担当編集者は知っている。

『新教養としてのパソコン入門
 コンピュータのきもち』



山形浩生著
出版社:アスキー
本体:1500円

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担当編集者/アスキー 加藤貞顕


みなさんのまわりに、こんな人はいませんか?
パソコンでトラブルがおきても、
少しいじればすぐに解決できたり、
はじめてのソフトでも、少しさわればすぐに使えたり。
それに、普段使っている雰囲気も普通と違っていて、
たとえば気楽にパソコンと向き合う感じとか、
キーボードをたたく指のキレとか、
操作している様子になんとなく自信とか
確信のようなものが見えるような気がしたり。
周りで見ていても、パソコンを乗りこなしている
雰囲気が伝わってくる、そんな人です。

彼らは、長いことコンピュータを使って
きているので、パソコンの「かんどころ」が
よくわかっているのです。
著者の山形さんは、本書の第1章で


  車の仕組みがわかると、車両感覚ってやつ
 が出てくる。アクセルとエンジンの関係がな
 んとなく想像がつくし、エンジン音からラジ
 エータやオイルの様子が伝わってきたりする
 し、路面の様子が、ハンドルやタイヤ、ブレ
 ーキを通じて感じられるようになってくる。
  必要なのは、そういう感覚だ。



と書いています。
車を運転する人は、この感じ、わかりますよね?
パソコンに詳しい人々も、これと似た感覚を
持っているのです。

パソコンや運転でなくても、
料理でも経済でも英語でも将棋でも
なんでもいいのですが、
ものごとのほんとうに大事な部分は、
たいていの場合、経験しながら覚えるしかない
もののようです。
たとえばベテラン主婦は、トントントンと
すばやく大根を千切りにすることができます。
これは本で覚えた技術ではなく、
みんな自分で経験して体得してきたものです。

本書は、そういった
これまでほとんど書かれなかった、
コンピュータの中心的な考え方を伝えることを
目指した、けっこう壮大な目的を持った本です。
よくある使い方を細かく解説した本とは違い、
コンピュータの仕組みと歴史を中心に解説します。
著者の山形浩生さんは、このコーナーでも何度か
登場されていますが、ものごとをわかりやすく、
そして面白く説明することのたいへん上手な人です。
荘子や『ドグラ・マグラ』、映画、音楽などの
話を交えて、楽しく説明してくれています。

本書は、ある意味、人間がコンピュータに
歩み寄ることをおすすめする本です。
なんで人間様がそんなことを
しなくちゃいけないんだ、
という意見もあると思います。
確かに、本当はコンピュータのほうから
歩みよってきてくれればいちばんいいわけです。
パソコンがもっと使いやすくなって、
誰でもやりたいことが簡単にできるように
なってくれれば、この本は必要ありません。

でも残念ながら、そうなるまでには
もうしばらくかかりそうです。
それならいっそ、こっちから近づいてみては?
という提案をしているのが本書なのです。
それに、コンピュータおたくという人種が
たくさんいることからもわかりますが、
コンピュータは、じつは、とても面白いものです。
その一端に触れて見るのは
そんなに悪いことではないと思います。

この本は、パソコン活用情報誌
月刊『アスキー・ドットピーシー』の
2001年春から2002年の春にかけて連載されたものに
1章分を加筆していただいてまとめたものです。
連載中、忙しい山形さんから原稿を
いただくのはけっこう大変でした。
でも、すばらしい原稿を一番最初に読めるのは
とても幸せな体験でした。
とくに、連載の最終回にあたる第13章の
「コンピュータと自由」についての回は、
読んだら涙が出そうになりました。
この章と加筆分の「知的所有権」の章は、
山形さんの真骨頂が出ていると思います。
この人は、文章で社会を変えようとしている!
という感じが強く伝わってくるのです。
思考や文章は、世の中を変えうるんだ、と、
この仕事に携わるものとして、
身の引き締まる思いがしました。

この本のもとになった連載は、
私が会社に入って、編集部に配属されて、
はじめて出した企画でした。
運良く上司の許可をもらえて、
運良く山形さんにもOKしていただき、
連載がはじまりました。
正直言って、編集のこともよくわかって
いませんでしたし、メールやFAXの
出し方といった社会人としての
基本的な知識もこの連載を通じて
学んだように思います。
仕事をしながら勉強されるのは、
山形さんからみればいい迷惑だったと思いますが、
最後までおつきあいしていただいたことには
とても感謝しています。
ありがとうございました。

その連載に人気が出て、今回、単行本として
発売することができました。
しかもイラストの杉田比呂美さん、装丁の高橋雅之さん
そしてもちろん山形さんのおかげで
とてもいい本になったと思っています。
こんなにうれしいことはそうありません。

中学生から大人まで誰でも楽しく読める本だと
思います。ご一読いただけると幸いです。

2002-10-14-MON

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