| 鶴見: |
上下巻・全920ページ、
マルクスからジョン・レノンまで86人へのインタヴュー、
うーん、大作ですね。編者の
クリストファー・シルヴェスターって何者ですか?
歴史学者とか……。 |
| 岡: |
いえ、編集者なんです。1959年生まれ。
原書の刊行が1993年ですから、当時34歳。
「イヴニング・スタンダード」の副編集長だったんですが、
その前に「プライヴェート・アイ」という雑誌で、
それこそインタヴュアーを長くつとめていました。
この本に登場するマーク・トウェインや
ポール・ジョンソンのような気難しい連中に
泣かされたこともあるんじゃないかしら。 |
| 鶴見: |
そこでめげるどころか、一大インタヴュー集を
作っちゃうというのが、さすがはジョン・ブル。
良い根性をしてますよね。
ところでさっき、原書の刊行が93年とおっしゃいました。
翻訳出版にこぎつけるまで6年……。
その意味でも大著ですね。こつこつ編集されて……。 |
| 岡: |
まさか! このご時世、
そんな悠長なことが許されるわけがありません。
実は私は三代目の編集者なんです。
去年1月に襲名(?)しまして、で、10月に刊行。
この分量からすれば、業界おなじみの「突貫作業」で。 |
| 鶴見: |
数字づくしになってしまいますが、訳者が30人。
それも村上春樹、岸田秀、柳瀬尚紀とクセ者ぞろいで、
原稿集めに苦労されたのでしょう? |
| 岡: |
ウーム。
翻訳者は律儀な方が多いし、それにお一人の訳す量は
少ないですから、そういう苦労はなかったです。
むしろポスト・プロダクション、編集そのものに
難儀しました。まず原書のファクト・チェック、
事実関係の確認をしないと。嬉しいことに(?)
外国の編集者はけっこうアバウトなんです。
シルヴェスター氏も、
いくつかオイオイというところがあって。
それから訳注をどの程度つけるか。これには悩みましたね。
つけはじめればキリがないし。
でも注の多すぎる本はシラケるでしょう?
悩みに悩んで、かなりしぼりこみました。
百科事典を引けばわかるくらいのものは、
エイヤッと省いたんです。
でもどうですか? 逆におたずねしたいんですけど、
不親切だったでしょうか。
あと……この本の苦労話を始めると、
私、止まらないんです。すみません。
そもそも全訳で行くか抄訳にするか。
これは解説の類をつけなかったことにも関係するんですが、
インタヴューというのは「生物(ナマもの)」だから、
できるだけ手を加えないで、そのまま。
量感、マッスも本の魅力のひとつじゃないかと
思い切りました。ただ原書は一冊におさまっていますが、
翻訳はどうしても二冊になる。
ですから、どこで分けるか、それにもずいぶん悩みました。
結局スターリンが上・下巻両方に出てきますが、
スターリンは19世紀的な独裁者ぶりを保ちながら、
戦後世界の一翼をかたちづくったという
二面性をもっているわけで、
これはけっこううまくいったのではないか、と。
これは自画自賛です。 |
| 鶴見: |
ということは原則として原書どおり? |
| 岡: |
それぞれの顔写真と巻末の年表は新しく付け加えました。
なじみのない政治家でも顔がわかれば
なんとなく読む気になってくれるんじゃないか、と。
もうひとつ、なにせ150年の世界史がてんこもりなので、
ちょっと交通整理するために
簡単な年表があったほうがいいんじゃないかなと
考えたわけです。それから……。 |
| 鶴見: |
まあまあ、苦労話はこのへんで
(けっきょく自慢話じゃない?!)。
最後にお薦めのインタヴューを教えてください。 |
| 岡: |
やっぱりマリリン・モンロー。
劇作家のアーサー・ミラーと結婚したばかりで
ものすごくハッピーなモンローなんだけれども、
このインタヴューの翌年にミラーと離婚して、
一年半後には自殺しちゃう。
この本を読むほうはそういう結末を知っているわけだから、
彼女の明るさが逆になんとも哀れで。
そうそうモンローの前にケネディのインタヴューがあって、
数ページ先に再婚して幸せな晩年を送っている
アーサー・ミラーが出てくる。
なんだか考えさせられますよね。
シルヴェスター氏もけっこう芸が細かいんですよ。 |