担当編集者は知っている。


『手話でいこう
 ――ろう者の言い分 聴者のホンネ』
絵と文:秋山なみ・亀井伸孝
価格:\1,575(税込)
発行:ミネルヴァ書房
ISBN:4623042545
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「ほぼ日」の「今日の女房・ダンナ」みたいに、
他人同士が暮らすと生まれるほほ笑ましいエピソード。
でも、おふたりは、主に手話でお話しされているのです。
「ろう者」でも「聴者」 でも、
お互いにわかりあおうとする気持ちが、
コミュニケーションの要なのだな、と思いました!
かつての「ほぼ日」のイベント、
「Communication AID 2002
 好きな人の言葉は、よく聞こえますか。」

の時に感じた気持ちを
あらためて思い出させていただきましたよ。
      (「ほぼ日」さいとうりか)

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担当編集者/ミネルヴァ書房 吉岡昌俊

夫婦のいつもの暮らし

この本の著者、秋山なみさんと亀井伸孝さんは夫婦です。
秋山さんは耳が聞こえず、手話を使って生活しています。
亀井さんは耳が聞こえ、家では手話を、
外では音声日本語を使っています。
(なお、本の副題にある「ろう者」とは
 耳が聞こえず手話を話して生活している人を、
 「聴者」とは耳が聞こえる人を指します。)

これは、そんなお二人がそれぞれの
本音をつづったエッセイを集めた本で、
飼っているインコの話からはじまり、夫婦ゲンカのこと、
大学生活や旅行の話など、ふだんの生活での
さまざまな体験のエピソードや、そこで考えたこと、
感じたことなどが書かれています。


手話に興味のない人も

タイトルからもお分かりのとおり、
手話にかんする本なので、生活のなかで
手話を使っておられる人や、手話をいま学んでいたり
これから学ぼうとしている人には、
もちろん読んでいただきたいと思っています。
ですが、それ以上に、ぜんぜん手話に興味のない人にも
読んでいただきたいのです。

なぜかと言いますと、ひとつには、
とにかく面白い本だからです。
軽妙でユーモアのある文章で書かれていて、
夫婦漫才のようなノリもあるエッセイなので、
だいたい誰にでも笑いながら楽しんで読んでもらえると
思います。

そしてもうひとつには、この本には世間一般の多くの人
(私もその一人ですが)が、
見落としたり忘れたりしがちだと思われる大事なことが
書かれているからです。
ものすごく大ざっぱに一言で言えば、それは
「いまの社会の中で、多数派の人(聞こえる人)は
 少数派の人(聞こえない人)の立場や文化や言い分を
 無視したり踏みにじったりしがちであり、
 しかもそのことを自覚すらしていない場合が多い」
ということです。


宇宙人に支配された社会

この本に収められたエッセイの中に、
宇宙人の話があります。これもごく大まかに言いますと、
「地球人ががんばっても身につけがたい
 テレパシーで会話する宇宙人がやって来て、
 私たちの社会を支配したらどうなるか?」
という話です。
そこでは、地球人の音声言語は軽視されがちであり、
コミュニケーションのための言語として
テレパシーを訓練したり使えるようになることが
当たり前のこととして求められます。

ここに書かれているのは、ろう者がふだん
社会の中で置かれている状況を、
音声言語を使っている聴者の立場に
そのまま置きかえた話です。
ろうの人たちが音声言語に囲まれて
それを使うのを強いられるといった状況は、
例えてみればそういうものであると。

この話を読んだとき、私はショックを受けました。
自分にとっては、一見、現実には起こりそうもない
単なる空想のように思える話ですが、
ろうの人にとってはこれがまぎれもない
日常の世界なのだと思うと、頭がクラクラしました。
そういうことをふだんまったく意識していなかった
自分から見た世界と、ろうの人の見ている世界との間にある
ギャップの大きさを思い知らされました。
(さらにいえば、誰もが社会の中で何らかの意味で
 少数派になりうる以上、こうしたことは
 私たちすべてにとって、けっして他人事では
 ないと思います。)

おそらく、「聞こえる世界」の人は、単に
「聞こえない世界」があるということを知るだけではなく、
「聞こえない世界」の側から見た社会の姿を
思い描く必要があるのだろうと思います。
そういう意識をもたない限り、
「聞こえる世界」の側のものの見方や都合だけで
社会が動いていくことを現実的に避けるのは
難しいでしょうし、「聞こえない世界」に対して
配慮した言動をとっているつもりでも、
実際には見当外れだったり逆に迷惑だったりすることも
あるかもしれないからです。

そう考えたとき、この本は価値のあるものだと思います。
「聞こえない世界」を手話を使って暮らすときに
社会がどのような姿に見えるかということを、
いろいろな日常的なエピソードを通して
伝えてくれているからです。


最初のケンカの原因は「物音」だった

くどくどと説明をしてしまいましたが、
実際の本の中身はこうした大事なメッセージを
含みながらも、けっして堅苦しいものではありません。
「聞こえる世界」と「聞こえない世界」の接点に立って
毎日の生活をともにしている夫婦が
それぞれの本音を語る本書は、著者のお二人いわく
「お互いの日常をあばき合うバトルトークのような本」
です。
二人の最初の夫婦ゲンカのエピソードなどを読んでいると、
内容的にはかなり深刻で考えさせられるものなのですが、
どこか隣の家のケンカを覗き見しているような
気分でもあり、なんだか少しニヤけてしまいそうに
なります(著者には怒られるかもしれませんが)。

気楽に手にとっていただき、ときどきゲラゲラ笑ったり
ニヤニヤしたりしながら読んでもらえれば、と思います。


著者の秋山さんのホームページ
http://osaka.cool.ne.jp/deafcat/index.htm

この本の元にもなった秋山さんのメールマガジン
「ろう者の風景Deaf Journal」への登録は
下記のサイトから
http://www.mag2.com/m/0000101306.htm

亀井さんのホームページ
http://www-soc.kwansei.ac.jp/kamei/index.html

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2005-01-14-FRI

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