして
残部もカウントダウンに入ろうしています。
この度『松岡正剛千夜千冊』の攻略本として
『ちょっと本気な 千夜千冊 虎の巻 読書術免許皆伝』
(松岡正剛著)を刊行しました。



松岡氏と謎のインタビュアーQちゃんとの
対談形式でつるつると読め、
松岡氏の「本読み」の極意に迫るものです。
松岡氏による文学とアートの融合された
イラストも見ものです。





最後に思い出話をひとつ。
松岡氏に例のゲラをお届けしたときのこと、
すごい厚みのゲラの束を目の前にしたときの
松岡氏の顔が忘れられません。
まるで野球少年が新しいグローブを
買ってもらった時のように、
目をきらきらとさせてゲラの束を
それは嬉しそうにめくっていました。
そこには「永遠の文字オタク少年」
(いい意味で)がいました。

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『松岡正剛千夜千冊』
(全7巻+特別巻)
著者:松岡正剛
価格:99,750円(税込)
発行:求龍堂
ISBN-13: 978-4763006424
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担当編集者さんへの激励や感想などは、
メールの題名に本のタイトルを入れて、
postman@1101.comに送ってください。

2007-07-03-TUE

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