担当編集者は知っている。


『電信柱と妙な男』
作:小川未明 絵:石井聖岳
出版社:架空社
価格:1,575円(税込)
ISBN:4877521348
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「ヒウおじさんの鳥獣戯話。」のイラストで
おなじみの、石井聖岳さんの絵本がでました!
作品は、『赤い蝋燭と人魚』で有名な、
小川未明です。
『赤い蝋燭と‥‥』もそうですが、
これまた不思議な、まるで、
石井さんの絵のために書かれたような、
「妙な」お話なんですよ。
相乗効果ばっちりの絵本ですが、
どのようにして誕生したのでしょうか。
担当編集者の秦さんに教えていただきました。
          (「ほぼ日」斉藤りか)



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担当編集者/架空社 秦さな子

小川未明の絵本シリーズをやろう、
と決めたのはもう5、6年位前の話です。
社長と私、架空社総勢二名で居酒屋にいたところ、
詩人で、未明のお孫さんでもある
小川英晴さんと偶然会い、
なんとなくそういう話になったのでした。

『赤い蝋燭と人魚』など、
いくつかのもの哀しくも美しい童話は有名で、
たくさん絵本化されているけれど、
未明の作品はもっと色々あるのにあまり知られていない。
じゃあ皆があまり知らないようなのをじゃんじゃん出そう!
なんて盛り上がりました。
しばらくして小川さんからどっさり未明の童話が届き、
読んでみたら思った以上にはまってしまいました。
美しい叙情的な物語はもちろんですが、
意外にもユニークなものもあり、
教訓的というか説教くさいかんじがしなくて、
読後に不思議な余韻が残る。
とくに気に入ったものがいくつかあり、
そのうちの一つが『電信柱と妙な男』でした。

変な話です。タイトルも変。
全然私の持っていた未明のイメージじゃない。
今でいう引きこもりみたいな男の話で、
昼間は家に閉じこもり、夜になると散歩に出かけ、
同じように夜ごと徘徊する電信柱と出会い、
怪しい者同志仲良くなる。
最後は夜が明けて男を屋根に残したまま
電信柱は元の姿に戻り、男は夜も外に出なくなってしまう。
この突き放したようなあっけない終わりかた!
電信柱と男の会話も滑稽でおかしい。

じゃあ絵を誰にお願いするか、で少し悩みました。
絵本化するには少し難しいように思ったのです。
でも話しているうちに社長から
石井聖岳さんの名前が出て、
いけるかもしれない、と思いました。
石井さんは若いけれど、もう絵本を2、3冊手がけ、
注目されていました。
何しろデビュー作で、あの内田麟太郎さんの
ナンセンスの世界を見事絵本に仕上げた力のある人です。
一枚絵でも物語を感じさせる、気になる作家だったので、
そりゃあいい! とまた盛り上がり、
すぐに連絡を取りました。
最初にこの企画が出てから、
随分時間がたっていたのですが、
この時、石井さんという作家にたどりついてから
一気に動き始めた感じでした。

その後石井さんに会社に来ていただき
打ち合わせをしたのですが、
石井さんは口数の少ないもの静かな方でした。
打ち合わせ後、飲みに行ったのですがあまりお酒は飲まず、
ぽつりぽつりとゆっくり確かめるように話す言葉と
真摯な表情が印象的でした。
とりあえずラフを描いていただくことになったのですが
気になることが一つありました。
「妙な男」のことです。
参考にしたテキストには小さなカットが一つ入っていて
そこには髪がぼさぼさの眉間にしわを寄せたような
「妙な男」が描かれてあり、妙な、というよりは不機嫌な、
気むずかしいといった感じに見えました。
この「妙な男」を石井さんはどう描くのかなと思いました。

しばらく間があって、石井さんから連絡があり、
ラフを持って訪ねてくれました。
一番興奮したのはあのときかもしれない。
こうきたか、と思いました。箱男か! と。
妙な男は頭から箱をかぶっていて、
それはもう、ほんとうに妙! だったのです。

ご丁寧にも、表紙の裏では
カーテンを切り抜いた穴から外をのぞいている妙な男、
扉では、窓の内側で、かぶるための箱を制作する妙な男が
描かれ、この、もとの文章にはない二枚の絵は
これから活躍? する男の妙っぷりを期待させてくれます。

その後、男は箱をかぶり、夜の散歩に出かけるのだけど、
顔の見えないその姿は挙動不審であやしくて、
でもどこか愛嬌があり、箱の穴からのぞく目と一文字の口は
ずっと変わらないのに不思議と表情豊か。
対する電信柱もチャーミングで
「腰をかがめて」男と話す場面なんてすごく好きです。
(この場面は表紙に使わせていただきました)
この二人が何とも重々しいいかめしい言葉で話すのは
ギャップがあってますますユーモラスです。
その他二人の散歩についてくる愛すべき脇役たちや
元に戻った電信柱にうっすら残った顔や貼り紙、
それを見上げるネコなどもいい味を出していて、
すごい、すごい、まさかこんな作品になるなんて、
思いもよらなかった、ラフでこんなに興奮していいのか、
というくらい喜んでしまいました。
ああそうか、石井さんはこういう風に
この物語を読んだんだ。
あまり語らない石井さんの内側を絵で見せてくれた、
そんな気がしました。
つまらない心配をしてしまって恥ずかしい。

ほとんど直すところもなく、本番の絵を仕上げて頂き、
完成した絵はやっぱり素晴らしいものでした。
ラフの時は目立たなかった遊びの部分も楽しく、
石井さん特有の淡く少しくすんだやわらかな色彩の中で
妙な人たちがうろうろ、あわあわと
不思議な一夜を過ごしていました。

その後は私達がばたばたとしているうちに
『電信柱〜』は本の形になり、
出来たての見本の包みを開くときは
緊張しつつも気が急いて、慌てて紙を破りました。
未明の文章も石井さんの絵もたっぷり見て来ましたけど、
とにかく一冊の絵本になった石井さんと未明の作品を
早く見たかったので。
絵本を手にしたときはもう感無量。
この本を作る場に立ち会えて、とても幸福に思い、
こういう瞬間が、この仕事の醍醐味かもと思いました。
(私など、ただ周りで興奮していただけで、
 なんにもしなかったんですけどね)

できあがった本は石井さんも小川さんも気に入って下さり、
周りの色々な方からもおほめいただいています。
これから小川未明の絵本シリーズを続けて行こうと
他の作品も進行中ですが、第一作目が素晴らしい出来で
本当に嬉しい。
それにしても惜しいのは、
この絵本を小川未明に見せられないこと。
すごく残念です。
ぜひ見せたかった。
「あなたの童話が大変なことになってます!」
なんて。

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2004-09-16-THU

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