担当編集者は知っている。


『海の家スタディーズ』
著者:畔柳 昭雄、渡邉 裕之
価格:2,100円(税込)
発行:鹿島出版会
ISBN:430604453X
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葉山、鎌倉、九十九里、須磨など全国各地の
新時代の海の家59軒をまとめたこの本は、
大人の夏休みを楽しみたい方必見!
海の家のガイドブックとして読むのもよし、
建築の面白さを堪能するのもよし、
海に暮らす自由な大人の
ライフスタイルを知るのもよし、
いろいろな楽しみ方が詰まってます。

いままでの海の家のイメージを覆す
この本を編集された
鹿島出版会の川尻さんにお話を伺いました。

(「ほぼ日」弥絵)

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担当編集者
/鹿島出版会 川尻大介


みなさんは海の家と聞いて、
どのような光景を想像しますか。
トタン屋根の下、砂まじりのゴザに座って
ラーメンをすするかたわらで、
頭にタオルを巻いた威勢のいいアンチャンが
汗をかきかき焼きそばを焼いている
……、たしかに10年前は
それが当たり前だったのかもしれません。
しかしこの本に登場する海の家を見れば、
そのイメージはすぐに考え直さざるをえないでしょう。

殺風景な日本の海水浴場が姿を変えはじめたのは
90年代後半のこと、
と共著者の海の家ライター・渡邉裕之さんは言います。
この頃から、お洒落とは言いがたい旧来型の海の家に
異議申し立てを突きつけるかのように、
新感覚の海の家が建ちはじめた、と。


▲建築家が建てた実験型海の家〈茅ヶ崎戯曲〉。

ニュースタイルの海の家(著者の渡邉さんの命名です)
のメニューに名を連ねるのは、
ラーメン、焼きそば、フランクフルトではなく、
フードコーディネーターが監修する
本格的なアジアンフードや
近くの港に上がった魚介類をつかった海鮮丼など。
また、BGMもボサノバやレゲエ、
あるいは沖縄音楽などが流れ、
時にはミュージシャンがライブをしに来ます。

こうした海の家が現れた背景には、
プロデューサーとしての経営者たちの登場が
とても大きいようです。
海の家は夏限定、
海開きとなる7月1日から8月31日までの
たった2ヵ月で役目を終えてしまうはかない商売。
旧来型の海の家経営者たちは、
夏が終われば祭やイベントなどで屋台を出店するために
地方へ散っていく人が多く、
海の家を一年の巡業のうちのひとつとして捉えがちです。
ところがニュースタイル海の家の経営者たちは
まったく逆のことを考えています。
つまり、自分たちの夏をいかに楽しく過ごすか
というところに心を砕くのですね。
そのためには旧来の型を破り、
自分たちで店のコンセプトを追求します。
その結果、フードメニューやBGMのセレクトだけでなく、
彼らがつくり出す空間そのものにも
随所にこだわりが見えてくるのです。


▲葉山・一色海岸の〈海小屋MANA〉。
 近所の人が犬の散歩がてら立ち寄るのだとか。


たとえば、葉山・森戸海岸のOASISは、
レゲエカルチャーに魅せられた男たちが
1981年にはじめた海の家で、
今ではコアなレゲエファンのメッカとして知られています。
ここでは、海の家にはめずらしい、
広々とした中庭がつくられていて、
ライブの時間になると開放的な観客席になります。
また、森戸の隣りにある一色海岸のBlue Moonでは、
葉山の竹林で穫れた竹を上手に組んで、
素朴なバーカウンターや、
沖からでもインパクト大の巨大ピラミッド型テントなど、
アジアリゾート風の洗練された雰囲気を醸し出しています。

このような海の家の動向を追い続けていたのが渡邉さんで、
独自に湘南・鎌倉を中心とした海の家の取材を重ねていました。
そして、より専門的な視点からスポットを当てて、
膨大な裏付けをつくっていたのが
日本大学教授の畔柳昭雄先生でした。
このふたりの膨大な蓄積が注ぎ込まれた本書は、
ニュースタイル海の家の詳細なレポートです。

