担当編集者は知っている。

中村勘九郎『歌舞伎ッタ!』

今回、本を紹介してくださるのは、
アスペクトで編集をしている片上優子さんです。
“自薦”のメールをほぼ日編集部に送ってくれたのが、
原稿を書いていただくことになったきっかけです。

「本を紹介したい」という編集者の方、
以下に紹介する、メールのやりとりのような感じで、
このコーナーが成り立つこともあるんですよ。
自薦、おまちしておりますので、ぜひご連絡を。
では、片上さんとdarlingのやりとりをどうぞ。


「編集者は知っている」ご担当御中
12月5日(日)6:37 PM


はじめまして。
わたくし、アスペクトという出版社で
編集をしておりますカタガミと申します。
1年ほど前からの「ほぼ日」読者でもあります。

そんなわけで“編集者は知っている”コーナーも
更新ごとにチェックしてますが、
“わたしもいつか、ここに本を紹介したいな”と思いつつ、
勇気がなくて情けない思いもしておりました。
「いつか、いつか、問い合わせをしてみよう」と。

というわけで、コーナーの説明の箇所には
「自薦もOK」とありますので、
歌舞伎役者の中村勘九郎さんの聞き書き
『歌舞伎ッタ!』(12月6日発売/1800円)
のことを紹介させていただきたい、と
勇気を振り絞ってE-Mailを書いています。

まずは掲載するにはどのような段取りが必要か、
教えていただけませんでしょうか。

簡単に、紹介したい本の内容を説明しますと、
本書のタイトルは勘九郎さんが長年思い描いていた
「親しみやすい、いまに生きる歌舞伎」
を表す彼の造語です。
オペラからオペレッタが生まれたように、
歌舞伎にも歌舞伎ッタと呼ばれるものを作りたい……と。

ちょっと話が逸れますが、
本書は、演劇誌『ソワレ』(現在休刊)に
『勘九郎通信』というコーナー名で
2年半連載されたインタビューをまとめたものです。

連載時は、月々の公演のことや身辺雑記のようなもので
構成していたのですが、タイミングの良いことに、
連載開始時に野田秀樹さんとのワークショップが
あったりして、勘九郎さんの夢が
徐々に動き始めた時期でした。

ここに長々と説明しても、ご迷惑でしょうから省きますが、
ともかくも、単行本にまとめるにあたって、
勘九郎さんの「俺はこんなことがやりたいんだ!」と
話してくださったことをメインにしようということ、
そうすべきだし、そういう構成ができるほど、
勘九郎さんは「演劇界の垣根を取り払う」動きを
着々と進めていたのでした。

そして、最終インタビューは今年の10月だったのですが、
そのときに、2000年にはいよいよ夢が、
公演として実現することを教えてくださり、
本書のタイトルも『歌舞伎ッタ!』がピッタリだね、
ということになったわけです。

……くだくだと書いてしまいそうなので、
この程度でやめておきます。
今回は単に問い合わせのつもりでしたので。
オーディション的なものがあるのかどうか存じませんが、
興味をお持ちいただけますことを、そして
もっともっと詳しい説明が許されることを願っています。
なにとぞ、よろしくお願いいたします。

追伸:
いま、このE-Mailを書いていて思い出しましたが、
本書の記述の中には糸井さんもご登場いただいていました。
勘九郎さんが樋口さんとごはんを食べに行ったときに
「ホントは旦那の糸井さんと3人でごはん食べる予定で、
 彼が来れなくなっただけなのに、
 週刊誌に書かれたんだよぉ!」的な
《特別出演》ではありますが。

となると、やっぱり本書を贈呈したほうが
いいような気がしてきました。
「ほぼ日」掲載うんぬん抜きで、
週明けにでも送付させていただきます、はい。

片上優子
株式会社アスペクト


Re: 「編集者は知っている」ご担当御中
12月5日(日)7:12 PM


糸井です。

結論をもうしあげます。
ぜひ、お願いします。
長さも自由。締め切りも自由ですが、
この流れだと早いほうがいいですね。

必要なのは、テキスト原稿と、本の写真
(デジタルの画像があれば、手間がいらない)だけ。
本つくりのエピソードでも、テーマでも、
苦労でも後悔でも、何でも書いてください。

