感心力がビジネスを変える!
田中宏和が、
感心して探求する感心なページ。



第九回
魅力の分析をする科学としてのデザイン



田中 あの、
「そもそも、なぜ、なに」から入る
佐藤さんの問題との取り組みが、
科学者っぽいですよね。
佐藤 あ、そうかなぁ。
小さな頃って、
オモチャを壊すじゃない?
時計とか、壊れると、ネジ外すじゃない?
あのまんま大人になったのかもしれないね。
なんでこの針が動くのか。
なんで秒針は速くて、
分針が遅いのか。
“なんで?”って思ったことが
クリアにならないと、
次へいけなかったですね、小さい頃から。
田中 あー、『子どもの科学』とか、
ああいう理科ものがお好きだったんですか?
佐藤 いや、特別そうでもないですね。
成績が良かったのは、
体育と美術ぐらいだったですね。
絵描くのが、好きで得意で、
大学でデザイン科に入ったんですよ。
田中 デザイン科を選ばれるってことは、
そもそもデザインに
興味をお持ちだったんですね。
佐藤 父親がね、デザイナーだったんですよ。
田中 あ、そうなんですか。
佐藤 父親とはほとんどデザインの話を
したことないんですけど、
身の回りに転がってたのがね、
プロ仕様の三角定規とかね、
コンパスとかだったんですよ。
父親はなんにも教えてはくれないし、
“やれ”とも一言もいわない親だったんだけど、
そういうものが遊び道具と一緒にありましたね。
父親が使わなくなった
ドイツのコンパスとかね。
今から思うとすんげぇ高いプロが使うやつ。
田中 デザインする環境が、
刷り込まれてたんですね。
佐藤 今でも、ハッキリ憶えてるのがね、
小学校に入ると、
みんなおんなじ道具を
買わされるわけですよね。
コンパス、三角定規とか
ビニールに入ったワンセットをね。
で、そのときに、
自分が遊んでたコンパスと
全く違うってことを知ったんですよ。
田中 目の肥えたガキですね(笑)。
佐藤 そう(笑)。
当然その違いはわかっちゃうんですよ。
遊んでたものと同じコンパスとして
渡されたプラスチックのものは、
1周描いても、
同じところに戻らない、
鉛筆の芯1本分ずれてるぞ、っていうことに
気づくわけです。
クオリティの違いっていうことが、
わかるわけですよ。
田中 いきなり硬式で野球してました、
みたいな感じですもんね(笑)。
じゃ、小さい頃から
ずっとプロの道具に触れつづけて、
そのまますんなり
デザイナーの道に入られたんですか?
佐藤 大学に受かって、こんど音楽に熱中してね、
ラテン音楽のパーカッションに
夢中になったりとかして、
ミュージシャンになりたいと、
大学のとき本気で半分思いました。
ただ、音楽を志しても、
なんかいつの間にか、
デザインに惹かれるというかね。
LPレコードなんか買いまくっても、
ジャケットのデザインって、
もう夢のようなメディアだと思うわけです。
昔のロックバンドのLPを買って、
“すっげぇな〜、
やっぱり、こういうデザインを
やってみたいな”とか思って。
田中 今のCDじゃなくって、
大きかったですからね、
部屋に飾りごたえがありましたよね。
レコードジャケット、あー、そうですよね。
佐藤 そうそう。
LPジャケットのメディアとしての影響は
大きかったですよ。
でも、自分がいちばん興味があったのは、
実は車のデザインだったんですよ。
もう絵を描くとなると、
なにしろスポーツカーの絵ばっかり
描いてましたから。
だから、なぜグラフィックから
スタートしたのかが
わからないんだけども。
プロダクトがすごい好きだったですね。
田中 前にハワイのフラドールを
いっぱい集めてたというお話を
うかがったんですけど、
やっぱり物好きというか、
凝り性で物集めに走りやすいほうなんですか?
佐藤 いや、そんなにでもないんです。
下らないものをね、集めるんだけど、
すぐ飽きちゃうんですね。
田中 収集に疲れた、
ってことになるわけですか?(笑)
佐藤 ちょっと興味があるから、
自分が純粋に欲しいと思うから、
手に入れて、
自分の身の回りに置いておきたいなって
思うじゃないですか。
で、思ってる間、買うだけなんですよ。
どうせ、どんなものにでも
もっともっと集めてる人たちが、
病的な人たちが
世の中には山ほどいるわけだから。
田中 それは、他のひとに任しとけばいい、
ってことになりますよね。
じゃ、コレクターじゃないですねえ。
佐藤 もう明らかにコレクターじゃないですね。
でも、そういうところからも、
すごく得るものが多いですよね。
たとえばキャラクターひとつとったって、
タンタンを欲しいなと思ったら、
買うために歩き回るじゃないですか。
で、自分が気に入るか、
何がかわいいと思うか、なんですよ。
“あ、こりゃかわいい”とかね、
“面白いな”、とかね思うじゃないですか。
で、それを、手に取った後に、
これの何が俺にかわいいと思わせたのか。
何が面白いと思わせたのか。
その後で考えるんですよ。
で、そうすると、この目の妙な描き方だな、
それから、それに伴ったこの質感、
日に焼けたこの色‥‥ってことが、
こう箇条書きのように出てくるわけですね。
田中 はぁ〜、科学的ですねぇ(笑)。
佐藤 それまでいかないと、嫌なんです。
これの何が自分を惹きつけたのかと。
ジーッと見ますね。
たとえば古いビンひとつとって、
“うぉ、これは面白いな”と思って、
その場で時間がないじゃないですか、
だから買っちゃうわけですね。
で、買っちゃって、
家にこう飾ったり置いといたりして、
“待てよ、これ、何が惹きつけたんだ?”
そうすると、ガラスの表面の、
今はない、昔のこのいい加減な、
この不完全なガラスのこのテカりが、
逆に今、あんまり見ないんだな、とか。
あ、泡が入ってるなんてのは今ないな、とか。
田中 あ、だから、買うっていうのは、
魅力の分析の時間を買ってるんですね、きっと。
佐藤 うん、もう、まったくそうですね。
だから、分析が終わっちゃうと、
もうぜんぜん興味ないんですよ。
自分にとってはもう分析しきっちゃった
ものになるので。
だから、小さい頃の時計が壊れると、
中がどうなっているのかって
分解した気持ちと変らないですね。
時計のネジを見たときの、
人がつくっているものの素晴らしさの感動って、
なかなかないですよね。
田中 知らないから知りたいという
解剖欲ですよね(笑)。
佐藤 それは誰でもあったと思うんですよ、たぶん。
それがだんだんと疑問に思わなくなって、
目の前にあるものが
当たり前になってきて、っていうのを
もう一回戻るという作業ですね。
だから、意外と小さいころのまんまかもしれない。
田中 その好奇心もあまり度が過ぎると
変態になるわけじゃないですか(笑)。
佐藤 うん、なるなるなる。
かなり危ない世界へ行きますからね。
田中 好奇心と変態は紙一重みたいなところが
ありますよね(笑)。

