担当編集者は知っている。


『「裸のサル」の幸福論 』
(新潮新書)
著者:デズモンド・モリス
価格:714円(税込)
発行:新潮社
ISBN:410610115
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「幸福論」と聞くと、つい、
とても立派な精神論や道徳を
思い浮かべてしまうのですが、
この本はまったく違っていました。 なんと、本能!
助け合いや思いやりも本能だった! ってのは衝撃です。
人間の本能が感じる究極の「幸福感」を
競争・協力・官能・痛み・危険・献身・可笑しさ‥‥など、
17のカテゴリーに分け、
それぞれの特長・感じる理由・対処法を解説してくれます。
毎日活き活きと過ごすヒントになるのはもちろん、
子育てや恋愛、職場の人間関係にも、応用が利きそうです。

ちなみに、わたしの場合、
幸福と感じるカテゴリーは7つありました。
多ければ多いほど幸福感を感じる回数が増えて、
人生が楽しく過ごせるとのこと。たぶん、多い方です。
とっても楽天的でお気楽タイプのようです。
読み進めていくうちに、
自分が、ジェットコースターが苦手なワケも、
勝負事や競争に興味がないワケも、
あのとき、あの恋が失敗に終わったワケさえ、
すっきり納得できてしまいました。
がんがん読めて、どんどん腑に落ちまくる
読書中の快感はすごいです。

この本が生まれたわけを、
担当編集者の横手大輔さんにお伺いしました。
特に版権のオークションの様子が、
スリリングでたまりません!

(「ほぼ日」弥絵)

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担当編集者
/新潮社 新潮新書編集部 横手大輔


『ダヴィンチ』7月号の
「この本にひとめぼれ」のコーナーで、
糸井さんに選んでいただきました。
糸井さん、どうもありがとうございました。

デズモンド・モリスさんは、60年代の末に
『裸のサル』(原著は『THE NAKED APE』)
という世界的ベストセラーを出した
イギリスの動物行動学者です。
「人間は世界に現存する193種のサルの中で唯一、
体毛のないサルである」と主張し、
進化の過程を繙きながら人間の行動を説明した名著です。
日本語版は1969年に河出書房新社から出されていて、
出版当時は山藤章二さんのカバーイラストも
大変に評判となったそうです。

というようなことは知らぬでもなかったのですが、
昨年の秋に新潮社の版権買い付けの担当者から
「こんな本があるんだけど」と
原著『THE NATURE OF HAPPINESS』を
手渡された時は、
正直「へー、モリスってまだ生きてたんだ」程度の
感想しかありませんでした。

ところが、読んでみると実に面白いのです。
まずは「人間の幸福は何から生じるのか」を
進化の過程から解き明かし、
次に人間の幸福を17種類に分類し、
その次にそれぞれの幸福の特徴と
付き合い方を開示している。
最後には幸福の定義集までついています。
いわば、動物行動学から見た「幸福の科学」(!)
とでもいうべき内容なのです。

下世話な話ですが、読みながら、
「これって飲み屋で蘊蓄をひけらかす際の
ネタの宝庫だな」と思いました。
原著は176ページあるのですが、
ためしに一ページ訳してみると、
だいたい原著の一ページが新書の一ページの分量に
相当することもわかりました。
192ページを基本としている
新潮新書の分量にも適しています。

内容よし、分量にも問題なしで、
すぐにも本にしたかったのですが、問題が少々。
実は版権がオークションにかけられてしまい、
日本の出版社がもう一社、手を挙げていたのでした。
こういう場合は、つり上げ合戦を覚悟で小刻みにいくか、
最初から高めの値段を提示して一発勝負をかけるか、
どちらかに決めるしかありません。
最終段階ではロンドンに出張した担当者と
編集部で何度か連絡を取り合い、
後者の戦略を選んで、最終的な入札価格を決めました。
結局はこれが決めてになったわけですが、
「落札した」との連絡を受けた時には
正直ホッとしたのを覚えています。

と、出版に至るまでにはいろいろとあった本なのですが、
一人の読者としてあらためて読み直してみると、
結構いい言葉があるんですよね。
例えば「協力の幸福」を説明した40ページの文章。

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「勝ちたい」というやむにやまれぬ欲求だけでなく、
私たちにはそれと同じく
「助け合いたい」という本能的な欲求があります。
モラリストはその功を喧伝したがりますが、
実際は「助けたい」という思いは
我々の本能に根ざすものです。

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これはいわば、「ヒューマニズムの科学的説明」ですね。
思わず膝を打ってしまいました。
あるいは、精神的マゾヒストたちの幸福を説明した
77ページ。

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快楽にふけるには多少のコストがかかりますが、
精神的マゾヒストたちはこのコストを千倍にも
誇張して見積もっており、
なおかついつまでもその説を曲げません。
彼らが気づきたがらないことの一つは、
快楽主義者たちよりも自分たちの方が健康である
との主張が、事実とは違っていることです。


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実際、これまでで最も長生きした人間である
フランス人のジャンヌ・カルマンさん(享年122)は、
飲酒と喫煙を死ぬまでやめなかったそうです。
この方、生前はフランス本国でも
「いじわるばあさん」的なキャラで知られており、
日々の世話をしてくれる看護士さんなどにも、第三者の前で
「こいつら、アタシに鳥のエサみたいなもの食わすんだよ。
まるでめんどり扱いだね!」
てな放言を繰り返していました。
「うーん、やっぱり自分勝手な奴の方が
 長生きするんだな」と納得です。

最後の「幸福の定義集」もなかなか興味深いです。
本を読んだ周りの何人かに、
印象に残った定義をきいてみたところ、
こんなのが挙がってました。

「幸福は幸福の中にはない。
それを成し遂げるところにある」
(ドストエフスキー)

「幸福とは手で水を掴むようなものだ」
(ミケランジェロ・アントニオーニ)

「幸福とは、健康な体と悪い記憶力」
(イングリッド・バーグマン)

「幸福とは、一人の人妻と一人の独身男」
(H・L・メンケン)

「男にとっての幸福とは、
何をすべきかを教えてくれる妻と、
それを実行してくれる秘書である」
(マンクロフト卿)

「幸福とは、良い資産、良い料理人、良い消化」
(ジャン=ジャック・ルソー)


さて、みなさんはどうでしょうか? 
あなたにぴったりの幸福の定義も
きっと見つかると思いますよ。
ぜひご一読あれ。

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『「裸のサル」の幸福論 』
(新潮新書)
著者:デズモンド・モリス
価格:714円(税込)
発行:新潮社
ISBN:410610115
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2005-05-24-TUE

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