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最新のオススメ本

『ロスト・イン・アメリカ』
青山真治・阿部和重・黒沢清・塩田明彦・安井豊 著
樋口泰人・稲川方人 編
青山真治監督の『ユリイカ』はこの度のカンヌ映画祭にて
「批評家連盟賞」を受賞。
デジタルハリウッド出版局
3400円+税
540ページ
・アカデミー賞リスト1980〜1999
・作品名索引・人名索引付き
担当編集者:
デジタルハリウッド出版局 木原いずみさん
今でも、人から
「で、具体的にはどんなことをやってるの?」
と聞かれるととても困ってしまいます。
親にすら何度聞かれても
やっぱりうまく説明できない。
そんな書籍編集という仕事ですが、
その仕事で得られる喜びの一つは、
やはり、一冊の本が出来上がるまでに起こった
さまざまな事件や人との出会い、
交わされた会話、受けた刺激など、
製品としての「本」からは
やむを得ず零れ落ちてしまう事象を
目の当たりにできる僥倖だ、とは言えます。
というわけで、その幸せを
少しだけおすそわけ……。
この『ロスト・イン・アメリカ』という本は、
著者・編者合わせて7名。
雑誌かちょっとした用語集かという大所帯になりました。
「80年代から90年代にかけて、
アメリカ映画に起こった決定的な変容とは
何であったかを、気鋭の映画監督・小説家・批評家が
語りおろした座談集」
をやりませんか、というお話があったのは
1998年の秋だったのですが、
実際に座談を行なったのは1999年の1月5日でした。
青山真治・黒沢清・塩田明彦の3氏が映画監督、
安井豊・樋口泰人の両氏が批評家、
小説家の阿部和重氏に、詩人の稲川方人氏という
総勢7名。
本からも十分に濃密で白熱した議論だったことが
伝わるのですが、
実際の座談現場では「白熱」以上の激論が
交わされていたのです。
場に緊張感が走ったのは
『タイタニック』に話が及んだ時。
その時点で『タイタニック』は世界的なメガヒット。
もちろん日本でも記録的な興行成績を樹立中、
しかもアカデミー賞では10部門以上獲得し、
「最新テクノロジー多用の
ハリウッド的超大作をとりまくる、B級監督」
的な評価がついてまわっていた
ジェームス・キャメロンが、
それまでの鬱憤と怨念を晴らすがごとく
「俺は映画の王だ!」と授賞式の壇上で
叫んでいたわけですが、
その問題の『タイタニック』をどう評価するかで、
青山真治氏と塩田明彦氏が真っ向から衝突。
塩田監督の
「『タイタニック』は失敗したメロドラマだ」、
という発言に対して
青山監督が
「いや、あれはよくできたメロドラマだ」、
と反論したあたりから、
座の雰囲気は一気に緊迫度が上昇。
まさに、一触即発です。
もともと座談参加者の7名は、
常日頃から非常に近しい関係の方々なのですが、
座談が始まってから数時間は、
やはり「本にまとめる」前提からか
なかなか本調子にならず、
逆に、それぞれの力量を熟知しているがゆえに
滅多な発言はできない、という
膠着状態が続いていました。
実は、当日青山監督は諸事情により
遅れての参加だったのですが、
椅子に座って間もない男気あふれるこの発言が、
この座談の起爆剤となった気がします。
『タイタニック』をどう見るかについて、
ほとんど集中砲火を浴びるはめになった
塩田監督だったのですが、
どれほどダメージを受けても最後までひるまず、
「僕は復古主義者」
の名言を、本に刻むことになります。
「復古主義者」としての真骨頂は、
1999年の映画賞を総なめにした
塩田監督のデビュー作品
『どこまでもいこう』『月光の囁き』で
存分に確認していただければと思います。
どんなに座が白熱しても、
この人の発言になると全員聞き入る。
まさに自身が『カリスマ』的存在の
黒沢監督の独特な語り口には
原稿整理の段階で相当泣かされました。
「AであるかもしれないがBともいえる、
しかしCであるやも」
という語り口は、
座談時点では非常に興味深かったのですが、
実際まとめるとなると大変!
編者の樋口氏によると、
この黒沢節、どこの国でも通訳泣かせなんだそうです。
(ということは、
井上陽水さんも通訳泣かせということでしょうか)
結局、この1月5日の座談が終了したのは、
開始から12時間以上経過してから。
全社禁煙が原則の当社専用
ファン付き灰皿の効果もむなしく、
もやのかかった会議室には
主に阿部和重氏と青山監督によって消費された
キットカットと一口チョコをはじめとした
おやつ・おつまみ・ペットボトルの残骸が残されました。
しかし、12時間以上「アメリカ映画」について
しらふでノンストップ。
朝ナマだって、
実際は時々刻々とテーマが変わりますよね。
自分は、一つのテーマについて
12時間ノンストップで
話しつづけることができるだろうか?
うまく言えないのですが、
そんな圧倒的な何かを感じた夜。
座談後、
阿部氏が野間文芸新人賞を受賞されたり、
塩田監督がデビューされたり、
黒沢監督がフランスを中心に急激に注目が高まったりと
ずいぶん状況が変化しています。
今行われているカンヌ映画祭には、
青山監督の新作『ユリイカ』が出品されているのですが、
さて、結果はどうなるのでしょうか……。
1年4ヶ月前に行われたこの座談が、
参加した方全員の現在に
大きく影響を与えているらしいことだけは
確かなのですが、
その内実は、ぜひ本を手にとって
確かめて頂ければと切に願います。
とりあえず、
この本で語られる映画は400本以上あるのですが、
全部見たくなってしまうことだけは保証します。
そういう意味では、
通なシネマガイドとしてもかなり使えます!
さらにおまけ。
今時めずらしく、函入りです。
ボール紙の地に箔押しという
渋クールな装丁は、書棚のオブジェとしても
かなりの威力を発揮してくれることでしょう。
ぜひ、手にとってお確かめくださいませ。
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