担当編集者は知っている。


『アストル・ピアソラ 闘うタンゴ』
著者:斎藤充正
価格:3,570円(税込)
発行:青土社
ISBN-13:978-4791756278
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タンゴにクラシックやジャズ、現代音楽を
融合させた独特の演奏スタイルで
世界的なタンゴのブームを巻き起こした
アストル・ピアソラ。
様々なアーティストに影響を与えた
彼の生涯と作品を紹介したご本です。
ピアソラの没後15周年にあたる今年は、
「ピアソラ・フォーエヴァー」コンサートも
あるとのこと。
このご本を担当された
青土社の水木さんにお話をうかがいました。
(「ほぼ日」渡辺)

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担当編集者/
青土社 水木康文

アストル・ピアソラ。
タンゴのバンドネオン奏者、作曲家。
1921年アルゼンチン生まれ、1992年死去。
‥‥といわれても、
「ピアソラって誰?」
「タンゴってなんとなくイメージはあるけど
 バンドネオンってどんな楽器だっけ?」
とおっしゃる方もいるかもしれません。
タンゴは、19世紀末、
アルゼンチンの首都ブエノスアイレスの下町で、
いくつかの音楽とダンスが出会って生まれました。
移民たちが悲哀と苦渋のなかで
明日への希望を託し、浸った音色と踊り‥‥
情熱と哀愁の溶け合った
独特のリズムとメロディーは、
日本でも戦前から人気を博し、
熱狂的なファンに支持されてきました。
タンゴ演奏の中心で活躍する
黒い蛇腹の楽器バンドネオンは、
一見、アコーディオンに似ていますが、
鍵盤ではなくボタン式で
しかも、音階順に配列されていない!
つまりとても弾きこなすことが難しいのです。
このバンドネオンの音色なくしては
タンゴの醍醐味は発揮されません。

さて、かくも一世を風靡したタンゴですが、
第2次大戦後はポップスやロックの台頭で、
ある時期から
「一部のマニアの愛好する過去の音楽」
というイメージが付きまとっていたのも
事実かもしれません。
そんなタンゴのなかから登場し、
タンゴを斬新な音楽に生まれ変わらせた天才音楽家、
それがアストル・ピアソラです。

幼い日のバンドネオンとの出会いから、
クラシックや現代音楽への傾倒、
タンゴへの回帰、
そして絶えざる挑戦、革新、
世界をまたにかけた活躍、
そしていくつかの挫折と栄光‥‥
彼の生涯はまさに「闘い」の連続でした。
本書の帯に「タンゴの革命児」という言葉が
銘打たれています。
タンゴの革命児といえばかっこいいですが、
保守的なタンゴ・ファンからはむしろ、
「タンゴの破壊者」と呼ばれ、
異端視されたアーティストでもありました。
しかし彼はタンゴに新しい命を吹き込み、
20世紀を代表する作曲家の一人として、
いまも世界を魅了しつづけています。

この類まれな個性と才能はいかにして
生み出されたのでしょうのか?
その生涯と作品、めまぐるしい活動と多彩な交流の、
わかるかぎりすべてを跡付けた、究極のピアソラ本、
それが本書です。


「コロン劇場のピアソラ」
 写真提供:斉藤充正


90年代から00年代前半にかけて、
ヨー・ヨー・マやギドン・クレーメルらをはじめとして、
ジャンルを越え、クラシック、ジャズの一流奏者が
続々とピアソラの曲をとりあげ、
テレビCMでも使われて、
「ピアソラ・ブーム」が巻き起こりました。
1992年のピアソラ自身の死と
まるで相前後するかのように。
長い目で見ると、ワールドミュージックのブームも
もちろん追い風だったでしょう。
以前は欧米発の音楽に席巻されてきた、
世界の音楽状況のなかで、
欧米発の音楽とは別のテースト・別の出自・
別の風を求める聴衆の欲求があるように思います。
コスモポリタンでありかつ、
ブエノスアイレスのタンゴの魂を深く宿したピアソラには
その条件がそろっていたのかもしれません。
本書はブーム以前から、この偉大な音楽家の虜になり、
音盤・資料を広く探し求めてきた
著者、斎藤充正さんの集大成です。
また世界的な潮流を先取りして、ピアソラの魅力を
いかに受け止め、位置づけ、紹介するか、
そんな心情と志が実を結んだ
最大限の成果だったと思います。

世界の音楽の情報誌「ラティーナ」での連載が
母体となっていますが、
連載時から一部音楽ファンの間では
熱烈に注目されていました。
それを新たに単行本に向けて作りなおす
お手伝いができたのは、
橋渡ししてくれた知人のおかげもあり
ほんとうに思いがけない幸運でした。
また「お手伝い」といっても下版前1ヵ月は
著者の仕事量とパワーに引っ張り上げられた
というのが実情かもしれません。
斎藤さんに多謝です。
「ラティーナ」編集部には本書のみならず
その後もお世話になり重ねて感謝に堪えません。

