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佐藤正宏・柴田理恵の恋愛物語
WAHAHA本舗
担当編集者 武井義明
担当が言うのも何ですが、
非常にジャンル分けのしにくい本です。
「WAHAHA本舗著」ということで、書店では
『タレント本』のコーナーにおかれることが多いのですが、
もちろん『演劇』にジャンル分けも可能です。
ですが! 誤解を恐れずに言うならば、ぼくは、
「これは文芸書である」
と思っているんですね。

この本の生い立ちから話しましょう。
スタートは、『ラブストーリー』というお芝居でした。
これは、佐藤正宏さんと柴田理恵さんが、
この10年間、年に1度ずつ上演しつづけてきた
二人芝居のシリーズです。
WAHAHA本舗の舞台というと、
過激な笑いを追求するエンターテインメント、
という印象が強いのですが(じっさい、そうなのですが)
この「ラブストーリー」だけはちょっと毛色がちがいます。
箇条書きすると、こういうことになると思います。
●佐藤さんと柴田さんの2人しか出演しない
●1回に4話のオムニバス形式
●「恋」が共通のテーマになっている
●基本的に、小劇場で上演
●原作陣に、作家やタレント、漫画家など、
WAHAHA本舗以外の人が参加
●作品タイトルは、映画からとられている
●「笑い」と「せつなさ」が同居している
ニール・サイモンばりのシチュエーション・コメディ
WAHAHA本舗のふだんの公演は、役者と、専属演出家の
喰始(たべ・はじめ)さんがいっしょにストーリーを
つくりあげるのですが、この『ラブストーリー』だけは、
基本的に、外部に依頼した原作をもとにしています。
それを、佐藤さん、柴田さん、喰さんが3人で再構成して、
上演台本を完成させます。
ぼくがその舞台を初めて見たのは、1998年2月。
『ラブストーリー10 アカデミー賞映画篇』
というものでした。
なんの予備知識もなく、新宿のシアタートップスに出かけ、
末席でその舞台を見ました。
個人的な話で申し訳ないのですが、ちょうどその頃のぼくは
恋が人生の一大事でした。いわずもがな、
かなり面倒な恋をしていて、しかも、それが
悲惨な結果に終わろうとしていました。
そんな状態だったからなのか、単に作品の力なのか、
おそらく相互作用だと思うのですが、
ぼくはゲラゲラ笑いながら、なぜか、
ぼろぼろ泣いていました。
作品じたいは爆笑の連続だったりするのですが、
ぼくは「笑いながら泣く人」になっていたんですね。
もう洟までずるずるで、おかしいんだか悲しいんだか
自分でもわからないくらいに。
そんな状態にもっていかれてしまったことに、
ぼくは非常に驚きました。
芝居に、そんな力があるとは、思ってもみなかったから。
そんなわけでこの作品は、
まるでトラウマのようにぼくの心に根っこをはやしました。
それからまもなく、この芝居を「本」という形で
まとめよう、という計画がスタートします。
スタッフにはこんなメンツがそろいました。
「著者」代表として、WAHAHA本舗から喰始さん、
版元は主婦と生活社、そこの編集人は伊藤仁さん、
じっさいに実務を担当する編集者として武井、
それから実際に執筆を担当するライターの瑠璃かをるさん。
舞台をつくるうえで欠かせない2人の役者、佐藤正宏さんと
柴田理恵さんには、インタビューや鼎談というかたちで
参加していただきました。
芝居を「本」という形にするにあたっては、まず
「上演台本をそのまま掲載するのはやめよう」
という基本方針が決定しました。それは、
●台本を活字にしたものは、非常に読みにくい
●せりふとせりふの「行間」は、台本だけでは伝えにくい
という理由からです。
では、どうするのか。
「小説にしよう!」
という提案が喰さんから行われました。
しかし、映画のノベライズというのは聞いたことが
あるけれど、舞台の、ましてやWAHAHA本舗の
小説化なんて、いままでにありません。
これはかなりスリリングな試みでした。
さて、10年間で上演した台本から、
小説にするのに適当だとして、以下の作品が選ばれました。
●『アラビアのロレンス』ひめはじめ原作
(映画好きの二丁目のマスターと歌舞伎町のママの
友情のおはなし)
●『わんわん物語』喰始原作
(貧乏な家の雑種ゴローと、金持ちの家のプードル
メリーのプラトニックな恋のおはなし)
●『エルム街の悪夢』刀根夕子原作
(コンピュータお見合いで出会う二人のおはなし)
●『噂の二人』池田美佐原作
(会社でのストーカー事件をテーマにしたミステリ)
そして、例外として1作品は、ノベライズはせず、
台本をそのまま、掲載することにしました。
喰始さんの古い友人であり、さきごろ逝去された
直木賞作家・景山民夫さんの『パリのめぐり逢い』
でした。これは、景山さんが書いた、おそらく最初にして
確実に最後となった演劇台本です。
ノベライズは、かんたんにはいきませんでした。
「それぞれの作品を、スタイルを変えて書きましょう!」
というのが喰さんからの注文です。
文体や人称などを、作品のカラーにあった方法で
変えていこう、というものです。
これが小説デビューの瑠璃かをるさんは、
喰さんの執拗なまでのダメ出しに耐え、
多いものでは第4校、第5校まで書き直しました。
ちょっと、瑠璃さんに話を聞いてみました。
| 武井 |
舞台だと、ちょっとした心の動きを、
表情の微妙な変化や動作で表しますよね。
そういったことを文字にするのは
たいへんでしたか。 |
| 瑠璃 |
舞台で表現されていることは
文字に起こすのはさほど難しい
作業ではありませんでした。
それよりも、1本が20分ほどの
短いお芝居ですから、
2人の登場人物のバックボーンが、
舞台ではあまり説明されないんですね。
名前すら、ないこともあって。
そういう情報を補わないことには、
小説として成り立ちませんから、
そのあたりはかなり勝手に
つくらせていただきました。
それは楽しい作業でしたね。 |
| 武井 |
喰さんのダメ出しは? |
| 瑠璃 |
ダメ出しといっても、
「こうするともっと面白くなる」
というものだったので、
納得させられることが多かったですね。
たとえば、『わんわん物語』だと
主人公の犬のゴローが、
文学オタクだなんて設定は
上演台本にはまったくないわけです。
そういう味付けをしていく作業でした。
舞台をご覧になった方は、
あまりの変わりように驚かれるのでは
ないでしょうか。 |
小説化と平行して、編集作業においては、
喰さんからのこんな注文がありました。
「本全体を、ひとつの芝居のようにしましょう。
つまり、ひとつの小説を、1幕と考えて、
幕間休憩として、息抜きのページを入れましょう」
その結果としてできたのが、
●タイのサムイ島での社員旅行中に敢行された
佐藤さん、柴田さん、喰さんの鼎談による「恋愛相談室」
●佐藤さんと柴田さんのほんとうの恋愛体験をまとめた
インタビュー「恋のスタンド・バイ・ミー」
●三人の夢である“映画作り”を熱く語った鼎談、
「ラブストーリー映画化大作戦」
●イラストと短いせりふだけで構成する名画のパロディ
「展覧会の絵〜もし名画の男女がお見合いをしたら」
というページです。

