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| 上田 |
ちょっと話が飛ぶかもしれないんですけどね。
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| 糸井 |
どうぞどうぞ。
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| 上田 |
わたしの子ども、２番目の息子なんですけど、
中学を卒業するときにね、
高校の夜間部に行くって言いだしたんですよ。
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| 糸井 |
ほう‥‥はい。
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| 上田 |
家内が先生に会いに行って、いろいろ聞いたら、
中学３年間、
すべての試験を「白紙」で出してたんだって。
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| 糸井 |
え。
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| 上田 |
そんなの知らなかったし、びっくりしちゃってね。
でも、それじゃあ仕方ねぇなぁと。
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| 糸井 |
すごいですねぇ。
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| 上田 |
結局、昼は自動車工場ではたらきながら、
夜間部に通ったんだけど、
そこも、ふた月ぐらいで辞めちゃってさ。
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| 糸井 |
はい、はい。
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| 上田 |
なんだか、仕事中に手が滑って
下にいた職長さんを潰しちゃいそうになったとかで、
恐ろしくなって辞めたんだって。
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| 糸井 |
はー‥‥。
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| 上田 |
そのときには夜間部も退学しちゃったあとでね。
実際には、通ったのは数日だけだったみたい。
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| 糸井 |
ほう。
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| 上田 |
そのあとはもう、調理師の免許とったり、
電気工事士の免許とったり‥‥。
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| 糸井 |
ええ。
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| 上田 |
空手をやってみたり、劇団の研修所へ入ったり‥‥。
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| 糸井 |
思いっきりやってますね（笑）。
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| 上田 |
しばらく、そんなことを続けてたんだけど、
あるときに
「オレ、身体はゴリラみたいになったけど
頭はサルのまんまだ」って言いだした。
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| 糸井 |
ご自分から？
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| 上田 |
うん、そう、それで「大検」を取るために
予備校へ通いだしたんです。
で、数学に手こずってたみたいだけど‥‥
ようやっとのことで、大検が取れてね。
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| 糸井 |
よかったですねぇ。
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| 上田 |
それから、大学の「ＡＯ入試」ってやつですか、
社会経験も加味しつつ、
面接だけで入れるとかいう入学試験を受けて、
慶応に合格したんですよ。
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| 糸井 |
ふん、ふん。
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| 上田 |
わたしはね‥‥もう、感激しちゃいまして、
ドラッカーに手紙を書いたんです。
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| 糸井 |
何てですか？
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| 上田 |
いや、あの、いまの話をぜんぶね。
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| 糸井 |
へぇー‥‥。
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| 上田 |
そしたら、ドラッカーはですね、
その手紙の返事に、
自分のお孫さんの話を、延々と書いてきた。
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| 糸井 |
お孫さんですか。
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| 上田 |
ドラッカーには
州で表彰されるくらい画才のあった孫がいたんだけど、
あるとき、すっかり絵を辞めちゃって、
ラッパを持ってニューヨークへ行っちゃったんだって。
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| 糸井 |
ラッパ。
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| 上田 |
バンドに入って、下宿代が払えなくなると、
道ばたでラッパ吹いて‥‥という人生を送っとったら、
自閉症の子どもたちに、
ラッパを聞かせるような療法があるってことを知って、
それに、夢中になっちゃったんだって。
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| 糸井 |
ええ、はい。
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| 上田 |
ところが、いくらうまいラッパ吹きでも、
そういう行為をするとなると、
大学に行かなきゃ取れない資格が要るんだと。
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| 糸井 |
なるほど。
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| 上田 |
そこで、そういう大学に入ったらしいんです。
で、ガールフレンドが中国人だったんで、
語学は中国語を選択したら、
すぐにしゃべれるようになっちゃって、
「自分には、めちゃくちゃ中国語の才能がある」って
わかったらしいんですよ。
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| 糸井 |
ラッパと中国語‥‥。
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| 上田 |
それで、いまや、中国へ行って、
ラッパを吹いて、
自閉症の療法に取り組むんだ‥‥という、
そういう道に進んでるらしいんですけど。
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| 糸井 |
先生の息子さんの話と似てますね。
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| 上田 |
なんでこんな話を、延々としてきたかというとね。
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| 糸井 |
はい、そこですよね（笑）。
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| 上田 |
ドラッカーは、その手紙のなかで、続けて、
「このふたつの話から言えることは」って。
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| 糸井 |
はぁ‥‥！
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| 上田 |
この言いかた、きわめてドラッカー的でしょ？
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| 糸井 |
このふたつの話から言えることは‥‥何と？
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| 上田 |
「そういうことができる時代になった」
「それ以上でも、それ以下でもない」って。
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| 糸井 |
はー‥‥。
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| 上田 |
「そういうことができる時代になった」
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| 糸井 |
みごとだなぁ。経済社会の分析になってるんだ。
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| 上田 |
もちろん「そういう時代にはなった」けど、
成功できるかどうかは、
本人しだいである‥‥ということが、
そこには、同時に含まれるわけですけどね。
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| 糸井 |
みごとな結論ですね。
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| 上田 |
これ、めちゃくちゃドラッカー的なんだな。
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| 糸井 |
いやぁ、すごい話です、それは。
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| 上田 |
若いもんの話に、時代を「見て」るんだよね。
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| 糸井 |
まさに「社会生態学者」の目ですよね。
はあー‥‥。
‥‥それが、ドラッカーからの手紙ですか？ |
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| 上田 |
うん、ファックスでやりとり してたんだけど。
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| 糸井 |
どれくらいあるんですか？
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| 上田 |
ぜんぶで700枚以上あるんだけどね‥‥。
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| 糸井 |
700枚ですか！
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| 上田 |
ええと‥‥これこれ、
これね、ぼくが60歳になったときに
彼がくれたファックスなんだけど。
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| 糸井 |
何て書いてあるんですか。
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| 上田 |
ハッピーバースデイトゥユーなんだけどさ、
そのあとにね、
「Happy returns and best wishes
for healthy and productive additional‥‥」
つまり「健康的で幸せな、これからの35年を」だって。
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| 糸井 |
35年、ですか。
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| 上田 |
60歳になったぼくにだよ？
「これから35年、おもしろい時期が始まるよ」って。
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| 糸井 |
いいですねぇ。
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| 上田 |
「You are now entering
what will probably be the most satisfied
third of your life‥‥」
「もっともプロダクティブ（生産的）で、
もっとも満足のいく、
残り３分の１の人生が、始まるよ」って。
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| 糸井 |
ドラッカーって、80歳をすぎてからも
旺盛に本を書いてますもんね。
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| 上田 |
30歳までが、人生の第１期。
60歳までが、第２期でしょ。
で、いちばんたのしい第３期が
これから始まるんだよ、ってね‥‥。
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| 糸井 |
ご自身も、
本気でそう思って生きてたんでしょうね。
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| 上田 |
60歳のぼくに「エンジョイ！」だって。
もうさ‥‥うれしくなっちゃって。
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ドラッカーは、晩年になってなお好きな山歩きを楽しんだ。
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＜つづきます＞ |
