担当編集者は知っている。




『黄色い本』
高野文子
出版社:講談社
アフタヌーンKCデラックス
本体:800円

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〜筑摩書房ツルミさんのコメント〜

高野さんと言えば、
『田辺のつる』なんか好きな作品です。
『るきさん』にしてもあの感じが……。
どれをとっても高野文子作品だと分かるような
あの微妙な雰囲気が、この本にもあります。

表題作は主人公はいつもいつもずーーっと
『チボー家の人々』(全5巻)を読み続けているんです。
(傍目には同じ本をいつまでも読んでるように見えてる)
ジャック・チボーに自分を重ねて
「私はっ! その意見に賛成よっ!」
なーんてシーンを思い描いたりもしちゃう
高校生のみっこちゃん。
バスの中で、手伝いの間に、布団の中でひたすら、読む。
その読んでる姿と空想シーンとが
絶妙な「間」で交錯してます。

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担当編集者/アフタヌーン編集長 由利耕一

漫画家、高野文子さんの、6年ぶりの単行本です。
表題作「黄色い本」は
月刊アフタヌーン99年10月号に掲載された短編。

主人公は作者の故郷、
新潟とおぼしき雪国に暮らす女子高三年生、
田家実地子(たいみちこと読みます)。
本を読むのが大好きで、通学や家事の合間を縫って、
世界名作「チボー家の人々」に読み耽っています。

小説の舞台は第一次世界大戦前のフランス、
主人公のジャックは革命を夢見る今で言う反戦少年です。
読み進むうちに実地子はこの大長編にすっかり入り込み、
空想の中で、集会に参加したり、
デモッたり、アジッたり、
同志ジャックに思いを寄せたりするように
なっていきます。

実地子の読む「チボー家の人々」(白水社1966年版)は
表紙が黄色で、タイトルはここから来ています。

高野さんがこの作品制作に費やした時間はほぼ3年間。
最初の下書きが百数十ページあったのを、
削って、削って72ページ。
もう「なにも足せない、なにも引けない」
ぎりぎりのところまできて、
私がネーム(漫画業界用語で、下書のようなものです)を
見せてもらってから、さらに1年かかりました。
そして、アフタヌーンにもう1本
(「二の二の六」という作品です)書いてもらって、
めでたく短編集を編むまでさらに2年。

高野さんは寡作といわれる作家ですが、
けっして怠けているからでも、愚図だからでもなくて、
ものすごい集中力を持続させて
作品に取り組んでいることが、担当してみてよくわかり、
改めて凄さを実感しました。

作者からすれば、
これくらいの完成度の漫画を生み出すのには、
一生懸命やって、それくらいの時間がかかるんですよ、
という自然なことなのでしょうが、
このにぎにぎしく、慌ただしい時代に
こういうスタンスで仕事をしているクリエイター
(嫌いな言葉ですが)が何人いることでしょうか?
そのことが分かるプロ漫画家やイラストレイターに、
高野さんを畏敬するファンが
いっぱいいるのもむべなるかな、と思います。

単行本発売にあたって、高野さんは、
「いろんな方にいっぱい読んでもらいたいから
 協力しましょう」と、
生まれて初めて(そして、たぶん最後)のサイン会を
敢行しました。

前日、サインの練習をし、当日の控え室では、柔軟体操。
趣味の「居合い抜き」よろしく(三段だそうです)
気息を整えて、エイヤエイヤッと
150冊にサインしてくれたのでした。

「本を読むこと」にまっすぐに取り組んだ
高野さんの新しい代表作を、
ぜひ多くの人に読んでいただきたいと思います。

きっと、あなたのあの頃に、連れて行ってもらえますよ。

2002-04-15-SUN

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