渡邉さんは畔柳先生から紹介していただいたのですが、
そもそも畔柳先生との出会いは、
『relax』誌で「夏休みの研究発表」と題された、
海の家の立体イラスト集を見つけたことによります。
第一印象は「ずいぶんヒマな人がいるものだな」
というものでしたが、
クレジット欄に「図面作成:日本大学○○研究室」
と書いてあるのを見て、
大学が海の家の何を研究しているんだ!?と
興味をかきたてられて話を聞きに行ったのが始まりです。

畔柳先生が属する海洋建築工学という分野は、
水辺で心地良い営みを生み出すための空間づくりを研究する
というものです。
畔柳研究室ではその一環として、
80年代から海の家調査を始めました。
昨年までで1500軒ほどを対象に、実際に寸法を測り、
写真におさめ、経営者たちに話を聞いたそうです。

『relax』に載った立体イラストは、アクソメ図と呼ばれ
建築分野ではとても馴染み深いものです。
建物のプロポーションや大きさをはかるのに便利だし、
この手法で海の家を描くと途端にポップになるので、
本書でも「海の家コレクション」と題して
個性的すぎる海の家を70軒ほど紹介しています。
全国の海の家を調べ上げた
畔柳研究室の行動力は圧巻ですが、
さらにすごいのが
自分たちで海の家を建ててしまったことです。
しかも2軒も!
彼らはデザインから建設、解体までの一連のプロセスの
記録しており、
本書に載せたそのドキュメントからは
海辺で快適な空間づくりのノウハウが
垣間見られると思います。
(「水際のセルフビルドドキュメント」)


▲畔柳研究室が設計・建設した〈海小屋SUS〉。
 史上初のアルミ製海の家!


彼らと相談しながら目次を作っている時、
個人的にどうしても実現したい企画がありました。
それが本書の最後に収められた経営者インタビュー
「こだわりの経営者たち」です。
海の家という未知の領域に足を踏み入れていく時、
経営者の存在は最大の謎だったのです。

お洒落な海の家はどのように発想されるのか?
経営者たちはどんな文化の中で生きているのか?
どんなものを食べて、どんな音楽を聴いているのか?
夏以外のシーズンは何をしているのか?

などなど、畔柳さんと渡邉さんの海の家談義を聞くほど、
いろんな疑問が浮かんできました。
そこでおふたりに相談したところ、
名前があがったのが前述のOASISの朝山正和さん、
Blue Moonの近藤大輔さん、
そのほかに海小屋MANAの村野義哉さんと岩神六平さん
だったのです。
全員が葉山で活動しているので、
どうしても葉山贔屓と受け止められかねないのですが、
渡邉さんいわく、
新しいセンスの経営者を選ぶとなると
やっぱりこの四人ということでした。

ちなみに、朝山さんは東京芸大出身のアーティスト、
近藤さんは逗子市議会議員、
村野さんは夏も冬も大忙しのイベントプロモーター、
海小屋MANAの音楽担当の岩神さんは
ジャズピアニスト・山下洋輔の元マネージャー
という経歴も持つイベントプロデューサー、
そろいも揃って異色の経歴の持ち主ばかりでした。
「こだわりの経営者たち」はそんな彼らの
海の家に対するフィロソフィーが垣間見られるページです。

本書の狙いはもちろん、
実際に海の家へ足を運んでいただくことです。
お盆過ぎの海水浴はクラゲに要注意ですが、
ニュースタイル海の家は
服を着たまま入れるのもまた魅力です。
「8月31日まで営業中」が基本ですので、
是非お近くの海まで
お気に入りの海の家を探しに出かけてみてください。

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『海の家スタディーズ』
著者:畔柳 昭雄、渡邉 裕之
価格:2,100円(税込)
発行:鹿島出版会
ISBN:430604453X
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2005-08-16-TUE

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