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| 担当編集者は知っている。 |
ラジオのDJをつとめていた 作家のポール・オースターが 全米のリスナーから「実話」を集め、 選び抜いた180篇を自ら朗読しているCDブック。 いろいろな年代や職業の人々が投稿した実話は、 死とのニアミス、びっくりするような偶然、 家族の話、第二次大戦の思い出など多岐に渡り、 他人から見ればささやかだけれども、 その人にとっては一生忘れられない 出来事があるのだとしみじみします。 本には原文(英語)と日本語訳がおさめられ、 1巻につき朗読CDが2枚ついています。 アメリカ文学が好きな方はもちろん、 英語を学ばれている方にもオススメです! ご担当されたアルクの白川雅敏さんに お話をうかがいしました。 (「ほぼ日」渡辺) ************************************************ 担当編集者 /アルク英語書籍編集部 白川雅敏 ポール・オースターの 呼びかけで集まった 「本当の物語」 「実話」を求めたオースターのラジオ番組 「世界は偶然に満ちている」。 日本でも柴田元幸さんの翻訳で多くの読者を持つ アメリカの人気作家ポール・オースターは、 「偶然」によって導かれる物語を好んで描いてきました。 主人公マーコの成長物語ともいえる青春小説 『ムーンパレス』では、 偶然出会う老人や大学教授が実は自分の肉親であり、 その偶然が物語の欠かせない要素となっています。 また、『トゥルー・ストーリーズ』という、 実話ばかりを集めたエッセイ集のなかで、 オースターは自身の不思議な体験を披露しています。 驚くべき偶然を体験しているのは自分だけではない、 つねづねそう感じてきたオースターは、 1999年から2001年にかけて ラジオ番組「National Story Project」(以下NSP) のホストを務め、リスナーに実話の投稿を呼びかけます。 集まった投稿の数は5000通以上。 オースターはその投稿すべてに目を通し、 おもしろいものを選んで番組にしたのです。 「オースター自身がすべてに目を通し、選び、 そして朗読する」。 このことがリスナーの投稿意欲に火をつけ、 すばらしい実話が集まりました。 笑える話、しんみりする物語、 アメリカならではの宗教や差別に関係する体験、 そして、オースターの予感を確信に変える 「偶然」にまつわるエピソードなどなど、 実に興味深い実話が全米各地から寄せられました。 アメリカ取材旅行からすべてははじまる 私がNSPについて知ったのは2000年のこと。 その年の夏、私は柴田元幸さんとアメリカ作家6人に 取材をするためアメリカを横断する旅に出ました (この取材は後に『ナイン・インタビューズ 柴田元幸と9人の作家たち』となります)。 もちろん、オースターも取材したかったのですが、 「小説を書いている間はインタビューは受けないんだ」と 断られることに。 とはいえ、オースター夫人であり、 すぐれた作家でもあるシリ・ハストヴェットに 取材するためオースター宅にお邪魔し、 ディナーまでご馳走になりました。 シリへのインタビュー終了後、 シリが台所で食事の準備をしてくれている間、 オースターと柴田さんはベランダに出て 近況を語り合いました。 オースターが当時ホストを務めていた NSPのこともそのときに聞かされ、 「実におもしろい話が多いんだ」とオースターは言い残し、 リスナーから寄せられた投稿を取りに 地下の書斎に降りていきました。 段ボール箱いっぱいの手紙を抱えて ベランダに戻ったオースターは、 椅子に座るなりその中から何枚かを取り出し、 語って聞かせてくれました。 ![]() ▲ブルックリンにあるオースター家の地階。 愛犬ジャックがわれわれを案内してくれた。 いま思えばすぐ目の前で NSPをライブで体験していたことになりますが、 そのときにオースターは、 第二次世界大戦に従軍し日本に駐留した アメリカ兵と日本兵の間に起きたエピソードやら、 コミカルなニワトリの話やら、 人間味あふれる"true stories that sounded like fiction" (作り話のように聞こえる実話)を聞かせてくれました。 「これはおもしろい、ぜひNSPについて紹介したい」と 感じた私は、当時在籍していた月刊誌に掲載したのです。 そしてラジオ番組は本になる 番組が進むにつれオースターは、 「プロジェクトの可能性を十分活かすには 本が必要だという気がしてきた。 よい話があまりにたくさん届くので、 放送に値する物語のうちごく一部しか紹介できないのだ。 (中略)‥‥やはり、 とりわけ記憶に残る話を集めて 文字の形で保存したかった」 と考えるようになります。 その結果、全米から寄せられた実話は本となり、 オースターの朗読を収録したカセットブック(のちにCD) となりました。 さらに4年の歳月が流れ、日本では2005年夏、 新潮社から『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』 として179話をおさめた翻訳版が刊行され、 アルクからは、179話から18話をセレクトし、 原文(=英語)、翻訳、そして、オースターの朗読を セットにしたCDブックの形で出版されました。 その2冊が刊行されるや、 多くの新聞・雑誌の書評欄で取り上げられ、 「ここにはほんとうのアメリカがある」と 高評をいただきました。 