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| 担当編集者は知っている。 |
最近は表参道ヒルズや直島の地中美術館などの 設計で活躍されている 日本を代表する建築家・安藤忠雄さん。 本書は安藤さんの代表作を紹介する 作品集(全3巻を予定)です。 第1巻のテーマは「住居」。 独学で建築を学ばれた安藤さんの最初の仕事は、 25坪の友人の家でした。 住居から始まった安藤さんの建築。 安藤さん自身、「住宅は私の原点」 「最後の仕事は住宅と決めている」と 本書の中で語っています。 安藤忠雄建築の原点と世界観を紹介する本書を 担当されたTOTO出版の若松さんに お話をうかがいました。 (「ほぼ日」渡辺) ************************************************ 担当編集者 /TOTO出版 若松絵無 安藤忠雄さんの作品集の担当になった瞬間、 うれしい反面、「大変なことになった」と思いました。 というのも、安藤さんは元プロボクサーで、 独学で建築を学んだという 建築界では異例の経歴の持ち主。 それで世界的建築家の域に達した方ですから 人にも自分にも厳しい。 いかに恐ろしい人かという数々の噂を 耳にしていたのです。 安藤さんに会いに大阪まで行く前日、 緊張で眠れなかったことを覚えています。 ■安藤忠雄の不思議な魅力 安藤さんの作品をいくつか見学させてもらう予定で 新大阪の駅に到着すると、 なんと改札口前に安藤さんがひとりで待っています。 てっきり所員の方が同行するものだと思い込んでいた 私たちはとても驚きました。 欧米・中東を飛び回る多忙な安藤さんが 自ら案内してくれたのです。 しかも普通に電車移動で(笑)。 その頃は、安藤さんが学校帰りの学生たちに交じり 電車に乗っていること自体、衝撃的でした。 だけど会話の内容は、ドバイのプロジェクトだったり 各国の要人が集まった都市会議の話だったり スケールが違う。 それをまるで近所の人に世間話でも 聞かせるように気さくに話すのです。 私が言うのもおこがましいことですが 不思議な魅力のある人だなぁと感じました。 ■厳しい空間のように見えて、実は温かい 安藤さんの作品を実際に訪れてみて、 まず感じたのは、優しい、豊かな雰囲気でした。 安藤さんのトレードマークは コンクリートの打ち放しなので、 写真で見るとその中での生活は厳しいように感じます。 しかし実際に体験してみると、 コンクリートの質感が柔らかく 空間の抜け方がとても心地いい。 それに人肌に触れる部分には、 予想以上に木が用いられていて その使い方が絶妙に上手いのです。 厳しい空間のように見えて、実は温かい。 これは安藤忠雄という人物にも そのまま当てはまると思いました。 これまで<闘う建築家>の面ばかり 強調されてきた安藤さんでしたが、 優しさ、豊かさの面を伝えたいと この時から考えるようになったのです。 ![]() ▲ 六甲の集合住宅 提供:安藤忠雄建築研究所 ■安藤忠雄の原点は住宅にある ただ、問題は数百にものぼる安藤さんの作品を どうやって紹介するかでした。 とても1冊では収まりきらないことはわかっています。 3分冊にして、1巻目は「住宅」を扱うことにしたのは 安藤さんが「住宅の仕事は所員の教育に必要」と しきりに住宅設計の重要性を説いていたからでした。 美術館などの大規模な建物をつくる前に 小さな住宅でスケール感覚を養うことが 建築修行には必要だと言うのです。 安藤さん自身、最初の仕事は 延床面積わずか25坪たらずの友人の家で 世間に安藤の名を知らしめることになったのも 「住吉の長屋」(1976年)という大阪の長屋街区に建つ 述床面積約20坪の小さな住宅でした。 限られた面積、限られた予算で いかに豊かな空間を創造するか それを初期の住宅設計で鍛えたと言います。 安藤忠雄の原点である住宅以外に この作品集の第1弾に相応しいテーマはない。 そう私たちが考えたのも当然の成り行きでした。 ■世間を騒がせた「住吉の長屋」 ちなみに、「住吉の長屋」は 古い三軒長屋の中央の1軒を切り取り そこにコンクリートの箱を挿入し 屋根のない中庭を設けたことで、物議を醸しました。 部屋を行き来するにも、 一度外に出なければ行けない構成です。 今ではさして珍しいことではないように思えますが 当時の人々の目には、奇異に映ったのでしょう。 でも安藤さんは、街中の小さな住宅だからこそ 小宇宙を取り込むこの中庭が重要だ という姿勢を貫き通しました。 それは一見、建築家の横暴に見えたかもしれません。 しかし、他の人では到達し得ない深い熟考、 悪戦苦闘があってのことだったのです。 ![]() ▲ 住吉の長屋 提供:安藤忠雄建築研究所 この住宅の施主は、今でも楽しんで 住み続けていると聞きますし、 実際に私たちが「4×4の住宅」(2003)という 海沿いの厳しい環境に建つ小住宅を 訪れた際に感じたのは 安藤さんの思考の深さ、配慮、 そして、写真ではなかなか伝わらない、 自然と一体になる感動でした。 冷暖房が完備された広いリビングがあることが 住宅の豊かさではない。 むしろ自然と一体になる生活こそが 感動を呼び、豊かさに繋がるのだと 安藤さんは思っていたのだと思います。 ![]() ▲ 4×4の住宅 提供:安藤忠雄建築研究所 ■変わらずに仕事に挑み続ける生きざま この本をつくるにあたって 安藤住宅の魅力を伝えることはもちろんですが、 安藤さんの出発点からの努力を知って欲しい という思いがありました。 仕事がなく、空き地を見つけては勝手に 架空のプロジェクトを思い描いていた20代の頃。 どんな過酷な条件の家でも、 逆境を味方につける発想力を鍛えた30代。 世界中の要人から設計を依頼され、 巨大な建築物を各国につくっている今に至っても 並行して小さな住宅をつくり続けているということ。 安藤さんは、この40年近い活動の間 常に原点に立ち返りながら仕事を継続しています。 今、いろいろなことが目まぐるしく変化し 多様化する社会にあって、 確固とした信念のもとに変わらずにいつづける 安藤さんの生きざまは、私たちに多くのことを 指し示してくれているように思います。 デビュー作から最新作の住宅まで、 選りすぐりの21軒を紹介する本書では、 可能な限り空間の豊かさを伝えたいと 写真選びに苦労しました。 建築空間を書籍という2次元の世界で 完全に再現することは不可能です。 それでも、この本によって 安藤忠雄という稀有な存在の建築家を、 厳しさと優しさを兼ね備える その研ぎ澄まされた美しい世界観を、 ひとりでも多くの方に伝えることができれば こんなうれしいことはありません。 ************************************************
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2007-05-08-TUE
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