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最新のオススメ本


『京劇入門(音楽選書No.84)』
著者:魯大鳴
出版社:音楽之友社
本体価格:1600円
ISBN:4−276−37084−1


中根圭代さん(著者の奥様)


本書は中国人の京劇役者、
魯大鳴(ルー・ダーミン)が日本語で書いた入門書です。
京劇は中国の伝統的な舞台芸術で、
日本で言えば歌舞伎や狂言に当たります。
歌が中心なので、欧米では
「ペキンオペラ」とも呼ばれています。

その京劇の歴史や表現の様式、舞台上の約束事、
役柄、化粧、衣装、道具、音楽、動作、流派などを
簡潔に解説しています。
さらに豊富なイラスト、代表的な曲の五線譜、
名作選の一覧表なども掲載しました。

最大の特徴は、筆者の役者としての経験に裏打ちされた
知識やエピソードが詰まっていることです。
劇場の成り立ちや観客との関係、京劇学校での生活などは
経歴を生かした記述になっています。

この本がどのようないきさつで上梓されたのか。
以下は魯大鳴から聞いた話と、
私が家族の立場から見たことです。

今から20年ほど前、魯が北京市戯曲学校を卒業して、
北京の京劇団にいたある日。
本番を終えた楽屋に日本人客が大勢入ってきました。
その中で日本語を勉強していたのは魯一人。
しかし、まだ挨拶程度の語学力しかなかったので、
彼らの旺盛な好奇心から出る質問に
答えてあげることができなかった……。
この時の体験から、「もっと日本語を勉強して、
いつか日本語で京劇を伝えよう」と思ったのだそうです。

なぜ、彼は日本語を習っていたのでしょうか。
京劇役者の生活は早朝に発声練習、
午前は基礎訓練と立ち回り、夜が本番と、
案外単調なものです。
「一日中体を動かしているから午後の休息時には
 静かに過ごせて、しかも気分転換になるものが
 ほしかった。ちょうどその時、
 初めてラジオ日本語会話が始まったから、
 やってみようと思った」と言います。
その後に楽屋での出会いがあったのです。

魯は日本に留学後もずっとこの夢を抱いていたのですが、
出版社を探すのも一苦労。話を聞いて
「おもしろそう。検討してみる」と言ってくれたのが、
当時音楽之友社にいた谷口恭子さんです。
しかし、企画が通るかどうか心配しているうちに
谷口さんは他社へ転職。
そこに「引き継ぎたい」と申し出してくれたのが、
この本の編集者千葉吉子さんでした。

魯の書き方は本全体の文字数を見て、
一日何字書けばどのくらいの期間で完成するかを計算し、
毎日規則正しく書くというもの。
「中国語で下書きした後、日本語で清書するのだろう」と
思いきや、いきなり日本語で執筆。
歴史の部分に一番手間取ったようですが、
そのほかは順調に書いていきました。

しかし、原稿整理では何度も同社に缶詰になりました。
「魯さんの責任は重いんです。類書がないのですから、
 京劇について調べようと思ったら、
 この本を資料に使うんですよ。間違ったら
 影響は大きいんです」という千葉さんは
一つの疑問も揺るがせにしません。
音楽の部分では実際に魯が歌って説明し、
動作もポーズをとって説明して、
千葉さんの疑問を一つ一つ解消していきました。

缶詰にならない日も深夜まで
千葉さんからの確認のファクスが届き、
11時30分を過ぎるとファクスが止まるので、
「今夜は帰宅したんだな」と分かる日が続きました。
同時に京劇の楽譜を五線譜に直してもらったり、
急遽同社のホールをお借りして写真撮影をしたり、
北京に著作権の許可を取ったり。
道具などの図も寸法を測って描いていきました。

運よくすべてが滞りなく、というよりも、
すべてのしわよせを千葉さんや印刷所が
かぶってくれたおかげで、5月26日、
上海京劇院来日公演の初日に
東京芸術劇場に本を並べることができました。

出版後は中国からお祝いの国際電話が相次ぎました。
日本ではたった1冊の著作は小さなことかもしれませんが、
中国から見たら著述業でない者が出版すること、
留学の成果を出したと言えることなど、
決して小さなことではないのです。

ましてその本がたくさんの日本の読者を
得ることができれば、
彼らも一層喜んでくれることでしょう。
京劇鑑賞の際には、ぜひカバンの中に
入れていただければと思います。
 
魯大鳴関連ホームページ
http://www.bekkoame.ne.jp/~maomi/

2000-07-16-SUN

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