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| 担当編集者は知っている。 |
著者は、東京・新宿を中心に活動する 訪問歯科医師の五島朋幸さん。 五島さんは「食べる喜びは、生きる喜びそのもの」と考え、 高齢で通院することがつらい方や、 在宅介護をうけている方など、 自分の口からうまく食べられなくなった方の家を 自転車で訪問し、診療されています。 食べることの大切さや喜びについて、 また、医療とはなにか? 介護とはなにか? をしみじみ考えさせられるご本です。 この本を担当された一橋出版の 柴村さんにお話をうかがいました。 (「ほぼ日」渡辺) ************************************************ 担当編集者 /一橋出版編集部 柴村登治 五島朋幸先生は現役の歯医者さんです。 ただし、多くの方がイメージされるような 普通の歯医者とはちょっと違います。 東京都新宿区を中心に、 高齢者など通院できない方のお宅を自転車で訪問して、 その方の歯の診療をして回っている、 「訪問歯科診療」をしている歯医者さんです。 この、訪問歯科診療というのは、 日本ではまだ取り組む人が少なく、 社会での認知度もまだまだ低い診療の形態です。 五島先生は1997年から、 積極的に取り組んでいらっしゃいます。 ![]() ▲訪問診療のため自転車で移動中の五島先生。 自転車は電動アシスト付き「スーパー流星号」。 ちなみに訪問先でも白衣は着用しません。 個人的に、先生とは5年くらいのお付き合いを させていただいています。 最初は仕事を通じてお会いしたのですが、 そのときから、気さくで、優しく接してくださって、 それ以降、公私にわたって 親しくさせていただいています。 おこがましい言い方かもしれませんが、 僕にとっては、頼れる兄貴のような存在です。 訪問歯科診療といっても、 具体的にはどういうものなのか、 最初は僕も全くわかりませんでした。 そこで、先生にお願いをして、 ある日、診療に同行させていただきました。 訪問先のご家庭で、 先生は患者さんとのコミュニケーションやスキンシップを とても大事にされ、心をこめた診療をなさっていました。 ただ単に治療をしたり、 口の中をきれいにしたりするだけではなく、 その方の生活全体を見て、その方が少しでも 口から快適に食べられるようになるように、 さらに言えば、 その方が少しでもよりよく生きられるように サポートしている印象でした。 高齢者からの学び、高齢者に尊敬の念を持って接する ということ、地域社会での人とのふれあい‥‥ ここで行われていることは、医療行為という枠を超えて、 人としてきっと正しいことであるに違いない。 大切な何かがここにある、とそのとき強く思いました。 それ以来、先生に本を書いてほしい、と ずっと思ってきました。 先生が日々の診療の中で感じたり考えたりしたことは、 一般の方も共感するところが多いと思ったからです。 先生のほうにも書く意思がおありで、 訪問歯科診療の認知度を高めたい というご意向もありました (これは医療者として100%純粋な動機だと思います)。 当時も何度か打ち合わせのようなことをしましたが、 いろいろな条件がなかなか整わず、 実現できずにいました。 それから月日は流れて、2006年8月5日。 たまたまつけたテレビで よく見知った顔が出てきたのです。 それは、五島先生の訪問歯科医としての活動を追いかけた テレビ東京の番組「ザ・ドキュメンタリー 食べてほしい‥‥歯医者さんが走る」冒頭のシーンでした。 番組を最後まで見終えて、 診療に同行したときの感動がよみがえってきました。 そして先生に感想をお伝えしようと思っていましたら、 先生から「会いませんか」のお誘いメールがあり、 久しぶりに再会しました。 そこで、先生が本の構想を あたためていたことを知りました。 詳しく聞いてみると、「反・マニュアル本」の構想です。 つまり、医療・介護というのはマニュアルのように 単純に行くものではない。 一人ひとりに応じた医療・介護しかないわけで、 そうした一人ひとりに対する診療の様子を フィクションとして書きたい、というようなものでした。 これを聞いたとき、直感的にいける! と思いました。 フィクション(小説)という形式も、 先生の感動的な診療の様子、 診療にかける情熱を伝えられる最良の形式だと思いました。 話は大いに盛り上がり、内容を想像するだけで ワクワクする興奮を覚えました。 そうして、この企画を社に持ち帰りました。 それからは、一気にとんとん拍子で 出版まで行きました‥‥と書きたいところですが、 一つだけ乗り越えなければならない壁がありました。 というのは、弊社・一橋出版は母体が教科書会社で、 実用書などの一般書も発行してはいましたが、 創業して50年、フィクションというものを 一度も手がけたことがなかったのです。 「文芸書」という新分野に打って出ることになるわけで、 リスクもあるし、売り方もよく分からない。 最初は会社の決定も「出版見送り」になりかけていました。 でも、僕は、この本をあきらめたくありませんでした。 この本が出せなければ何のために出版社で 仕事しているかわからないと思うくらい、 どうしても実現したい内容であり、本でした。 たぶん、五島先生の情熱が 僕にのりうつったのだと思います。 あきらめずに声を上げ続けていたら、 一人、また一人と賛同者が増えていき、 最終的に社長が「社員の夢は会社の夢。やってみよう!」 と言ってくれました。 勇気ある決断をしてくれた会社に大変感謝しています。 そのあとは本当にトントン拍子。 五島先生は筆も速くて、そのスピードにも驚かされました。 外来や訪問の診療を休まれることもなく、 わずか2ヵ月で書き上げてしまいました。 夜中や診療の合間が書く時間だったそうです。 ただ、この速さも、訪問歯科診療10年間の 蓄積がなせる業だと思います。 原稿は何度かにわけて送られてきましたが、 内容的にぶれることが全くありませんでした。 