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戦前戦後の日本の近代建築をリードした 建築家・前川國男さんの遺した建築と、 その思想について14人の関係者が論じたご本です。 前川さんは今から78年前の昭和3年、 ル・コルビュジエに師事すべく海外へ。 帰国後、日中戦争、第2次世界大戦、 高度経済成長‥‥と日本が大きく変わる中、 常に「知的自由を守り抜く姿勢」をつらぬき、 社会にとっての建築を問い続けた方だそうです。 このご本を担当された六耀社の久保さんに お話をうかがいました。 (「ほぼ日」渡辺) ************************************************ 担当編集者 /六耀社編集部 久保万紀恵 前川國男は戦前から1986年に亡くなるまで半世紀に渡り、 日本の建築界をリードした建築家で、 200以上もの作品を世に遺しています。 代表作には、「神奈川県立図書館・音楽堂」「京都会館」 「東京文化会館」「埼玉県立博物館」「熊本県立美術館」 といった公共建築が多く、名前を知らなくとも、 作品には親しんでいる方もいるのではないでしょうか? 私が待ち合わせによく利用する、 新宿東口の紀伊國屋書店のビルも、前川作品のひとつです。 ![]() ▲設計室の前川國男。1970年(撮影:渡辺義雄) ![]() ▲「東京文化会館」1961年竣工 (撮影:松隈洋) 1905年生まれの前川國男は、 昨年、生誕100年ということで、 東京ステーションギャラリーを皮切りに、 「生誕100年・前川國男建築展」が行われ、 改めて広く知られるきっかけとなりました。 その後、建築展は弘前、新潟を巡回し、 現在は11月5日まで前川設計の「福岡市美術館」、 続いて、11月17日から12月24日まで、 京都造形芸術大学で行われます。 京都が最後の巡回地となりますので、 興味のある方は、ぜひ足を運んでみてください。 とくに、全国の学生たちが木で作り上げた模型は、 細部に至るまで前川作品を再現した力作ぞろい。 見ごたえのある展示になっています。 ![]() ▲「東京文化会館」模型。 2005年、東京ステーションギャラリーにて (撮影:齋藤さだむ) 本書もこの展覧会の関連イベントから生まれたものです。 前川國男の勉強会のような形で、 展覧会に先駆けて行われた7回のセミナーと、 東京展の会期中に催された2回分のシンポジウムを まとめた講演録で、建築家や建築史家、編集者など14人が、 前川國男にまつわる建築論を思い思いに展開しています。 実際に親交の深かった方々による、前川さんの人間味が 伝わるような貴重なエピソードが盛り込まれているほか、 前川國男の歩みを中心に、同時代の建築家やその作品、 当時の時代背景などが語られ、日本の近代建築の流れを 読み解くこともできる内容になっています。 この本の中で、建築から派生する話題は、 日本人の歴史観や経済の動き、情報化社会や教育論、 さらには、いかにして生きるかといった人生論に至るまで、 じつに多岐に渡っていますので、 建築に興味のある方はもちろん、興味のない方にも 楽しんでいただけると思います。 私自身、建築という枠を越えて、 気づかされることばかりでした。 まず、建築家の富永讓さんの 「最近は、写真のために建築を作っているような人が 多くなった」という言葉から、 メディアの力を改めて感じました。 形や素材により見栄えのする建築は メディアに取り上げられることが多く、また、私たちには、 よく目にするわかりやすいものを評価する傾向があります。 そのせいか、写真映えのするガラス張りの 軽やかで明るい建築が、最近目立つように思います。 もちろん、一概にガラス張りの建築が悪いと 言っているわけではありません。 ただ、似たような建築ばかりがたちならぶと、 街が無表情になっていくような気がするのです。 建築本来の価値というのは、 居心地のよさや機能性といった、 体験してこそわかるものであり、 写真や映像といったメディアで伝えるには限界があります。 情報を受け身でとらえるのではなく、それが真実か否か、 常に自分で体験して考えることの大切さと、 情報を発信する側としての責任の重さを痛感しました。 また、写真に関しては、この本の編者である松隈洋さんが、 前川國男の言葉を次のように引用しています。 あるインタビューで、写真家が「埼玉県立美術館」の 撮影に苦労した話を受けて、 「さもありなん、とひそかにほくそえんでいた」 と語っていたそうなのです。 前川さんの、とくに1960年代中ごろ以降の作品は、 まわりの環境に沈みこむような、 タイル張りの重々しい建築が多く、 写真に収めにくいと言われます。 しかし、その多くが、今なお街に溶け込み、 人々が集う場所として利用されていることを考えると、 メディアに頼ることなく、 ひたむきに人と社会のための建築を作り続けた 前川國男の姿勢を感じます。 ![]() ▲「埼玉県立博物館 (現・埼玉県立歴史と民俗の博物館)」 1971年竣工(撮影:松隈洋) 建築家の内藤廣さんは、前川さんがお好きだった 「人間は所詮滅びるかもしれず、 せめて抵抗しながら滅びようではないか。 そして、そうならないようにしよう」 というセナンクールの言葉を引き合いにして、 昭和の時代には、「抵抗しながら滅びる」か 「したたかに生きのびるか」というふたつのタイプの 生き方があったのでは、と語っています。 そして、前川さんは、抵抗しながら 最後まで闘った数少ない建築家だろうとも‥‥。 前川國男は、どのように抵抗し、闘ったのか、 ぜひこの本を読んで考えてみてください。 さらに、建築や社会は今どうなっているのか、 その中で自分はどう生きていくべきかなど、 思いを巡らすきっかけになると嬉しいです。
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2006-10-03-TUE
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