担当編集者は知っている。


『しあわせのねだん』
著者:角田 光代
価格:1,470円(税込)
発行:晶文社
ISBN:4794966687
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角田さんの小説もとてもいいのだけれど、
今度出たエッセイ集は、秀逸!
まず、タイトル。
全部ひらがなというのが◎。
『幸せの値段』となると何だかベタだけど、
ひらがなにすると、
ちょっとニュアンスが変わってくる。
お金の向こうにちょっとした物語があるんだな、
という感じ。
どんな物語なんだろう?と思って本を開くと!

昼めし977円
蟹コース5820円
すべすべクリーム4500円
理想的中身40000円

‥‥と具体的な数字付きの目次が。
直木賞作家で売れっ子なのに、
昼ごはんは977円? なんて思ったりして。
こうやって○○円と書いてあることで、
角田さんがお金を使った時の様子が
目に浮かぶよう。
なかなか技あり、です。

して、エッセイは? 
細かく説明するのは野暮ですので、
「面白い!」とだけ。
私は、このエッセイを読んで、
小学1年生の時、母の誕生日に買った
100円(1ヶ月分の小遣いだった)の
鶯餅のことを思い出しました。
目次に倣うなら「鶯餅100円」(笑)。
(ツルミ)

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担当編集者
/晶文社 篠田里香


この本は、じつに不純な動機で生まれました。
角田光代さんの小説に、
『空中庭園』『エコノミカル・パレス』
という名作があります。
お金や成功とは縁のない人々の
しょぼい日常が描かれていて、
読みながら何度「これはわたしだ!」と
叫びそうになったか。
それ以来、いつの日か角田さんの経済観を
エッセイにしたい、
と強く思うようになりました。

わたしが初めてお目にかかった時、
角田さんはすでに多くの雑誌で
連載を抱えていました。
となると、無粋にも気になるのは、
人気小説家の懐です。
銀行口座には原稿料がうなるように
入ってくるとして、
それを一体どうつかっているのかしら。
意外と財テク派だったりして。
小説の登場人物と
ご本人の暮らしは似ているのか、
あるいは似ていないのか‥‥と、
下世話な想像が膨らみます。
こうなったら真実を知るまで
心穏やかではいられません。

角田さんに、お金の使い道を教えて下さいと
おずおず申し出ると、
「いいですよ、わたし家計簿つけていますから」
という、天使のひとこと。
こんなふうにして、
『しあわせのねだん』が船出しました。

お金には無頓着。
だけど、ほしいものはどうしてもほしい! 
意を決して何かを買ったり、
考え抜いた末にあきらめたり。
この本では、そんなお金にまつわる思いと体験が、
23のアイテムを通して語られます。
多機能の電子辞書。
まあたらしい冷蔵庫。
輝かんばかりの女になるすべすべクリーム。
待ち人があらわれるまでの時間。
想像力。
母との忘れられない旅‥‥。
その値段はいくらなのか。
お金は何をしてくれて、何をしてくれないのか。
何かを手に入れたいという切実な気持ちは、
どこから来るのか。
23の日々の断片から、
ぼんやりと「しあわせのかたち」が見えてくる一冊です。
いわば、著者とお金とのプライベートな関係を
うつしとったスナップ写真の味わいがあるのです。

この本は、晶文社のウェブ連載がもとになりました。
連載の一年間は、わたしにとって
まさにしあわせな時間でした。
プハッと噴き出したり、はらりと落涙したり、
そうそうそう! と深く納得したり。

わたしが爆笑したのは、
伊豆に泳ぎに行ったエピソードです
(「理想的中身 40000円」69頁)。
出発時点の所持金は500円。
目的地でお金をおろすつもりが、
銀行もコンビニエンスストアもない! 
困り果てた著者は、水着のまま電車にのり、
隣駅の銀行にたどりつきます。
こんな経験をすれば、
たいていそれなりの金額を持ち歩くようになりますよね?
ところが、その後の角田さんの財布は‥‥。

直木賞作家のイメージからほど遠い「武勇伝」の数々に、
思わず頬がゆるみます
(失礼、角田さんは笑わせているおつもりは
 ないかもしれませんが)。
そして、次の瞬間ふと思うのです。
では自分にとって、お金はどういう存在なのか。
収入やものの値札以外に、
価値をはかる自分だけのものさしを持っているだろうか、
と。

もうひとつ、わたしの大好きな章をご紹介します。
母親との二人旅をつづった「記憶 9800円×2」です
(169頁)。
これは、角田さんが、お母さんの誕生祝いに
温泉旅行に行った時のことです。
インターネットで探した宿に行ってみたら、
これが、すさまじいぼろ旅館。
食事もお風呂も最悪で、母親は文句ばかりいうし‥‥。
でも、ふり返ればこれもしあわせな思い出だ
と著者は書きます。
自分が子どもだった頃、同じように旅先で
だだをこねたっけ。
小さなわたしに母もぶち切れたっけ。 
こんなふうに、親から子へとつづく時間の流れに
読者を誘いだし、
じんわり豊かな気持ちにさせてくれるのです。

「私たちはお金を使うとき、品物といっしょに、
 何かべつのものも確実に手に入れている」
角田さんのこの言葉が、本書のすべてです。
お金とつきあうことは、
生きることそのものかもしれません。
願わくば、この本を読んでくださった方が、
さまざまなかたちの「しあわせ」を手にしますように。

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『しあわせのねだん』
著者:角田 光代
価格:1,470円(税込)
発行:晶文社
ISBN:4794966687
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2005-07-05-TUE

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