僕はパソコンの前に座って、 ただ先生の原稿がメールで送られてくるのを 待っていればよい、という感じでした。 そして原稿を読んでは、泣いたり、笑ったりの繰り返し。 僕の席は編集部の部屋のはしっこで、 しかも柱に隠れているので、 そういう姿は同僚たちに見られずにすみましたけど、 実はけっこう心の中は大忙しな感じになっていました。 仕事絡みの時でも対等に接してくださる先生には、 お会いするたび、人間の大きさのようなものを 感じていたのですが、 半年間、毎日のように連絡をとりあうなかで、 先生の考え方や魅力に あらためて触れることも多かったです。 その1つとして、先生は深刻ぶったことが嫌いで、 介護の世界を明るい愛に満ちたものとして 描きたいのだなあ、ということがよく分かりました。 それもあって、この本は、家族愛、夫婦愛など、 さまざまな愛に満ちた物語になっている と思っています。 タイトルにも関連するのですが、 先生が自転車に乗って訪問していくその先々で、 愛の花が次々咲いていくイメージです。 ![]() ▲ふれあい歯科ごとう院長室にて。 さて、本書のテーマ、「口から食べる」ということは、 単純運動のようで実は複雑な因子から成る行為で、 また単に栄養供給のためだけでなく、 喜びや楽しみにもつながる文化的な営みです。 小説では、五島先生が、口から食べられなくなった人に 「食べる」という行為を取り戻すだけでなく、 その先にある「食べる喜び」も取り戻そうと 奮闘する姿が描かれています。 食べる喜びというのは、「生きる喜び」に そのまま直結していることが、 読んでいただくとお分かりいただけると思います。 口から食べることの大切さとともに、 命の大切さや生きることの素晴らしさを 少しでも感じていただければ、 編集に携わった者としてとてもうれしく思います。 本の帯には、作家の落合恵子先生から 推薦文をお寄せいただきました。 ご多忙の中、ご自身の介護の体験に基づいて、 説得力のある大変素敵な文章を書いてくださいました。 本に力を吹き込んでくださったと思います。 この場をお借りしまして、 あらためて深くお礼申し上げます。 装丁・本文デザインは糟谷一穂さん。 彼女に仕事をお願いできたことも大変幸運でした。 ある難病関連団体の機関誌制作に ボランティアで関わるなど福祉にも関心をお持ちの方で、 デザインしていただくにあたって、 原稿はすべて読んでもらいましたが、 僕以上に深く読んでくださっていると思うこともあり、 編集していく上で多くのヒントをいただいた気がします。 また、彼女からいただいた感想に 勇気づけられることもしばしば。 表紙のラフ案を出していただいてから 仕上げていく過程では、 厳しい注文も出させていただいたのですが、 本音でぶつかってきてくれて、ありったけの力を注いで、 最終的に「これ以外には考えられない」と思える 素晴らしい表紙にしてくれました。 やさしくて、でも爽やかで、凛としていて、 素敵な物語が始まることを予感させる、 内容に合った大変きれいな表紙です。 じっくりじっくり作品を作りこんでいく姿勢に 学ぶ点も多かったです。 彼女と仕事が出来たことで、 本作りの本当の楽しさというものが 初めて分かったような気もします。 糟谷さんは、早い段階から 「この本を一人でも多くの方に読んでいただくために 私に出来ることがあれば、何でも言ってください」 と言ってくれていました。 それだけ五島先生の活動や原稿内容に 共感してくださっていたのだと思います。 そのために、本以外でも、映画のポスターのような 美しい販促チラシを作ってくださったほか、 僕の手作りの原案があまりにしょぼいのを見かねて、 書店に置くポップ広告を 無償で作ってくださったりもしました。 このポップがまた、とんでもなくかっこいいのです! 自転車の車輪をモチーフにしたものですが、 「車輪がどこまでも転がっていくように、 この本もどこまでも広がっていってほしい」の意味が 込められているとか。ニクすぎますよね〜。 ぜひ書店で見つけてみてください。 そのほか、営業ががんばって平積み注文をとってきた、 だとか、客注が入っただとか、 本に起こったさまざまな「いいこと」を、 いつも自分のことのように喜んでくれました。 いつも笑顔で協力を惜しまず、 うれしいことを一緒に喜んでくれる糟谷さんがいたから、 僕も大変楽しく仕事することができました。 最高の仕事のパートナーでした。感謝しています。 最後に、ひとえに五島先生のお人柄、 ご人徳に由来するものと思いますが、 出版の実現、販売等に関して、 これまでに社内外から多くの方にさまざまな協力を 申し出ていただき、本当に感謝しておりますし、 多くの方に盛り上げていただいて大変幸せに感じています。 半年間、感動しっぱなしでした。 ここまでは0.1ミリの後悔もありません。 あとは、どれだけ1人でも多くの方に 実際に手にとって読んでいただけるかだと思います。 中学生くらいの方から高齢の方まで、 幅広い層の方に読んでいただけると確信しています。 既に述べました、生きる喜びや素晴らしさが 感じられるだけでなく、 五島先生の楽しいキャラクターも全開で、 その真摯な生き方に励まされる部分も多いと思います。 こういう本が読まれる社会であってほしい と心から願っております。 どうぞよろしくお願い致します。 ■お知らせ■ 五島朋幸先生がテレビに登場します。 訪問歯科医として、 ラジオ番組「ドクターごとうの熱血訪問クリニック」 パーソナリティーとして、そして作家として、 多彩な活動を通して「口から食べることの大切さ」を 発信・表現する先生の素顔を ぜひチェックしてみてください。 TBS系「報道の魂」。5月20日(日)深夜。 詳しくは「報道の魂」公式サイトへ。 ************************************************
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2007-05-04-FRI
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