担当編集者は知っている。


『たべる しゃべる』
著者:高山なおみ
写真:長野陽一
価格:1,575円(税込)
発行:情報センター出版局
ISBN:4795845220
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素材の味をとことん引き出した
シンプルでおいしいお料理を教えてくれる
料理家の高山なおみさん。
このご本は、
高山さんが料理を作ってあげたいと思う
大切なひとたちをひとりひとり訪問し、
台所を借りて料理を作ったり、
食べたりしながら、
おしゃべりしたことをまとめたものです。
(もちろんレシピつき! 
 エッセイ集であり料理の本でもあります)。
高山さんが前書きで「毎回打ちのめされた」
「想像をこえていました」と語る
それぞれの方とのお話の内容はもちろん、
料理も写真もリアルで
ずんっと胸に響いてきます。
高山さんの魅力がまるごと伝わってくる
このご本を担当された情報センター出版局の
田中さんにお話をうかがいました。
(「ほぼ日」渡辺)


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担当編集者
/情報センター出版局 編集部 田中正紘


この本の著者である料理家の
高山なおみさんにお会いする数ヵ月前、
僕は持病で1ヵ月半ほど入院をしていました。
大腸が悪くなってしまったので
食べ物を通してはいけないと、
喉のところから全身をめぐる血管に
点滴の管を通し、絶食をし、
全ての栄養を点滴でまかなっていました。

全栄養分が足りているはずなのですが、
そんなときでもなぜか食欲は湧いてきます。
しかもひどく強烈なものがやってきます。
「水分をとるのはかまわない」と言われ
水だけはずいぶん飲んでいましたが、
とにかく噛みたくて、飲み込みたい。
その思いが絶えず襲ってきて、
なんとか気持ちを紛らわせるために
病院の売店に置いてある料理雑誌を
次から次へと買って読みました。
写真を隅から隅まで眺めては、
自分が食べているところを想像し、
その食感を頭の中で作り出そうとする。
噛んだときに肉汁が出てくる様子や、
麺をすすって飲み込むときの、のどの感触を
出来るだけ詳細に思い浮かべると、
僅かながら食べた気になれる。
とはいえそのすぐ五分後には
また激しい食欲が襲ってくるのですが。
自分がこんなにも食べることを求めていたのか
と驚きつつ、
とにかくこの「飢え」をなんとかしたい
という思いが常にありました。



そんななか、高山さんの料理が
不思議と気になっていました。
何かの料理雑誌で読んだのだと思います。
この人の作る料理は自分の好みだ、と思いました。
お見舞いに来てくれた友人に
「この人の本を買ってきて」と頼み、
友人が買ってきたものは
料理のレシピ本と、高山さんの日記の本。
そのとき初めて読んだ高山さんの文章が
とにかく食べることへの渇望を和らげてくれました。
なにか格段に心が落ち着く度合いが大きかったのです。

何故そんなにも食欲を落ち着かせてくれたのか。
それは高山さんの文章を読んでいると
食卓の姿まではっきりと、
思い浮かべることができたからでした。
料理そのものだけではなく、
その食卓に同席する人々の魅力まで
文章で描いているから、
自分もその場にいて、
まさに食事をしているような気になれました。
誰と食べるのか、どんな状況で食べるのか、
そのことまで含めて強い食欲が存在していて、
料理とはただレシピのことだけではないのかもしれない。
自分が求めていたのは、
舌やのどで食物を味わうことだけではなく、
「誰と」「どんなときに」など、
その状況まで一緒になった
「食事」という行為なのかもしれないと思いました。

そんなことを漠然と考えていて、
高山さんの別のエッセイを読んでいたら、
「状況によって特においしく感じる食べ物がある」
ということが書かれていました。
そのとき、高山さんの本を作りたいと
心の底から思いました。



この度ご紹介をさせていただく
『たべる しゃべる』という本は
その文章量からエッセイというジャンルに
括られるものだと思いますが、
語弊を承知でお伝えするならば、
その食べるときのシチュエーションまで含めた
レシピ本といってもいいかもしれません。
高山なおみさんが、身近な愛する人々のもとに
ごはんを作りに会いにいく。
その体験をレシピとともに綴っている本です。