そもそも斎藤さんとの出会いは、
いや正確に言うと私にとっての一方的な出会いは、
彼が率いていたあるバンド(というかユニット)を
某ライブハウスで聴いたときでした。
ステージ上で彼は流麗なピアノを弾いていたことを
記憶しています。
(彼にこの話をするとちょっと恥ずかしそうにします)。
そして幾年月がたち、
私が遅ればせながらピアソラの魅力に気付き、
初めて生の演奏に触れたのが、
1988年の歌手ミルバとの来日公演。
さらに数年が経ったある日、
「ピアソラ」や「タンゴ」の文字とともに、
どこかで見覚えのある斎藤さんの名前に再会したのです。
思えば、自分が興味を抱いたものに向かって
一途に邁進していく斉藤さんの姿は、
ライブをやっていた頃から一貫して変わらず、
ピアソラという大きなテーマを見つけた彼は、
ますます精力的にその夢と力を展開しようとしている、
そんな印象を持ったものです。


「ピアソラとミルヴァ」
 撮影:岡部好


社内編集会議での企画成立からは、ひたすら執筆に専念、
私の記憶では、1年も経たないうちに本文の主要部分は
脱稿したのではないかと思います。
ピアソラの歩みだけでなく、膨大な音盤を聴き込み、
公演の資料はもちろん、
ピアソラが関わった映画や放送番組までも網羅し、
その内容を記述し位置づける、という徹底ぶり。
さらに頻出する人物名をすぐに調べられるように、
本文下段に関連人物紹介を配し、
かゆいところに手が届く構成に。
しかし、それより何よりだれしも驚くのは、
巻末の空前絶後のディスコグラフィーでしょう。
斎藤さんはこのディスコグラフィーなどの巻末資料を、
すべてご自分で日夜こつこつと作り上げていたのです。
まるで難解かつ壮大なパズルを解くような作業!
本来なら編集者と印刷所があれこれと苦心してやるべき
文字や図版を配置して紙面構成を作る仕事も
一手に引き受けられ、
プロ顔負けの技術と寝食も忘れかねないハードワークで、
あれよあれよという間に完成されたのです。
こうしてでき上がった本は、
550ページに及ぶ評伝篇に400本近い関連人物紹介、
さらに160ページを超える
ディスコグラフィーなどの巻末資料‥‥
合わせて730ページ余りの堂々の大冊となりました。
ひとりの音楽家の軌跡をここまで丹念に描き出したのは、
数ある音楽書のなかでも特筆されるに違いないでしょう。
じつは初版刊行が1998年、
つまり10年近く前の本なのですが、
海外もふくめ未だにピアソラ本の決定版に違いないと
内心ひそかに思っています。
実現の運びには到っていませんが、
海外から英訳・スペイン語訳の引き合いがあったことも
その証しのひとつでしょう。
著者の斎藤さんは本書の業績で
第9回出光音楽賞(学術研究部門)を受賞しました。
まさに渾身の書き下ろし。
著者の愛と情熱がこめられた圧巻の書です。
それはまたピアソラという偉大な音楽家の魅力の
なさしめた所為でもあるでしょう。
まだ本書を目にしていない方は、ぜひ一度手に取り、
その魅力に圧倒されんことを、
そして望むらくはご購読いただければと願っております。

さいごに‥‥、
ピアソラの音楽の後継者として
名前の上がるミュージシャンのひとりに、
リシャール・ガリアーノがいます。
彼はタンゴ出身ではないのですが、
晩年のピアソラが最も認めていたとされる音楽家で、
その挑戦的な姿勢は、たしかにピアソラを
髣髴(ほうふつ)とさせるものがあるように思います。
彼がピアソラの曲を弾いた
『ピアソラ・フォーエヴァー』は、
その魅力を堪能できる最適の1枚でしょう。
そしてピアソラ没後15周年の今年、
もうまもなくそのレパートリーをひっさげての
待望の来日公演が行われます。
本書を片手にぜひライブで、
ピアソラが残したもの、そして新しい息吹に
触れてみてはいかがでしょうか。

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■ お知らせ ■

「リシャール・ガリアーノ
 ピアソラ・フォーエヴァー〜2007ジャパンツアー」


タンゴ界の巨星アストル・ピアソラが、
自らの後継者として指名した世界的なアコーディオン奏者、
リシャール・ガリアーノの東京公演が決定! 
名曲「ブエノスアイレスの冬」「天使のミロンガ」ほか、
ピアソラへのオマージュで構成されるステージです。

●公演
日時:4月10日(火)18:30開場 19:00開演
場所:紀尾井ホール
一般(指定席)8,000円
●スペシャル・ワークショップ
日時:4月12日(木)13:30開場 14:00開演
場所:紀尾井小ホール
一般(自由席)2,000円

くわしい情報やお問い合わせは
公式サイトをごらんください。
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『アストル・ピアソラ 闘うタンゴ』
著者:斎藤充正
価格:3,570円(税込)
発行:青土社
ISBN-13:978-4791756278
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2007-03-27-TUE

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