担当編集者は知っている。


『ねにもつタイプ』
著者:岸本 佐知子
価格:1,575円 (税込)
発行:筑摩書房
ISBN-13: 9784480814845
【Amazon.co.jpはこちら】

翻訳家の岸本佐知子さんのエッセイ集。
ごくありふれた身近なものを
じーっと観察しているうちに
わき出てくる数々の疑問。
つきつめていくうちに、
そぼくな疑問はシュールな妄想に‥‥。
岸本さんのつむぐ言葉は独特で、
でもおかしくて、
ぐいぐいと引き込まれていきます。
この本をご担当された筑摩書房の松田さんに
お話をうかがいました。
(「ほぼ日」渡辺)

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担当編集者
/筑摩書房編集部 松田哲夫


このエッセイ集『ねにもつタイプ』は、
1冊の本として刊行されるまでに、
なんと6年間もの歳月がかかっています。
そもそも、ぼくが11年間コメンテーターを務めている
TBS系TV番組「王様のブランチ」がきっかけでした。

2000年、『気になる部分』というエッセイ集を読んで、
その類のない面白さに魅了され、番組で紹介しました。
この本は、なんと言っても、てらいのない文章で、
決して「笑わそう」としていないところがいい。
でも、「気になる部分」にこだわり続け、
じっくりと考えているうちに、
とんでもない世界に入り込むことになる。
だから、ついつい笑ってしまうんです。
ぼくは、「ユーモア・エッセイ界に大型新人現る!」
と声を大にして言いたくなり、取り上げました。


『気になる部分』白水社Uブックス

こういう不思議なことばかり考えている人ってどんな人?
という興味もあって、お目にかかることにしました。
打ち合わせに出掛けてみると、
なんと、楚々とした知的な美人が
目の前に現れてビックリ。
エッセイ集をつくろうということになったのですが、
なかなか始動することができませんでした。
2002年から、ようやく「ちくま」連載が始まりました。
それからは、毎月毎月、
届けられる原稿に驚かされました。
よくぞ、次々に、こんな面白い話を書けるものだと、
笑い転げながら感心していました。
それでも、毎回の枚数が4.5枚しかないので、
なんと5年間の連載を重ねていって、
やっとのことで1冊にまとまったというわけです。


▲著者の岸本佐知子さん

さて、この本の面白さというのは、
どういうところにあるのでしょうか。
例えば、「それまで気にもとめていなかったことが、
突然どうしようもなく変に思える瞬間がある」
と岸本さんは書くのです。
見れば見るほど「ちょんまげ」という髪型は
奇妙なものに思えてしょうがない。
どう考えも、何かの罰ゲームか
恥辱プレイの一種としか思えなくなってくる。
もしや、宇宙人の陰謀ではないかというところまで、
岸本さんの妄想は突っ走っていってしまうのです。


▲本書「疑惑の髪型」の挿絵

例えば、ある時、翻訳家である岸本さんは、
目の前の英文について考えようとしていました。
そういう時に限って、「コアラの鼻」が気になるのです。
「材質は何でできているのだろう。」
「触ったらどんな感じだろう。
 カサカサしてほんのり温かいだろうか。
 それとも案外ひんやり湿っているだろうか。」
こういう風に、ひとたびこだわりが生じると、
そこから妄想エンジンが全開していくのです。
読者は、アッと言う間に、とんでもない
キシモトワールドに連れて行かれるのです。


▲本書「裏五輪」の挿絵

こういう風に、岸本さんは、世の中にある、
ちょっとした現象やささいな言葉遣いなどが、
気になって、こだわりはじめていきます。
それは、スポーツだったり動物だったり
日常のしぐさだったり言葉だったりします。
そのこだわりの芽をゆっくりと育てていくと、
いつの間にか、シュールな世界が広がっていきます。
そこに、思いがけない物語が生まれてくるんです。
隠された真実とおぼしきものが
垣間見えたりすることもあるんです。
だから、1編1編は短いエッセイなのに、
壮大なストーリーを読んだような充実感があります。
きわめてシーリアスな語り口なのに、
読み進むうちに、ふつふつと笑いがこみあげてきます。
この面白さは、他の何にもたとえようがないですね。
川上弘美さん、小川洋子さん、北村薫さんなど
有名作家も大ファンだというのも肯けます。


『空中スキップ』マガジンハウス

そういえば、岸本さんの本業は翻訳家です。
彼女が訳すのは奇妙な作品ばかり。
ニコルソン・べーカー、ジャネット・ウィンターソン
といった一筋縄でいかない作家が多い。
最近出た、ジュディ・バドニッツの『空中スキップ』
これまたヘンテコな話満載の掌編小説集です。
気の弱い青年が、おばさんたちに責め立てられて、
母親に心臓を提供するハメに陥ったりします。


▲本書「フェアリーランドの陰謀」の挿絵

そうそう、この連載が始まるときに、
挿絵をクラフト・エヴィング商會さんにお願いしました。
それには深い訳があるのです。
『気になる部分』を読み終えて、興奮冷めやらぬころ、
ちょうどクラフトさんたちと会いました。
「いま、すっごく面白い本見つけたんだ」
と、ぼくは自慢げに語ろうとしました。
すると、彼らも「ぼくたちも」と言うのです。
「では」と両方で書名をあげてみたら、
なんと同じ『気になる部分』だったのでした。
これは何かの縁だと思い、彼らに挿絵をお願いしました。
岸本さんの文章とクラフトさんの挿絵、
その両者のボケとツッコミの頃合いも絶妙ですね。
そして、この本の装幀はもちろんクラフトさんです。
こういう楽しい本をまとめられるなんて、
編集者って、本当にいい職業ですよね。

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■ お知らせ ■

さて、こんな魅力的なエッセイを書く
岸本佐知子さんって‥‥と
気になった方も多いのではないでしょうか。  
実は、大竹昭子さんが毎月ブックカフェで行なっている
トーク&朗読会の「カタリココ」第5回目のゲストは、
岸本佐知子さんです!!
ご自身が朗読するとどんな感じになるのか楽しみです。

日時:5月19日午後5時開場、5時半開演
場所:Rainy Day Bookstore &Cafe
  (西麻布・長谷寺横のスイッチ・パブリッシング地階)
料金:1500円
要予約:03-5485-2134(ネット予約可)
    ホームページはこちら

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『ねにもつタイプ』
著者:岸本 佐知子
価格:1,575円 (税込)
発行:筑摩書房
ISBN-13: 9784480814845
【Amazon.co.jpはこちら】

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メールの題名に本のタイトルを入れて、
postman@1101.comに送ってください。

2007-04-24-TUE

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