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| 担当編集者は知っている。 |
小学6年生の卒業時、父の中上健次さんと フィリピンを旅したのがきっかけで、 アジアの国々に興味を持った、という中上紀さん。 このご本は、彼女のデビューから 現在に至るまでに発表された短編を集めた 著者初の短編集です。 貫いているテーマは「旅」。 旅先の土地の光や色、空気、温度まで、 鮮やかによみがえるような瑞々しい描写と、 様々な記憶の断片から生み出される物語‥‥。 このご本を担当された、作品社の青木さんに お話をおうかがいしました。 (「ほぼ日」渡辺) ************************************* 担当編集者 /作品社 編集部 青木誠也 かつて森本哲郎さんは、こんなことを書いています。 「千里の旅、万巻の書――旅とはいろいろに考えられよう。 しかし私は、旅とは、 さかさまな国で自分を発見すること、 後悔の向うに希望を見出すこと、そして人間の世界は、 かくも広く、かくも多様で、 かくも豊かなのだということを実感することだと思う。 だからこそ、千里の旅は万巻の書に値するのである。」 (「砂漠への旅」、『日本の名随筆 本巻15 旅』所収) 千里の旅が万巻の書になぞらえられるのであれば、反対に、 万巻の書を千里の旅にたとえることも可能でしょう。 そして、ひとつの旅をすることは、 一冊の本を読むのにどこかしら似ていて、 一冊の本を読むことは、ちいさな旅に出かけることと 同じような気持ちに、私たちをしてくれることがあります。 さらにいえば、“旅について書かれた本”を読むことは、 旅をすることそのものが素敵で楽しく、 時として私たちの生きかたや考えかたさえ 変えてしまうのと同様の、かけがえのない、 出逢いや発見の場となりうるでしょう。 中上紀さんは、1999年に、ミャンマーへの旅を綴った エッセイ『イラワジの赤い花』を最初の単行本として 発表しました。 さらに同年には、友人とのタイへの卒業旅行を描いた 小説『彼女のプレンカ』も発表しています。 その後現在までに、5冊の小説と4冊のエッセイを 単著として刊行していますが、 そのほとんどの作品で“旅”がきわめて重要な テーマとして、扱われているのです。 そんな中上さんの最新刊『シャーマンが歌う夜』は、 彼女がデビューして以来、現在まで、新聞や雑誌、 あるいはインターネットなどといった、 さまざまな媒体に発表してきた短篇/掌篇小説12作を 集めたものです。 彼女のほかの作品たちの多くがそうであるように、 この本に収められた作品たちもまた、 “旅”ということを、重要な主題にしています。 「象の回廊」ではミャンマーが、 「水槽の魚」ではやはりミャンマーと思われる国が、 「熊の行進」、「亡命者」、「ブルックリンの夜風」、 「孤島の恋愛事情」の4作ではアメリカが 「ニュピの手帳」ではバリ島が、 「シャーマンが歌う夜」ではタイが、 「夢案内人」では中国と思しき国が、 作品の舞台として選ばれています。 また、「S・O・S」、「シンメトリーライフ」、 「貝殻」の3作は、舞台こそ日本国内ですが、 常に旅に身を置いている登場人物たちが、 作品のなかで重要な存在となっています。 1冊の本のなかに12作もの小説が盛り込まれた本書は、 もっとも長い作品でも27ページ、 逆にもっとも短いのは、わずか5ページです。 それぞれの作品はきわめて短いものですが、 世界中のさまざまな国を旅し、さまざまな見聞をしてきた 中上さんの体験と、小説家としての想像のエッセンスが、 ここに凝縮されているのだと言ってよいでしょう。 旅好きの方、旅について書かれた本が好きな方、 旅に行きたいけれど、忙しくてなかなか出掛けられない方、 他人の貴重な旅の経験を、 少しだけ味わってみたいという方、 そんな方がたに、ぜひともおすすめの一冊です。 これまで中上さんの作品を読んできた読者の方は、 中上さんの初めての短篇集となる本書によって、より深く、 彼女の描き出す世界を知ることができるでしょうし、 反対に、まったく読んだことがないという方にも、 最初に読む、入門的な一冊として、最適と思われます。 さて、最後にこの本のカバーと、各小説作品の扉ページに、 合計13の、さまざまなタッチの絵を使用させていただいた、 猪熊弦一郎氏について。 猪熊氏は、1902年に香川県高松市に生まれ、 1922年に、東京美術学校の洋画科に入学します。 1938年には、フランスでアンリ・マティスに師事、 戦後、1955年からは、ニューヨークに拠点を移します。 また、1975年からは、ハワイにも創作の場を求めました。 1993年に90歳で亡くなられましたが、その作品は現在も、 丸亀市の猪熊弦一郎現代美術館で見ることができます。 世界各国を渡り歩き、インスピレーションを受けて 創作の場とし、無数の作品を生み出した猪熊氏の絵画こそ、 旅人と、旅人が訪ねた土地に根生する人びとを描いた、 本書のイメージに、ぴったりとするものだったのです。 収められた小説たちも、装丁も、扉絵も、 “旅”に満ち満ちた一冊、ぜひともご堪能ください。 ******************************************
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2006-03-21-TUE
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