齋藤先生 こちらのハラマキは何歳くらいのかたが
ご購入されるのでしょう。
やはり4、50代か、もっとご年配の方?
ほぼ日 一概には言えないのですが、年齢層で多いのは、
35歳くらいの女性だと思われます。
齋藤先生 そうでしたか、となりますと、
必ず話さなくてはならないことがあります。
それは女性のダイエットの話ですね。
過激な食事制限のみでそれを行うことで
もたらされるリバウンド現象というのは、
大変恐ろしい病態を招くということ。
それと低体温は、深く関係してくるのです。
ほぼ日 あー、リバウンド‥‥。
齋藤先生 みなさん、多くの場合が、
無理なダイエットをされているようです。
たとえば、なんとかヒルズダイエットですとか、
バナナダイエットですとか、
そういう食事制限‥‥
いや、食事制限をすること自体は、
ある程度は必要なことではあります。
「過度に」というのが危険なのです。
まずリバウンド現象についてご説明しましょう。
ほぼ日 はい。
齋藤先生 リバウンド現象とは、簡単に言えば、
体の中の筋肉が、そっくりそのまま
内臓脂肪に換わってしまうということです。
ほぼ日 入れ替わってしまう。
齋藤先生 はい。過激な食事制限をすることによって、
まず失われるのは筋肉と水分だということを
気に留めてください。
人間の体内は60%が水分で構成されています。
結果として見かけの体重は減ってきますが、
実はこれが盲点でしてね。
無理な食事制限によって、
筋肉がヤセてしまうんです。
ほぼ日 まずは筋肉が。
齋藤先生 たとえば今、体重が60kgだとします。
筋肉トレーニングを行わずに、
食事制限のみによって3カ月間で55kgに。
見かけの体重5kg減で大満足の女性。
しかし、3、4カ月後に体重を計ると60kg。
ダイエット開始前の体重に戻ってしまった。
「あれ? カロリー摂取量は
 ダイエット期間と変わらないなのに‥‥」
筋肉がそっくりそのまま内臓脂肪に置き換わり、
基礎代謝が低下したため、
逆に痩せにくい体質に変化してしまったのです。
ほぼ日 まるごと内臓脂肪に‥‥。
齋藤先生 過激な食事制限のみによるダイエットなら、
しない方が身体のためにはよかったわけです。
皮肉な結果ですね。
ほぼ日 はい。
齋藤先生 皮下脂肪というのは、
女性ホルモン(※エストロゲン)が関与して、
おなかをあたためるために作用しています。
それに対して、内臓脂肪は
悪いホルモンをたくさん分泌しているのです。
そのホルモンを総称して、
アディポ・サイトカインといいます。
脂肪細胞は、ホルモンを分泌する
内分泌臓器だということですね。
そもそも内臓脂肪は何のために
人類の進化の過程で必要だったのか‥‥。
ほぼ日 何のためでしょう。
齋藤先生 飢餓のためにです。
人類の歴史の中で戦争や飢えに耐えるために、
内臓脂肪として効率的にエネルギーは貯蔵され、
必要なときに脳や筋肉に供給されていたのです。
ほぼ日 脳も大きなエネルギーを?
齋藤先生 脳はエネルギー源として、
99%糖分(※グルコース)を必要とします。
アフリカのブッシュマンは、
飢餓に耐えるため必要なとき、
内臓脂肪を分解し、糖分にまで変換して、
脳にエネルギー供給をしているわけです。
それが先進国では、明らかな食べ過ぎと、
運動不足が原因で、内臓脂肪が過剰に蓄積し、
それが将来的にがんや高血圧の
元凶になるということが解明されたのです。
ほぼ日 それほどのエネルギーを、脳が。
齋藤先生 脳がいちばん消費が多いんです。
実は、私は囲碁が趣味でしてね。
囲碁の大会に出場する際には、
通常1日に4局対局するのですが、
3食およそ2,500キロカロリーくらい取っても、
私の場合1日で3〜4kg痩せるんです。
ほぼ日 そんなに‥‥脳が消費するんですか。
齋藤先生 ふだん仕事をしているときに使う脳と、
大会で緊迫した状況で囲碁をする時とでは、
エネルギー消費がぜんぜん違うんですね。
囲碁は、中盤の重要な局面に達したときには、
状況によっては数百手先を読むこともあります。
常に碁盤全体を視野に入れ、
たとえ劣勢な状況であっても、
冷静に戦況を把握することが大切です。
俯瞰像をとらえた戦略的思考を鍛えるには、
最高の趣味だと思います。
それだけ脳を使えば、内臓脂肪がどんどん
消費されていくのが体感できますよ(笑)。
ほぼ日 すごいですね、囲碁というのは。
齋藤先生 話を戻しましょう。
現代社会で、1日3食は明らかな食べ過ぎです。
食べ過ぎによって内臓脂肪が、
がんや高血圧の元凶になっているんだと。
内臓脂肪は消費されずに、
アディポ・サイトカインという、
炎症性ホルモンを分泌すると。
ほぼ日 それは怖いホルモンなのでしょうね。
齋藤先生 アディポ・サイトカインが血管を傷つけて、
高血圧やがんの元凶になるというメカニズムが
ここ数年で、解明されてきました。
これ、重要な話なんです。
エネルギーを貯蔵する器官が、
高血圧やガンといった
病気の元凶になってしまったと。
ほぼ日 男性のメタボリックなおなかというのは‥‥?
齋藤先生 まさにそのことです。
メタボとは、内臓脂肪症候群と訳します。
メタボリック・シンドロームの
定義はなんだと思いますか?