ご質問などあれば、いつでも、どうぞ。
こういういい意味での「立候補」を待っていたのです。
ありがとう!
(darling)


「編集者は知っている」自薦
『歌舞伎ッタ!』の巻
12月7日(火)10:38 AM


いやぁ、ビックリしました。
わたしが問い合わせのE-Mailを送ったのが、
日曜日の午後6時40分ごろ。
糸井さんからのお返事が午後7時10分。

あまりの早さに度肝を抜かれ、「書きたいこと」で
頭はパンク状態になってしまいました。
立候補したくせに。

>長さも自由。締め切りも自由ですが、
>この流れだと早いほうがいいですね。

そんな優しいアドバイスをしていただいたというのに、
考えはまとまらず、結局、何書いてんだか
わからない状態から抜けきれないままの
文章になってしまいました。
けど「熱」だけでも伝わればと、そのまま送ります。
編集者って、日ごろ黒子に徹しているものなので、
こういう「わたし」が出る文章になると、
自分の居所がわからなくなる、
とヘンな発見をしたのはうれしいのか悲しいのか……。

糸井さんの添削があるのかどうか、存じませんが、
へんなところはエイッと切ってくださって構いません。
書き直しとか、あるのかな?
でも、恥をかくのは自分だと思っているので、
このまま出ても構いません。

以上のような、
はなはだ冷静さを失った状態ではありますが、
表紙データとテキストを
添付ファイルにて送らせていただきます。

よろしくお願いします。
そして、お心遣いにありがとう! です。

片上


Re: 「編集者は知っている」
   自薦『歌舞伎ッタ!』の巻
12月7日(火)2:19 PM


速度は、いのち、ですね。
おもしろそうですね。
「ほぼ日」プログラムをじっとみて、
いちばんよさそうな日を決めて
早いうちに掲載したいと思います。
こののち、金澤というスタッフから、
改めてご連絡がいくと思いますが、よろしくお願いします。
カンクローさんに、よろしく。
先日、コクーンの「パンドラ」で隣の席でした。
野田・本、串田・演出の話はちょっと聞きました。
おつかれさま。
ありがとうございました。
(darling)


いかがでしたか。このようなやりとりがあって、
今回、片上さんから原稿をいただいたわけなんです。
それでは、このコーナーの本題である、
担当編集者による本の紹介をどうぞ。
はじまり、はじまり〜。


『歌舞伎ッタ!』中村勘九郎
(アスペクト 編集部 片上優子)


こんなことを書くと、
歌舞伎好き、勘九郎さんファンの方には
怒られてしまうかもしれませんが……
誤解を恐れずに言うと、
この本は「芝居小僧の夢」の物語です。

抱き続けてきた夢を、夢に終わらせず、
何年もかけて行動し、種を蒔き
出会った人々を自分の夢に巻き込んで、
話を聞いた人たちみんなにいつの間にか、
同じ夢を見させてしまう男の物語とでも申しましょうか。

くっさい表現になって、
書いていてなんだかなぁと、自分でも思いますが、
「ほぼ日」読者の方になら、
こういう表現が許されるというか
言わんとしていることをご理解いただけるだろう、
と書いちゃいました。あー。

さて、本書は1996年12月から1999年6月まで、
演劇誌『ソワレ』で連載されたインタビューを
再構成した聞き書きです。ひとり語りです。
構成はライターの山上裕子さんが担当しました
(1999年10月、最終取材あり)。

実を申しますと、
勘九郎さんのお会いしたときの第一印象は
「あらま、せっかちで妙にノリのいい人だなぁ」
といった驚きでした。
同時に、歌舞伎通ではないわたしが担当になっても
許してくださりそうな予感と共に、僭越ながら
「この方なら、歌舞伎のことだけでなく
世間話もできそうだし、それを誌面に反映しよう」
などと、少々の野心を抱いて連載が始まったのです。

(後日談:「この恋に未来はあるの?」
 といった読者の人生相談やら、
 「お風呂の入り方」「初対面の人のどこを見る?」
 などのあやしい質問にも、ちゃんと答えていただいて
 望みはかないました。もちろん本書にも収録)。

