![]() |
| 担当編集者は知っている。 |
哲学者の内山節さんが、「農業」を軸に 現代社会を考察された講演をまとめたご本。 この本で語られている 100年先を見据えて、森の木を植えたりするような 人の一生よりも長いスパンで物事を考える 「里山」の農業や森づくりの根底にある 考え方や暮らし方は、 効率重視の大量生産・大量消費の社会と 全然違うんだなあと思いました。 たとえば、「進歩する方向」にむかうのではなく、 「深める・極める」方向へ歩むことが大切である というお話や、 「私有」することを考えるのではなく、 みんなでシェアーする「総有」によって豊かになる というお話も興味深かったです。 自分の生き方やこれからの社会を考える きっかけにもなる このご本を担当された農文協の本谷さんに お話をうかがいました。 (「ほぼ日」渡辺) ************************************** 担当編集者 /農文協書籍編集部 本谷英基 著者の内山節(たかし)さんは、東京と群馬県上野村との 二重生活をしている在野の哲学者 (最近、立教大学大学院の教授もされているので、 正確には「在野」とは言えなくなりましたが)として 知られています。渓流の釣り人としても有名です。 ■「百姓」としても30年のキャリア 上野村での暮らしは1975年ころからで、 2畝から5畝(5アール)の畑を耕しているそうですから、 百姓(耕作者)としても30年のキャリアを持っています。 そのような経歴と、 わかりやすい言葉で深い哲学を語れる人ということで、 農文協では、農文協が世話役をしている 農家同士の勉強会の講師をお願いしてきました。 その勉強会も今年で20年目を迎えました。 本書の内容は、 上野村での農の営み・村人としての暮らしを踏まえて、 勉強会で講演したものがもとになっています。 勉強会で一貫して内山さんに求められていたのは、 「農の営みをとおして全世界を獲得する思想」 「農の営みをとおして現代世界をとらえなおす思想」 でした。 農家の人たち‥‥農の技をもち、 農村をつくる力をもっている人たちが、 それを土台にして、 現代世界を掌中に収める思想を獲得することができれば、 世の中は静かに変わってゆく。 内山さんの語りの中にその確信がうかがえます。 上巻『農の営みから』では、農の営みを軸にして、 現代世界をつくりだした思想と対決しつつ、 21世紀の新しい思想の方向性を語っています。 ■日本の農村に由来する「修業」と「貢献」の労働観 たとえば、日本の農村に由来する 「修業」と「貢献」の労働観を語る節があり、 内山さんの労働観が展開されていますが、 修業と貢献という一連のプロセスをとおして 生活さえできれば、富の問題はどうでもよいから、 修業と貢献を感じることのできる 労働のなかに身を置きたいと感じるのが 日本人だというのです。 ニートとかフリーターといわれる若者がふえたのも、 この「修業と貢献」を感じることができない社会に なっているからだと考えると納得がゆきます。 「修業と貢献」が色濃く残っているのが 職人の世界や農の世界です。 若者はこの世界をめざすようになるだろうと、 内山さんは本書(1994年の講演)で言っていますが、 その予言はまさに的中し、 職人の仕事や農村で暮らすことを選択した 若者が確実にふえています。 内山さんの「哲学」から導き出された この潮流は必ず大きくなることでしょう。 ■「作法」を持つ人たちの根源性 下巻『地域の作法から』で、内山さんは 「私の研究史を振り返ってみると、 農民や農山村の人々から教わったことの 多さに驚かされる」と言っていますが、 地域(農山村)の人々こそが、 自然とともに、土とともに、村とともに生きてきて、 近代的世界の矛盾や近代的な思想の問題点を 深いところでつかんでいるのだというのです。 現在、近代社会が生みだしたシステムや思想は、 さまざまな領域で限界を露呈していますが、 本書は、その原因はどこにあったのか、 私たちは何を学びなおさなければならないのかを、 内山さんの身近にいる人たちの 「創造的である」地域の作法ということから考えています。 ここで作法というのは、 いわゆるマナーの次元のことではありません。 たとえば、村人は 山=森とつき合うときの作法をもっています。 それは山菜や茸のとり方の作法だったり、 山の木の切り方の作法や猟のときの作法だったりします。 農にもまた農の作法があります。 自然に対する人間の作法、 自然とともに生きる人間の作法です。 つまり、人間とは何か、生命とは何か、 他の生きものたちと人間との間につくられている関係を どう考えたらよいのか、といった思想が、 「作法」として表現されているというのです。 ヨーロッパ近代思想は、人間の知性を絶対視したのですが、 「地域の作法」はそれに対する根源的批判である、 と内山さんは言います。 それは、地球大の破綻が種々危惧される 21世紀の「新しい哲学の誕生」を予感させるものです。 内山さんとは、1986年の『自然と労働』という本を 担当して以来の長い付き合いですが、 このたびも、平易な、 しかし極めて上質な思想・哲学書の発行に 立ち会えたことに 編集者として大きな喜びを感じています。 **************************************
|
担当編集者さんへの激励や感想などは、
メールの題名に本のタイトルを入れて、
postman@1101.comに送ってください。
2006-05-30-TUE
![]() 戻る |