ほぼ日 おなかまわりが何センチ以上、とか‥‥。
齋藤先生 そういうイメージがありますよね。
ちなみに私が勤める
赤坂見附前田病院スルーライフクリニックでは、
腹部CTスキャンによって、
正確に内臓脂肪を測定し、
また採血検査によって
ホルモンバランスの乱れをチェックし、
サイエンティフィックに評価しています。
ですが、あくまで簡易的にですが、
おへその周りを計測して
内臓脂肪の量を推測することはできます。
男性ですと85センチ以上を
内臓脂肪症候群の診断基準としています。
女性ですと90センチ以上。
数値の差異は女性ホルモンの影響で
皮下脂肪が多いことを考慮してのことです。
これは今後診断基準が変わってくる可能性が
ありますのでご、その点はご了解ください。
ほぼ日 はい、ひとつの目安で。
齋藤先生 あくまでも目安です。
おへそ周りが85センチあっても、
内臓脂肪がなければメタボとは限りません。
要は、正確にCTスキャンしないと
評価はできないのです。
ほぼ日 できれば正確に知っておきたいことですね。
齋藤先生 そうですね、ご自身の体のことですから。
で、すみません、
このあたりは非常に重要になりますので、
整理の意味を込めて繰り返しますね。
ほぼ日 はい。
齋藤先生 リバウンド現象によって体の中で
何が起こるのかというお話でしたが、
まず失われるのは水分だと。
同時に筋肉も痩せていくと。
体重が戻っても筋肉は増えない。
基礎代謝って聞いたことありますか?
ほぼ日 ええ、それはあります。
齋藤先生 基礎代謝とは、じっとしているときでも、
体内でエネルギーを消費していることです。
その基礎代謝に
非常に深く関わっているのが、筋肉です。
筋肉量が落ちれば、基礎代謝が落ちます。
基礎代謝が落ちれば、
カロリーが消費されにくくなります。
消費されないカロリーは内臓脂肪に‥‥。
お金は貯蓄するほど良いことですが、
内臓脂肪の貯蓄はいけません。
高血圧やがんの元凶になる
悪玉のホルモンを分泌することになります。
同時に、熱生産器官である
筋肉が減っていますから、低体温になります。
低体温は、ガン細胞の活性化を高めます。
ほぼ日 負のスパイラルが起きてしまう、と。
齋藤先生 そういうことです。
ほぼ日 内臓脂肪は、どうすれば
増えないようにすることができるのでしょう。
齋藤先生 運動はもちろんですが、
いちばん大事なのは、寝る前の少なくとも
4時間は食事をとらず、空腹で寝ることです。
私はこれを「4時間ルール」と呼んでいます。
個人差はありますけが、
少なくとも空腹で就寝した場合は
内臓脂肪が分解されるほうに体が働きます。
ところがいくらダイエットをしていても、
寝る前に食事をしてしまうと、
内臓脂肪が合成される方向に働くのです。
ほぼ日 なるほど、「4時間ルール」、
とてもよくわかりました。
その上で、先生のご提案される、
健康のために最も効果的な方法が
「筋肉を鍛えること」なんですね。
齋藤先生 そうです。
体温をあげるためにも、メタボ対策にも、
女性のダイエットも、
すべてに関わってくるのが、
筋肉を増やすということです。
とにかく、筋肉を鍛えてください。
筋肉を鍛えることは、
これらすべてにプラスに働きます。
筋肉が働くことによって
基礎代謝があがってきます。
基礎代謝があがれば、運動しなくても
内臓脂肪をエネルギーとして分解してくれます。
病気の元凶である
内臓脂肪を分解して減らしてくれるわけです。
ほぼ日 今度は逆に、良いスパイラルが。
齋藤先生 そうです。
筋肉は人体最大の熱生産器官ですから、
筋肉を鍛えることによって、
体温があがる方向に働く。
体温があがってくると免疫力があがりますから、
自分自身のガン細胞を監視する能力も
上がってきますし、
外からのウイルス感染に対しても強くなる。
抵抗性が出てくる。
風邪をひきにくいし、ひいても治りやすい。
そういう丈夫な体作りのためにも、
筋肉を鍛えることは重要なんです。
ほぼ日 ですが女性の場合、
筋肉隆々になるのを嫌がる女性も多そうですね。
齋藤先生 たしかに、筋肉を鍛えることに
抵抗感がある女性もいらっしゃいます。
そこで私の本の中では、
姿勢保持筋肉、つまり正しい姿勢を
保つための大きな筋肉を鍛えましょう
という説明をしています。
ほぼ日 正しい姿勢ならば、抵抗はなさそうですね。
齋藤先生 筋肉の鍛え方によっては、
美しいプロポーションに役立つのです。
たとえば、大胸筋を鍛えると、
バストアップに繋がります。
正しい姿勢は、
きれいなシルエットラインを作ります。
くびれたウエストもそうですね。
おなかの筋肉や、背筋、お尻や太股。
こうした大きな筋肉を鍛えることで、
美しいスタイルを維持することができます。
ですから、マッチョになるような鍛え方だけが、
筋トレと考えないようにしていただきたいです。
ハリウッドスターの女優たちも、
ベンチプレスやスクワットをやっています。
美しいスタイルをキープするために、
筋肉が大事なことを知っているんですね。
ほぼ日 筋肉を鍛えることは、
美しくなることでもあるのですね。
よくわかりました。
齋藤先生 ただこれは生理学ですので、男女関わらず、
みなさんの知識として共有して、
自己管理に役立てていただければと思います。
一日一汗、実行してください。

(つづきます)


2009-06-30-TUE