ワンポイント考察

こんな分析型の買い物をしてたら、
きっといつもの行為も楽しくなりますよ。
スーパーで
たくさんのねぎを前に、
「おいしそう」ではなく、
「私は、どれがデザインとして好きか」を基準に
選んでみるというのは、
どうでしょうか。
この反りとツヤがいい、とか、
ぶつぶつ言ってですね、
どうぞ変な人に思われてください。

グラフィックデザイナーの視線をもつことで、
普段の景色から違うものが立ち上ってくる、
日常に視覚的な地震を起こせる、とも言えそうです。
「変態」とは、
「変な態度」であって、
「違いを生み出す正しい態度」かもしれません。

ワンポイント情報!

佐藤卓さんの個展がはじまりました!
月曜日から土曜日まで、
銀座のGGGギャラリーにて、開催。
ずいぶん長い間、雑誌のように味わえる──
実際に出かけていった感想も、
うかがいたくなっちゃうような個展なんです。

「さっそく初日に出かけたら、佐藤さんに会った!」
と、うれしさを表明するメールも、いただいています。
↓今日は、こちらの動画をアップ。
(写真をクリック!)



↑また、非常に美しいこの立体についての会話も、
 収録してまいりましたので、動画でぜひどうぞ。
(写真をクリック!)


1つのガムが幾重にも重なって見える
アクリルの透明な四角柱を、まるく削って、



 こんなふうに美しくしあげることができるんです。
 回転すると、見え方が変わりますよー!

 もしも、ご希望の方がいらしたら、
 現在、四角いアクリルのなかに入っている
 クールミントガム(初期のデザインバージョン)を、
 実費・15万円(税別)にて、おゆずりいたします。
 postman@1101.com
 ご希望の方は、こちらのメールアドレスに、
 電話連絡先を添えて、件名を
 「佐藤卓さんアクリル」として、ご連絡くださいませ。
 ワンポイントお知らせ、でした!

2004-05-17-MON

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