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| 担当編集者は知っている。 |
著者のダニエル・ギルバートさんは ハーバード大学の社会心理学部の教授。 著者によれば、人間という動物だけが 未来について考えることができ、 そのときに実際以上の「幸せ」を 想像してしまうものなんだそうです。 ほしいものを手に入れたとたんに 熱が冷めたとか、 この会社に入れば幸せと思っていたら、 そうでもなかったとか、 思ったようにうまくいかなくて がっかりするそのわけを、 心と脳の働きをもとに教えてくれます。 この本を担当された早川書房の三浦さんに お話をうかがいました。 (「ほぼ日」渡辺) *********************************** 担当編集者/ 早川書房 編集部 第三課 三浦由香子 切ない本‥‥ 編集者という仕事をしていると、 どういう本を担当しているの? どんな本をつくっているの? と、よく聞かれます。 やはり担当本には仕事の結果が はっきりと形になって出てくるので、 つくった本について語れば 仕事人としての自分も ある程度説明できるというもの。 (その意味では、 このコーナーはこわいですね) そこで張り切って話をするのですが、 簡単に内容を説明すると 一様に微妙な反応をされるのがこの本。 「それって、なんだか切ない本だね」 「意地悪だなあ」 その通り。 確かに切ないのです。 意地悪なのです。 でも、そこがとても面白い本でもあるのです。 アメリカで出された原書のタイトルは "Stumbling on Happiness" 「幸せにつまづいて」。 ハードカバー版の表紙には お皿からざらっとこぼれたチェリー。 ペーパーバック版の表紙には 女の人がバナナの皮ですべっている写真が 使われています。 人が幸せにつまづかされる、 つまり翻弄されている といった感じでしょうか。 日本版の表紙には ちょうちょを追いかけている人のイラストを載せました。 タイトルは「幸せはいつもちょっと先にある」。 つまり幸せは手に入らないということ? すごく意地悪ですね‥‥。 やはり幸せに翻弄されています。 それにしても、 これはどういう意味なんでしょう? なぜ幸せは、私たちを翻弄するんでしょうか? なぜ手に入らないんでしょう? その秘密は、まず私たちの脳のなかにありました。 私たちの脳はいい加減 同じ長さの棒が違う長さに見えたり、 ないはずのものが見えてしまったり、 目の錯覚は誰にでも起きます。 それと同じように、私たちの脳みそも、 二つの事柄を比べるのに間違った判断をしたり、 ないはずの事柄をあるように 考えてしまったりすることがあるんですね。 こうした、私たちの予想がいかに曖昧なものかということを さまざまな心理学の実験で明らかにしていきます。 読みながら一緒に実験をしていくと、 自分の判断がいかに曖昧かわかってドキドキしてきますよ。 私も思わずひっかかってしまった 簡単なテストをここで一つ。 だまされないぞ、と思いながらも すっとだまされてしまいます。 次の言葉をさっと見てください。 === ベッド 起きる いびき 休息 居眠り 昼寝 目覚め 毛布 平安 疲れ うたた寝 あくび 夢 まどろみ 睡魔 === では、上の言葉を手で隠して、 次の言葉のうち、 上のリストの中になかった単語を 選んでください。 === ベッド うたた寝 眠る ガソリン === 答えは、「ガソリン」。 でももう一つ答えがあります。 「眠る」です。 どうですか? だまされました? (私だけだったりして‥‥) あっ、だまされた〜という方、 あなたの脳は、 一つ一つの単語を覚えるかわりに 「要は「眠る」ことに関する単語なんだな」 と要点だけ覚えてすまそうとしたんですね。 このように、私たちの脳みそは、 知らず知らずのうちに 錯覚や思い込みを起こしているのです。 いかがですか? だんだん自分の脳みそが 信じられなくなってきました? 幸せの予想はできない このように曖昧な脳で、 私たちは未来も予想しようとしています。 きちんと合理的に予想したつもりでも、 その判断が結局のところ 今の状態に左右されていたり、 「これなら今よりも幸せ」という比較の基準が ぶれていたりするのです。 楽しみにしていたお菓子を食べたら、 気持ち悪くなった。 一生大好きだと思っていた恋人が 嫌いになった。 この会社に入れば人生バラ色だと思ったのに、 そうでもなかった。 こういうことが日々起きるのも、 私たちの予想があまり正確ではないからなのです。 私たちは、 10分後、または明日、将来で、 幸せになろうと思って 日々行動しているわけですから、 その幸せの予想、 ゴールたるものの姿が間違っているとすれば、 それは実際「幸せに翻弄されて」いる と言われるのもうなづけます。 うーん切ないですね。 でも実は、 この「人間の予想はあてにならん」という話、 いま経済界で注目の理論なのです。 人間は理屈じゃない! 行動経済学 投資など、人間の経済活動を予測する際、 以前はデータを分析したり、 理論をあてはめたりしていました。 けれども、バブル景気など、 必ずしもそれでは予測しきれないケースもありました。 投資の動向を見極めようと どれだけ理詰めで最善の選択をはじき出しても、 投資家たちはそれと違う行動を とってしまったりするんです。 「実は人間の判断って 全然合理的じゃないんじゃない?」ということで、 そのあいまいな部分を心理学で解明しようとしたのが 行動経済学です。 2002年に ダニエル・カーネマン教授が ノーベル経済学賞をとったことから この学問が注目を浴びるようになりました。 この本を書いたダニエル・ギルバート博士も ハーバード大学の心理学部で こうした分野を研究している第一人者です。 最近は日本でもこの理論が 一般に関心を持たれるようになり、 なんと証券会社の大和證券は ギルバート教授をCMで起用して この考え方を紹介しています。 本書と同様、ウィットに富み、 チクリと皮肉がきいた内容の楽しいCMです。 世界でも話題に このように、「幸せ」という普遍的な話題を扱いつつ、 実は最新の心理学に触れられる本書は、 アメリカで刊行されるやベストセラーになりました。 科学読み物の分野でも高く評価され、 世界で最も権威のある賞 Royal Society Prizes for Science Books 2007 を受賞しています。(※) 日本版には脳科学の第一人者である茂木健一郎さんが 推薦を寄せてくださいました。 世界の各所で話題になっているこの興味深い本を ぜひ、手にとっていただきたいと思います。 ※ この賞には他に、弊社の 『ひとりぼっちのジョージ― 最後のガラパゴスゾウガメからの伝言』 もノミネートされていました。 こちらもおすすめです。 ***********************************
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2007-06-26-TUE
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