担当編集者は知っている。

『トンちゃんってそういうネコ』
MAYA MAXXってどんなヒト?  
(角川書店 編集部 松山加珠子)


(筑摩書房 鶴見智佳子さんからのメール)

イトイ様

今回は絵本です。
MAYA MAXXさんの『トンちゃんってそういうネコ』です。
去年、個展の会場で見てから出版されるのを今か今かと
待っていた本なのです。

すごくいい絵本です!!
ちょっとせつない。
でも、元気がでます。
自分の生き方を考え直したりする人もいるかも
しれないです。
トンちゃんのこの普通さに救われる気持ちになります。

なんだかボキャブラリーが貧困な文章に
なってしまいましたね(笑)。
絵本を紹介するのって難しい!

こういう素敵な絵本ができるまでって
どんなだったでしょう?
というわけでそのあたりを角川書店の担当の方に
書いていただきました。

筑摩書房 鶴見智佳子


1、性別も国籍も不明!? 

編集者だけが知らなかったと言ってもいいくらい、
私はMAYA MAXXのことも、絵本という形態も知らずに
スタートしたのがこの本でした。
白状すると、MAYA MAXXは、1993年から
個展をやっていたらしいのですが、
私は今回初めて足を運びました。

最初にお仕事をお願いしたのはたしか98年の夏でした。
「a day of Michele」を見て、ある本の装幀を
お願いしたところ、マネージャーさんが出られて、
結局今回は……というところで実現しませんでした。
この時私のMAYA MAXX像は、マネージャーがいるというのは
きっと人と話をするのが苦手で、
自分の作家性にこだわる繊細な人、細くって、小さくって、
か弱い人なのだ、と刷り込まれてしまいました。

次に、98年の11月、懲りずに別の本の装幀をお願いして、
じゃあやらせていただきましょう、と
マネージャーさんが言われた1週間後、
「あのねぇ、もうできちゃったんだど。
帯とか考えないで描いちゃってるんですけど」
との電話を受け、とにかく見せて下さい、ということで
事務所へ出かけました。
この時もご本人とは面識もなく、
電話で話すことさえしていません。
ますますアーティストタイプに違いない、と思いました。
 
その事務所はMAYA MAXXの絵が雑然と置かれ、
MAYA MAXXが描いちゃった絵は、
とてもとてもせつない犬の絵でした。
これは北川悦吏子さんの初期作品のノベライズ『冷たい雨』
(角川文庫)になっています。

その時見せてもらったのが「トンちゃん」と
タイトルされた足の一つない猫のお話でした。
ちょうどハガキ大ぐらいの絵本で、
一つ穴リングで単語帳のようにくくられ、
めくるたびにせつなくなるんだけれども、
ホッとさせてくれる、いい話でした。
すかさず、「これはどこか決まってますか?」
ということで、トンちゃんは担当させていただくことに
なったのでした。
が、その時も「MAYA MAXXの書体はヘルベチカブライト」と
マネージャーさんに言われ、
やっぱりウルサイ人なのかもしれない、
と一抹の不安を抱いて帰ったのを記憶しています。
この時点でもまだ性別も国籍も知りませんでした。

初めてMAYA MAXXに会ったときの印象は、
そりゃもうびっくりでした。
大柄なちゃんとジョーダンも通る、
もののわかった日本国籍の大人の女の人でした。
スタイルもヘンにガンバッテなく
ナチュラルな立ち姿とでも言いましょうか、
私の頭の中のMAYA MAXX像は
みごとに打ちくだかれてしまいました。
考えてみれば、あのような大きなペインティングを
する人は、やっぱり力もあるよな、
とわかってもよさそうなものですが……。

2、絵本初心者は苦労する

そうこうして、7月の個展前に本をだそうということで、
何回かミーティングを重ねましたが、
私たちは絵本を作るのが素人っぽくて、
絵本の何たるかもわからないまま、
ああでもないこうでもないと試行錯誤していきました。
とにかく、アート本にはしたくなかったのです。

まずタイトル。これは最初「トンちゃん」だったのですが、
本屋さんはこれをブタの絵本と思うかもしれないので、
最後の一文をひいて『トンちゃんってそういうネコ』に
しました。

次にサイズ。最初に見せていただいた単語帳みたいな
小さなものも味があったのですが、絵のタッチの力強さと、
子どもに図書館で読んでもらいたいということから、
大型絵本でオーソドックスなもの、と腹をくくりました。

しかし、A6がB5、B5がA4になると、
ホントに本の定価は違ってきますから(*1)、
A4決定を下すために、何度も絵本コーナーでサイズと
重さ、定価を調べました。
ここで発見したのは、通常絵本が32ページ前後で
作られていることです。
なんと、“トンちゃん”は64ページありましたから、
通常の倍のページ数になるんですね。

といって、今から削るわけにもいかないので、
参考にしたのは、岩波書店の大型絵本の
『ひとまねこざる』シリーズ



目指したのは佐野洋子さんの『100万回生きたねこ』
でした。



とにかく、ロングセラーを狙おう、
学校図書推薦のシールなんかもらいたい、
と思ったわけです。

知らないということは、制約も少ないわけで、
ミーティングをすると、すぐポストカードだ、Tシャツだ、
手ぬぐいだ、とグッズ展開で話に花が咲き、
しかし、実績を作らねば企画を通すことも
ママならないので、とにかく、スタンダードな絵本として
『トンちゃんってそういうネコ』を浸透させること一点に
賭け、グッズ展開のチャンスを狙っているのが現状です。

そして、帯文は、私が12年間「月刊カドカワ」で
担当していた「月刊アッコちゃん」の編集人・
矢野顕子さんにお願いしました。

いくつか取材に立ち会っている中でMAYA MAXXが
1年間ぐらいノイローゼだったことも知りました。
そこから吹っ切れたとき、絵が変わっていったのだと
思うのですが、私は今のMAYA MAXXの絵がとても好きです。

最後に、MAYA MAXXってどんな人なんですか?
と聞かれたらMAYA MAXXが描いた絵そのものだと
答えるでしょう。大胆で繊細でクリアでポップで。
あなたが見たMAYA MAXXの絵そのものだと思って
マチガイないと思います。(*3)

P.S.
生MAYA MAXXに会いに行こう!!
8月28日(土)15:00〜16:00
阪急ブックファースト渋谷店にて
「MAYA MAXX先生」サイン会決行!!


●注
(*1)
本は、四六判と呼ばれるハードカバーより
大きくなればなるほど定価が上がります。
単純に紙がたくさん必要というのもありますが、
紙の大きさというのは、概ね流通量の多いサイズで
効率のいい大きさになっていますから、そこから外れると、
取り方に無駄ができて捨てる部分が多くなり、
余計に紙が必要となるのです。
また、製本料金も高くなり、それらがすべて定価に
跳ね返ってしまうのです。

(*2)
それぞれ有名な絵本です。

(*3)MAYA MAXXさん、オフィシャルサイトがあります!
http://www.mayamaxx.com/



『トンちゃんってそういうネコ』
ISBN4-048-53111-5
出版社:角川書店
著者:MAYA MAXX
価格:1900円

1999-08-24-TUE

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