そうして、「ラブストーリー」の舞台を見てから
ちょうど一年。
表紙デザインは「ラブストーリー」の舞台の
宣伝美術を担当している高橋雅之さんに、
表紙のイラストは東恩納裕一さんに、
名画のパロディイラストは、漫画家の上条毬男さんに
お願いして、とてもキュートな本ができました。
そうそう、そういえば、思い出したことがあります。
余談ですが……。
darlingさんからこんなはなしをきいたことがあります。
それはdarlingさんが、テレビで「タモリ倶楽部」を
見ていたときのこと。
女の子の格好をしたゲイの子が、
いままででいちばん悲しかった出来事について、
話し始めたのだそうです。
「彼と結婚が決まったのね」
と、その子は言いました。
「結婚が決まったんです。それで、彼の田舎にいって、
私たち結婚しますって報告したんです」
もちろん両親にものすごく反対されて、
もちろん、というか、案の定というか、
泣く泣く別れることになったんだそうです。
そのはなしをきいて、大泣きしているゲストがいました。
WAHAHA本舗の柴田理恵さんでした。
「だって、かわいそうじゃない……!」
じつは、そのとき、darlingさんも一緒になって、
テレビを見ながら泣いていました。
「そんとき柴田理恵と俺の距離は、
ものすんごい縮まったのね。
俺は柴田さんとおんなじ気持ちだよーっ、って。
ブラウン管を越えて、柴田理恵と俺は抱きあったのよ。
で、この人についていこう! って思ったのよ。
あれは、もう、ホントうれしかったねー」
と、darlingさんは遠い目をしてかたりました。
「あなただって恋ができる。」
それが、『佐藤正宏・柴田理恵の恋愛物語』のテーマです。

『佐藤正宏・柴田理恵の恋愛物語』
ISBN4-391-12300-2
出版社:主婦と生活社
著者:WAHAHA本舗
価格:1000円+税
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