担当編集者は知っている。


『ユダの福音書を追え』
著者:ハーバート・クロスニー
価格:1,995円(税込)
発行:日経ナショナル ジオグラフィック社
ISBN:4931450601
【Amazon.co.jpはこちら】



『原典 ユダの福音書』
編著者:ロドルフ・カッセル、マービン・マイヤー他
価格:1,890円(税込)
発行:日経ナショナル ジオグラフィック社
ISBN:493145061X
【Amazon.co.jpはこちら】

1700年前のパピルス文書を復元・解読したところ、
禁断の書として名前だけが伝わっていた
「ユダの福音書」であることが判明しました!
その発見から解読までの経緯をつづった
『ユダの福音書を追え』と、
解読した内容を日本語に翻訳した
『原典 ユダの福音書』の2冊を今回はご紹介します。
さらに「ほぼ日」では「芸術人類学青山分校!」
おなじみの中沢新一さんが、
解読を担当したマービン・マイヤー教授と
対談されたときのお話とあわせ、
日経ナショナル ジオグラフィック社の
長友真理さんにうかがいました。
(「ほぼ日」渡辺)


**********************************************

担当編集者
/ナショナル ジオグラフィック日本版 長友真理

キリスト教にそれほど詳しくなくても、
「ユダ」と聞けば「あの裏切り者の‥‥」と
ピンとくる人は多いでしょう。
ユダはイエスに選ばれた弟子の1人であるにもかかわらず、
わずかな金と引き換えにイエスをローマの官憲に売り渡し、
裏切った、と新約聖書に描かれています。


▲ユダの裏切りの場面を天井に描いた、
 トルコのビザンチン様式のフレスコ 画
 (年代は5〜14世紀の間)。
 祝福を示すキリストと、裏切りの接吻をするため
 キリストを抱擁するユダ。
 写真撮影:Kenneth Garrett
 ©2006 National Geographic Society
 (特別に表記してあるもの以外、以降同様).


間違いなく、キリスト教信仰の中で
最も忌み嫌われている存在といえるでしょう。
そのユダの名前を冠したキリスト教の文書が発見された
というニュースを覚えている人もいるかもしれません。
それがこの「ユダの福音書」です。


▲エジプトのミニヤー県北東部にある洞窟群。
 『ユダの福音書』を含む写本はこの付近で見つかった。


福音書はイエスの生涯を描いた文書です。
新約聖書には正典として
4つの福音書(マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネ)が
収められています。
しかし、聖書に採用されなかった
福音書もたくさんあります。
「ユダの福音書」もその一つですが、
他にも『ダ・ヴィンチ・コード』で有名になった
マグダラのマリアの名前を冠した「マリア福音書」や
「トマス福音書」など数十種類もあります。
その多くは「グノーシス派」と呼ばれる集団で
信じられていたもので、
キリスト教正統派からは“異端の書”とされてきました。
「ユダの福音書」の内容が明らかになったのは
今回が初めてですが、
その書名はすでに2世紀の文書に記されています。
フランス・リヨンの司教エイレナイオスが
糾弾しているのです。

「ユダの福音書」のすごいところは、
まずは何と言っても書名です。
イエスを裏切って磔刑にかけた張本人と言われてきた
ユダが福音書のタイトルになるとは、
とても想像できません。
おそらく欧米では日本以上に衝撃を与えたはずです。
さらに驚いたのは、この文書で描かれている
ユダの人物像が、新約聖書とはまったく異なることです。
「ユダがイエスを裏切ったのは、
 イエス自身に命じられたためである」
「イエスがユダに自分を裏切るよう命じたのは、
 ユダこそがイエスの教えを最も正しく理解していた
 側近だったからだ」
――ここではユダはまるで英雄のように語られています。
しかも、ユダはイエスを裏切ることで
自身にもたらされる運命を承知していたと言います。
いくら師であるイエスの指示とはいえ、
イエスを死に追いやる苦悩はいかばかりであったか。
それでもすべてを引き受けて、師の指示を実行したユダ。
また、その後待ち受けている運命にひるむことなく、
ユダが自分の指示に従うであろうと信じた、
師イエスの強さ――。
信頼で結ばれた彼らの深いつながりまで、
つい想像してしまうのです。