ついでに白状すると、
「歌舞伎界は格式があっておっかないところ」
という先入観があったりして、
多少恐れおののいてもいたのですが、
皆さんとても寛大でしたし、
しきたり知らずの編集者を待っていたのは、
勘九郎さんの笑顔。
これ、うそじゃなくホントのことです。

お人柄に感謝するのはもちろんですが、
連載開始直後、つぎつぎと以下のようなことが起きて、
話題に事欠かなかった
おかげもあるのかもしれません。

1.「ほぼ日」おなじみの野田秀樹さんとの
  ワークショップ実現

2.アリゾナ・フェニックスに別宅を構えて、
  頭と体を休めることを実践

3.大当たりをとることになる現代劇
  『浅草パラダイス』に出演

4.コクーン歌舞伎第3弾を上演

5.NHK大河ドラマに出演

6.大河収録の合間に、日頃観ることのできない
  他の役者の芝居を数多く観劇

上記以外に、歌舞伎にも出演なさっているわけですから、
そちらでも当然、古典から新作まで、
いろいろな試みをなさり続けていたわけです。いやはや。

そんなこんな、新展開がわっさわっさと訪れて、
取材のたびにニコニコと
「ちょっと大変だよ、聞いてくれる!」状態の、
語り部・勘九郎さんに対して
「それでそれで?」とお伽噺をねだる子どものように、
都合3年ほど付きまとい続けて出来上がったのが、
本書というわけです。

あ、大切なことを忘れていました。
本書のタイトル『歌舞伎ッタ!』を見ると、
たいがいの人は「歌舞伎ッタ???」
という表情を浮かべます。
で、一応説明。意味不明なのは当然、
これは勘九郎さんの造語なのですから。

「オペラからオペレッタが生まれたように、
誰でもが楽しめる、親しみやすい歌舞伎」
というのが基本の意味です(応用編もアリ)。
言い換えると、勘九郎さんが長年思い描いてきた
「いまに生きる歌舞伎」。
もちろん現時点では、まだ世にお目見えしていません。

ところが、
今年10月の追加取材の際に聞いてビックリしたのですが、
2000年には、いよいよそれが実現するのだそうです。
8月には新作歌舞伎が、そして11月には
テント公演が上演されるのだそうです。
そして2001年には、歌舞伎座で
野田秀樹作、串田和美演出の公演が行われる。

つまり勘九郎さんが、せっせと20年近く蒔き続けた種が、
来年いよいよ芽生える……ということですよね。
夢の構想、そして夢の実現のための冒険譚として、
『歌舞伎ッタ!』の構成は進行していましたが、
単なる夢物語に終わらせない最終章を
本書に加えることができるようになったのです。
でも、そんなことより何より
18歳のときから抱いていた夢がかなうなんて、
すごいことですよね。
まるで自分の夢が実現するようなうれしさが
こみ上げてくるのはいったいなんなのでしょうねぇ?
(公演も早く観たいのですけど)。

最後に、特別ふろく的な
「久世光彦、中村勘九郎を語る」があるのですが
中村勘九郎さんという役者をご存知ない方は、
こちらからお読みになるといいかもしれません。
自分が編集しておいて、こういうことを書くのは
本来は反則なのですけれど。

もちろん、できれば夢の実現までの軌跡を
プロローグから読んでいただきたいというのが本音ですし、
予備知識がなくとも、楽しんでいただけるよう
構成したつもりなのですが……。
その判断をくだすのは読者の方々ですものね。
(ご意見をお寄せいただければ幸いです)。

どういうわけか、本の説明というより、
勘九郎さんの人物宣伝のような原稿に
なってしまったのがちょっと気になりつつ、
この文章はヘナチョコですが、
『歌舞伎ッタ!』の勘九郎さんの話っぷりは、
もっともっとわかりやすいということで、
どうかご容赦ください。

そして、「芝居小僧の夢」に、力に、
すっかり取り込まれた者のひとりとして、
この冒険のワクワク感をなるべくたくさんの方に
共有していただきたいと願う編集者のひとり言を、
夢見がちに終わらせていただきます。



著者名 中村勘九郎
書 名 歌舞伎ッタ!
装 丁 岡 花見
判 型 四六版(288頁/函付)
本 体 1,800円
発売元 アスペクト
ISBN:4757205848
出版年月:1999年12月
20cm 285ページ

1999-12-10-FRI

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