担当編集者は知っている。


『建築 虎の穴 見聞録
 訪ねて歩く材料と工法』
著者:大嶋信道
価格:2,520円(税込)
発行:新建築社
ISBN:4-7869-0186-5
【Amazon.co.jp】はこちら

『新建築』という建築の専門誌をご存知ですか?
1925年に創刊。
戦前から、日本の建築の「今」を伝え続け、
建築作品の紹介を中心に、環境や都市など、
建築界が直面している様々なトピックスを、
独自の視点で編集した建築総合専門誌です。
意外なところでは、
漫画家さんが背景を描くときの資料に、
CF会社の人がロケ地選びにも読んでいるとか。

この本はその『新建築』の連載をまとめたものです。
国内の工場のおじさんや職人さんを訪ね歩いた取材からは、
ものづくりに関わる人々の心意気や、
細やかな創意工夫がビシビシ伝わってきます。
巨大な船、パラボラアンテナ、建築模型、演劇の大道具、
神社仏閣の金具、優美な石膏作りの天井、新幹線‥‥
高度な職人技術を必要とする伝統的建築と、
最先端の建築の秘密がいっぱいで、
ものづくり好きにはワクワクです。
この本を編集された新建築社の豊田栄三さんに
お話をお伺いしました。
(「ほぼ日」弥絵)

************************************

担当編集者 
/新建築社 編集部 豊田栄三


安藤忠雄さんの「鹿児島大学稲盛会館」、
伊東豊雄さんの「せんだいメディアテーク」
原広司さんの「京都駅ビル」など、
話題になる建築の影には日本の職人技術があった‥‥


▲安藤忠雄さんの「鹿児島大学稲盛会館」。
 昔は腕のいい宮大工や船大工しか作れなかった、
 球体の曲面を作る秘密とは‥‥。


建築家の大嶋信道さんが、
「モノづくりの現場=虎の穴」へと潜入し、
「生の話=虎の児」を見つけるべく、
日本各地のモノづくりの現場を訪ね歩いた
見聞録が本書です。

現代の建築の多くは、
カタログ化・マニュアル化しているといわれます。
「既製品あるいは規格部材を組み合わせて
 『すっきり・さっぱり・美しい』納まりを
 『安く・早く』つくれるようにすることが、
 設計において腕の見せどころとなっていたりする。」
 (本書より)
といった状態なのですが、そんな中、
例えば第五章で著者と対談する建築家・内藤廣さんが、
「新しいものに挑戦することは怖いことですよね。
 失敗すれば事務所なんてつぶれちゃうんだから。
 でも、その怖さを感じられなくなったら、
 本当に危ない。
 怖いから、新しく取り入れる技術について
 ものすごく勉強します。」
と語るように、新しいものを生み出すためには、
材料や工法を知らないとできないのです。

たとえば、料理だと、
「どこそこで捕れた魚」
「こういう栽培方法で育てた野菜」
「こういう料理方法だと中はやわらか」
といったことがありますよね。
でも現代の建築は、材料やつくり方といった、
「建築の素」をよく知らないまま
建築の新しいレシピだけを考えているように思います。
これはムズカシイ問題があるのですが、
近代化の中で、建築を考える人と建築をつくる人の距離が
うんと開いてしまったからです。
その距離を縮める手っ取り早い方法は、
モノづくりの現場に飛び込むこと。
「書を捨てて、現場へ出よ」との考えから
この企画は始まりました。
連載中は、主に若い世代に好評で、
立場は弱くともチャレンジ精神の旺盛な
つくり手の方々が熱心に読んでくれました。

本書では、国内の工場や職人さんを、建築の範疇を超え、
モノづくりの好奇心の赴くまま取材しています。
船づくりの技術を教わりに宮城県の気仙沼を訪れ、
石膏模型・石膏装飾を手掛けている数少ない技術を訪ね、
曲木名人に会いに飛騨高山を訪れ、
アルミニウム合金ボディの新幹線をつくっている
現場にまで‥‥。
ときには深夜の工場をお邪魔したりと、
取材先の方々にはたいへんご協力いただきました。
いずれの現場でも発見があり、
人との出会いがあり、
その喜びは文章に表れていると思います。