料理が人と人をつないでいて、
さらに高山さんのそれぞれの方への深い思いが
文章の端々に、レシピに、溢れています。

何かの答えが見つかる本ではありません。
でも、感情の奥にウワッと訴えかけてきます。
料理そのものの凄みが、
文章で、写真で、迫ってきます。

人と料理の素晴らしい写真を撮ってくださったのは
長野陽一さんという写真家の方です。
その場の空気が、そのまま切りとられていて、
ふと開いてずっと眺めてしまう写真は、
人々の思いが見えるような気がするほどです。
料理の写真は、その味や歯ごたえまでわかってしまう。

登場していただいたのは、登場順に
プリン屋のカトキチ&アムさん、
ミュージシャンの永積タカシさん、
編集者の丹治史彦さん、骨董屋の吉田昌太郎さん、
写真家の齋藤圭吾さん、デザイナーの有山達也さん、
写真家の川内倫子さん、作家のいしいしんじさん、
そして旦那さんで発明家のスイセイさんです。



それぞれご自身のフィールドで
活躍なさっている方ばかりですが、
もともと高山さんと深く親交のあった方ばかりです。
というのも、料理を作りたい気持ちに
嘘が混じっていれば
それはどんなにうまく作りこんだとしても
読者に伝わってしまうのではないか、
と考えたためです。
高山さん、写真の長野陽一さん、そして僕で
何度も打ち合わせをしていくなかで、
とにかく本気で、
実際の場そのままを凝縮した本にしたい、
という共通の思いができていきました。
「食べる」という根源的なことを扱った本を
作ろうとしているのに、
小手先のテクニックや、見せかけの感情で動いていたら、
うまく本ができる気がしませんでした。
本の中の永積さんの言葉を借りれば「フルチン状態」で、
アムちゃんの言葉を借りれば「動物みたいに」。
不思議なもので、取材をさせていただいた方はどの方も
変に飾り立てることなく、どんなことに対しても
本気で対峙していらっしゃる方ばかりでした。



取材は、お昼にお邪魔させていただき、
話が盛り上がって、夜中まで続くこともしばしば。
ですが熱気が途絶えることは全くありませんでした。

どの方にもその一言一言に
経験から培われたのだろう深みがあり、
そのたたずまいに風格すら感じてしまうほどで、
さらにその方々に高山さんと長野さんがしっかりと、
全力で関わっていく。
食卓で交わされる会話は、子供の頃のことや、
最近のお仕事の話など、
親しい方同士が普段話すようなことなのですが、
そのもとにある思いの真っ直ぐさが、
圧倒的な熱を持っていました。

『たべる しゃべる』は料理家の本であるにも関わらず、
詳細なレシピは載っていません。
「お店でふるまう料理」ではない
「親しい人に作る料理」は、
シチュエーションによって味が変わる
「一度きりの料理」であるためです。
だから作り方は掲載していますが、
読んだ方がその時々に「一度きりの料理」を
身の回りの人に作るための
最小限のみ掲載をすることにしました。

ブックデザインは葛西薫さんに。
実はほぼ日ブックスの『調理場という戦場』
(葛西さんのデザインです)が
長い時間を経ることで良い色合いに変化をし、
深く力強い様相を見せていたことから、
何度も読み返してほしい本だから、
是非葛西さんにと、ご無理を承知でお願いをしました。
お忙しい中にもかかわらず引き受けてくださって、
出来上がったものは、何故か本棚に並べたとき、
ずっと以前からそこにあったような表情を見せました。



実際の本を読んでいると、
とにかく濃厚に思いが詰まっており、
読んでいると言葉にできないような
「なまなましさ」が身に迫ってきます。
「たべる」「しゃべる」という日常的な行為であるはずが、
高山さんの文章と長野さんの写真で
「むき出し」になっています。

本屋さんでふと見かけたら、
是非手に取って読んでみてください。
あまりの熱気に、一度に全ては読めないかもしれませんが、
全部読み終わるころには、
誰かに料理を作りたくなったり、
実家のお母さんの料理が食べたくなったり、
心の中に『たべる しゃべる』ことへの
力強い渇望がもともとあったことに、
気づいてしまうかもしれません。

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『たべる しゃべる』
著者:高山なおみ
写真:長野陽一
価格:1,575円(税込)
発行:情報センター出版局
ISBN:4795845220
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2006-11-07-TUE

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