アルク版には、読者から 「18話だけでなくすべて刊行してほしい」 という声が寄せられ、 オースターの朗読音源のある130話すべてを 出版することに。 2006年8月、4冊同時刊行の運びとなったのです。 ![]() ▲続巻の表紙モチーフとなっているシーリング・スタンプ。 シリーズのコンセプトは「手紙」。 第1巻は切手、そして、続巻4冊は封筒の封をする シーリング・スタンプ。 オースターのサインがあしらわれている。 日本版ナショナル・ストーリー・プロジェクト 続巻4冊同時刊行にあたって、柴田さんと相談し 「日本版ナショナル・ストーリー・プロジェクト」とも 呼べる企画を立てました。 人気日本人作家に実話の執筆と朗読をしてもらい CDブックに収録する、というものです。 本シリーズ監訳者の柴田さんが1篇実話を寄せるとして、 あとの3人を誰にするか? オースター、アメリカ文学、柴田元幸、実話‥‥ 共通項を検討し、次の3人を選び出しました。 いまや『博士の愛した数式』で押しも押されもせぬ 大ベストセラー作家となった小川洋子さんは、 NSPについて書評を書かれたり、 講演会などでNSPから気に入った1篇を 朗読されたりしていました。 依頼のメールを送ると二つ返事で引き受けていただき、 実話もあっというまに送ってくださいました。 後日、朗読収録のためにお会いした際、 筆の速さについて質問したところ、 「『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』を 読んでいるときから、 自分だったらどんな話を書くだろう、と考えていたの」。 書くことを生業とする 小説家ならではの回答に唸ってしまいました (小川さんの実話は第2巻収録)。 『LOVE』で三島由紀夫賞を受賞し、 『サウンドトラック』『ベルカ、吠えないのか?』で 本好きに圧倒的人気の古川日出男さんは、 柴田さんとの対談(『青春と読書』[集英社])の中で、 ティム・オブライエンの”The Things They Carried” (村上春樹訳『本当の戦争の話をしよう』原作)の 朗読CDを購入し、毎朝聞いていると語っていたので、 「もしかしたら」と思い 集英社の編集担当の方を経由して依頼してみました。 すると、 「それはとても嬉しい話なので、やります。 てゆうか、僕はオースター朗読CD付きのアルクのそれ、 持ってます」 という感涙もののコメントまでいただきました (古川さんの実話は第3巻収録)。 若者のバイブルともなっている 『深夜特急』著者、沢木耕太郎さんは、 FMラジオのJ-WAVEで毎年クリスマスイブ深夜に 特別番組のDJをつとめていて、 昨年2005年イブの放送で、 『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』から 1篇を朗読されていました。 ノンフィクションの第一人者と実話を集めた 『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』。 その組み合わせに「なるほど」と合点がいきました。 これで4人目も決まりました (沢木さんの実話は第4巻、 柴田元幸さんの実話は第5巻に収録)。 読者と興奮を分かち合いたい 私は卓越した才能を持った人を見つけたとき、 誰かにその人のことを教えたくなります。 編集者とはそういった性向を職業にしている人種 と言ってもよいかもしれません。 柴田さんの翻訳・エッセイに出会ったとき、 自分が感じた興奮を ひとりでも多くの人と共有したいと思いました。 柴田訳を通じてオースターの愛読者ともなった私は、 未訳のオースター作品にも手を出すようになり、 英語を読む楽しさを知りました (英語の教材を作るという仕事に就いていながら こう言うのもなんですが、 「英語を学ぶ意味」というのはこういうことなのだ、 とそのとき理解しました)。 柴田訳を通してでも、また、原書ででも、 もっともっとたくさんの人にオースター作品を読んで すばらしい読書体験をしてほしい、と強く願っています。 ところで、柴田元幸やオースターに並んで、つねづね私が 「この人の作品をもっと多くの人に読んでもらいたい」 と思い、いつか一緒に仕事をしたいと願っていた 作家リストには、 小川洋子、古川日出男、沢木耕太郎の名が‥‥。 そう、世界は偶然に満ちている。 【お知らせ】 『ポール・オースターが朗読するナショナル・ ストーリー・プロジェクト』全5巻のボックスセットには、 作家と翻訳家によるお気に入りストーリーの朗読を収録した プレミアムCDが特典としてついています。 また、新刊4冊(第2巻〜第5巻)のうち、 3冊を購入した方にもプレミアムCDをプレゼント (2006年12月末日まで)。 詳しくは書籍のオビをご覧ください。 [プレミアムCD 朗読者(50音順)] 小川洋子、角田光代、岸本佐知子、 畔柳和代、鴻上尚史、沢木耕太郎、柴田元幸、 古川日出男、山崎暁子。 ************************************************
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2006-09-05-TUE
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