担当編集者は知っている。


『第二列の男』
著者:藤沢周
価格:1,575円(税込)
発行:作品社
ISBN:4861820405
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『ブエノスアイレス午前零時』で
芥川賞を受賞された藤沢周さんの
単行本未収録の短編集。
クールでいて細部まで丹念に描き出す語り口は、
人の心の奥底にあるあいまいで微妙な心情や、
日常の中に潜む違和感をリアルに描き出し、
瞬間、瞬間の映像イメージが
頭の中にバンバン浮かんでくる本です。
実験的な作品も多く、刺激的です!
この本を企画編集された
作品社の青木さんにお話をお伺いしました。
本書の中で使われている写真のお話にも注目!
(「ほぼ日」渡辺)

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担当編集者
/作品社 編集部 青木誠也



私が藤沢周さんと初めて会ったのは、
もう10年も前のことになります。
当時私は10代の学生で、
藤沢さんもまだ芥川賞を受賞される以前でした。
そこで小説の書き方のようなことを習っていたのですが、
藤沢さんは事情があってすぐにお辞めになり、
わずか半年ほどの師弟関係でした。

その4〜5年後、私は作品社の編集者となり、
とある文学賞のパーティで藤沢さんに再会したのですが、
私の顔を見るなり、名前を(フルネームで)思い出し、
私自身が忘れていたような、当時書いたものの内容までを
詳細に述べられ、その記憶力に驚くと同時に、
ああ、この人はいい先生なのだなあと、深く感心しました。
藤沢さんは昨年から法政大学経済学部の
教授になっていらっしゃいますが、
きっとそこでも、学生に慕われるよい先生なのでしょう。

さて、本書『第二列の男』には、
8作の短篇小説が収められています。
ほとんどは、ここ数年に雑誌などに発表された作品です。
藤沢さんの書かれたものにずっと注目していた私が、
単行本に収められていない短篇が多いので、
それらをまとめて一冊にしませんかとご提案したところ、
こころよくOKして下さいました。

「蟻」「脈拍の間」「オクトパス・ガーデン」
「第二列の男」の4作は、藤沢さんの王道というべき作品。
主人公の男たちの抱える不満・不安・怒り
・狂気といった感情が丹念に描写され、
そしてときにそれらが爆発して、
思いもかけない展開を生む。
短篇の名手・藤沢周の本領です。

「蛆――桜の樹の下には」「粘性率14ポアズ」
「わたしを見逃してください、主よ」の3篇は、
やや実験的な小説です。
それぞれにひと癖ある作品ぞろい。
お楽しみいただければ幸いです。

「三水と火偏をめぐる四つの挿話」は、
きわめて“まっとう”な短篇小説ですが、
本書の中では、それが逆にやや異色な感じ(笑)。
花火師の男と、彼と高校の同級生だった
ひと組の夫婦らが織りなす、あたたかい物語です。
映像化したら、きっといい作品が生まれるだろうなと、
心ひそかに思っています。

以上8作が本書に収められているわけですが、
このなかでも特筆すべきは、
「粘性率14ポアズ」でしょう。
さきほど、「ほとんどはここ数年の作品」と書きましたが、
実はこの1篇だけが例外で、執筆は1980年代後半。
デビュー作の「ゾーンを左に曲がれ」
('93年、現在のタイトルは『死亡遊戯』、河出文庫)
よりも前に書かれていた作品なのです。
しかも、この作品は、本書所収の別のある作品の中で、
主人公の男が書き続けている小説として、
その書き出しのフレーズとともに、言及されているのです。
読者の興味のために、どの作品なのかは伏せておきますが、
その「別の作品」は'02年に単発で雑誌発表されたもので、
もし本書『第二列の男』がこの形で生まれなければ、
「粘性率14ポアズ」という小説が、
実際に藤沢さんの手によって書かれていたことを、
誰も知りえなかったはずなのです。
「粘性率14ポアズ」っていう昔書いた作品があるから、
それを入れようか、と藤沢さんに言われたときには、
私もびっくりしましたよ。「本当にあるんだ」って。
いやはや、藤沢さんの茶目っ気というべきなのか、
それともそこに作家の執念を見るべきなのでしょうか。

ところで、実は、デビュー以前の初期の短篇が、
本当なら本書にはもう1篇収録されるはずでした。
ステージの上でさえ演奏を止めて、
右腕を掻いてしまうという癖を持った、
神経症のミュージシャンが主人公の
「右のイグアナ」という作品だったのですが、
「あまりに若書きで恥ずかしい!」
と藤沢さんがおっしゃり、結局、
原稿を見せてさえいただけませんでした。
しかし、藤沢さんのお住まい近くの、
鎌倉の喫茶店でストーリーを伺った限りでは、
きっと、この作品もえらくおもしろい、はず。
いつか、なにかの折りに、読者の皆様の前に
お見せすることができればと思っています。
いや、きっとしてみせます。
(藤沢さん、書いちゃいました)

最後に、カヴァーと各作品の扉ページで
本書の「奇妙」感に
いっそうの彩りを添えている写真たちについて。


これらの写真は、ドイツの写真家、
カール・ブロースフェルト氏によるものです。
(Karl Blossfeldt、1865〜1932年)
よく見ていただければわかりますが、
写っているのは全部、拡大された植物なんです。
彼は、生前には『原型の芸術』『自然の脅威の園』という、
2冊の写真集しか刊行しませんでしたが、
その2冊とも、植物の拡大写真ばかりを集めたもの。
欧米では現在でも人気は高く、
数多くのバリエーションが刊行されています。
ですが、不思議なことに、
日本では一度も書籍として出版されたことはありません。
売れると思うんですけどねぇ。

ちなみに『第二列の男』カヴァー写真のタイトルは、
「オニナベナ――茎についたまま乾いた葉」といいます。
この、ブロースフェルト氏による、各章扉の写真と
作品の組み合わせの妙も、本書を読むときに
ぜひ注目していただきたいポイントのひとつです。
それぞれに、あまりにイメージにぴったりの写真があって、
藤沢さんのこの短篇集のために、
ブロースフェルト氏の写真があったのではないかと
思ったほどでした。

ブロースフェルトの作品や人となりについて、
もっと詳しく知りたいという方は、
ヴェルター・ベンヤミン『図説 写真小史』
(ちくま学芸文庫)
をお読みください。
ベンヤミンによるブロースフェルトについての
論考があり、
ブロースフェルトの写真も多数収載され、
『原型の芸術』の序文も全訳されております。

あ、もちろん『第二列の男』を読んでからですよ!!

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『第二列の男』
著者:藤沢周
価格:1,575円(税込)
発行:作品社
ISBN:4861820405
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2005-09-06-TUE

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