この文書は、1970年代にエジプトで発見された
パピルスに書かれていました。
その後さまざまな紆余曲折を経て各地を転々とし、
2001年になって現在の所有者である
スイスの財団の手に渡ったときには、
軽く触れただけで粉々になりそうなほど
もろくなっていたそうです。


▲『ユダの福音書』を含む写本はパピルスの劣化が進み、
 修復前にはぼろぼろの状態だった。
 写真撮影:フロランス・ダルブル(Florence Darbre)



▲パピルスの断片をつなぎ合わせてみると、
 「ユダの福音書」の冒頭の一節は
 次のように始まっていた。
 「過越(すぎこし)の祭りが始まる3日前、
  イスカリオテのユダとの1週間の対話で
  イエスが語った秘密の啓示」



▲写本を調べる研究者たち。
 左から、炭素年代測定法により
 写本の成立年代を調べるティム・ジャル、
 コプト語研究者のスティーブン・エメル、
 修復専門家のフロランス・ダルブル、
 翻訳チームを率いるコプト語研究者の
 ロドルフ・カッセル。


この文書を修復、鑑定し、内容を翻訳するプロジェクトを、
米国ワシントンDCに本部を置く
ナショナル ジオグラフィック協会が支援したため、
この刺激的な文書にまつわる記事や書籍、映像を、
ナショナル ジオグラフィックから
お届けすることになりました。
『ユダの福音書を追え』は、
写本の発見から解読に至るまでの
ドキュメントをつづっています。
さまざまな思惑のために「ユダの福音書」は
数奇な運命をたどりましたが、
そのストーリーたるやミステリーも真っ青です。
一方、「ユダの福音書」そのものを翻訳し、
解説を付け加えたのが『原典 ユダの福音書』です。
「ユダの福音書」はグノーシス派の文書なので、
キリスト教について多少知っていたとしても、
理解するには骨が折れます。

キリスト教文化圏に属していない私たち日本人が、
「ユダの福音書」を理解するにはどうしたらよいだろうーー
そこで思いついたのが、
中沢新一先生に「ユダの福音書」について
どこかで解説いただいてはどうか
ということでした。というのは、
中沢先生が近年の著作(『神の発明』『芸術人類学』など)
で語られている「神聖なもの」は、
「ユダの福音書」をはじめとするグノーシス派の文書と
共通する部分があると思ったからです。
そこで、「ユダの福音書」の翻訳者の一人である
米チャップマン大学のマービン・マイヤー教授が
来日した際、中沢先生に対談していただきました。

この試みは成功したと思っています。
ナショナル ジオグラフィックの出版物は
ほとんどが米国で発行された出版物の翻訳ですが、
翻訳物からは決して出てこない考え方を
対談の中でご披露いただけたからです。
キーワードは「悟り」。
キリスト教の“異端”がなぜ「悟り」なのか。
興味のある方はぜひ中沢先生とマイヤー教授の
対談録をご覧ください。
ウェブ限定で公開しています。
また『ナショナル ジオグラフィック』日本版9月号
特別付録『新解説 ユダの福音書』にも、
「知的な思想作家が描いたユダの"裏切り"」という
小論を寄稿いただいています。

「ユダの福音書」の研究は今始まったばかりです。
今後さまざまな研究者が、
独自の解釈を展開していくでしょう。
作家や映画監督などのクリエイターが、影響を受けて
小説や映画を制作していくことも考えられます。
ナショナル ジオグラフィックでも引き続き
「ユダの福音書」に関連した情報を発信していきます。
ぜひご期待ください。

**********************************************


『ユダの福音書を追え』
著者:ハーバート・クロスニー
価格:1,995円(税込)
発行:日経ナショナル ジオグラフィック社
ISBN:4931450601
【Amazon.co.jpはこちら】



『原典 ユダの福音書』
編著者:ロドルフ・カッセル、マービン・マイヤー他
価格:1,890円(税込)
発行:日経ナショナル ジオグラフィック社
ISBN:493145061X
【Amazon.co.jpはこちら】

担当編集者さんへの激励や感想などは、
メールの題名に本のタイトルを入れて、
postman@1101.comに送ってください。

2006-09-19-TUE

BACK
戻る