▲建築模型用の螺旋階段。
 建築模型を宣伝に使うことを考えた
 最初の建築家は丹下健三さんだとか。



▲世界最高技術を誇る新幹線の塗装前の姿。


▲八角堂頂部の擬宝珠。
 へら絞りと呼ばれる高度な技術。


大嶋信道さんは、美術大学建築学科を卒業後、
「現場を知りたい」との思いから建設会社に入社し、
そこで現場監督と設計者の経験を積んでいます。
また、自分が建築をつくる上でのコアになるものを
歴史に求め、東京大学・藤森照信さん
(建築探偵としてもよく知られる人です)の
大学院研究室で歴史を勉強しています。
その後、独立し自身の設計活動、
藤森照信さんとの協働設計者として活躍されている人です。
こうした経歴から、現場監督時代に「建築現場」を、
東大時代に「歴史」を、
現在に至るまでに「設計」を身につけたという、
建築界においても希な人物といえます。

こうした経歴は、文章に如実に表れており、
歴史的背景への掘り下げや、
現場・設計の知識の引用がスパイスとなり、
単に取材報告に終始しない文章になっています。
専門書となると、とかくカタイ文章になりがちですが、
今回はあくまで「見聞録」ですので
(実はここがミソです)、
その語りは、柔らかく、軽妙で
ユーモアのある文章になっています。
建築関係者がドキリとするようなことにも言及しつつも、
妙に説教っぽくならないのは、
大嶋さんの現場への視線が、
上から見るでもなく下から見るでもない
フラットなものだからではないかと感じています。
この本は建築の専門家でなくても、
モノづくりが好きな人、モノづくりに関心のある人なら
十分に楽しめると思います。


▲本書には著者の大嶋さんのイラストがいっぱい。
 上記は建築技術では難しいとされる形状を
 容易に作ってしまう船大工の造船技術。


装丁は、「虎の穴」というからにはやはり穴を空けねば、
とカバー中央に穴を空けています。
カバーの紙は古誌再生紙を使って、ささやかな環境配慮。
また、本においても材料の質感を出したかったので、
カバー、帯、見返しの紙は、
ざらざら、つるつるな違いが出る紙にしました。
特にカバーは、地の色を印刷することで
紙目が強調されるように工夫したところで、
実は印刷の技が入っているのです。
気づかれる人は少ないのですが、本を開いたときの
カバーのソデ(折り返したところ)と帯のソデがほぼ同じ。
普通は機械でカバーと帯を一緒に断裁するので、
帯を巻いたときに帯のソデが寸足らずになるのですが、
今回は帯をちょっぴり長くして、
人の手で巻いてもらってます。
人の手ですから、多少のばらつきが出ていますが、
それもまた味わい深いところかと。
装丁は、デザインをしてくれた粟辻デザインさんと
印刷・製本をしてくれた図書印刷さんの
職人技があってこそなのです。

ちなみに、連載時の原稿・スケッチのアップは、
月刊誌だというのに綱渡りの連続でした
(何度か計画的に落としています!)。
ほぼ毎回、深夜に大嶋さんの事務所を訪ねるのですが、
事務所近くのなぜか深夜まで開いている
焼き菓子屋さんで差し入れのケーキを買い、
それをふたりでつつきながらまとめていったものです。
あの焼き菓子屋さんなくしてこの本は生まれていない
と言っても過言ではありません。
いつの間にか、仕事熱心なケーキ職人さんにも
助けてもらっていたというわけです。

************************************


『建築 虎の穴 見聞録
 訪ねて歩く材料と工法』
著者:大嶋信道
価格:2,520円(税込)
発行:新建築社
ISBN:4-7869-0186-5
【Amazon.co.jp】はこちら

担当編集者さんへの激励や感想などは、
メールの題名に本のタイトルを入れて、
postman@1101.comに送ってください。

2005-07-26-TUE

BACK
戻る