DOCTOR
Medic須田の
「できるかぎり答える
医事相談室」

「痛みについて」その1



Q、Medic須田さん、
「痛み」って数値に出来ないんですか?
出来なそうだと思っているんですが、
医者の考え方だとどうなのでしょうか。
もし、数値に置きかえられるのなら、
とっても便利で嬉しいんですが。
主観的なものでしかないと、
「今の痛みは我慢しとこかどしよか」とか、
「医者に行ったほうがいいんだろか」とか、
悩まなくていいじゃないですか。
それに痛みが主観的にしか判断できないと、
私の場合自信がないんです.....(中略)
Medic須田さん、お願いします。
ババーン、と答えて下さい。
37度を越したらちょっと用心風邪薬、
38度越したら解熱剤、
みたいに計れないものなのでしょうか。

(ななしみちこ)

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こんにちは、Medic須田です。

そろそろ僕も来年の国家試験を目指して
受験勉強をしなくてはなりません。
「大変なのねぇ。大学入ってからも
 勉強しなくちゃならないなんて」
なんて、近所のうどん屋のおばちゃんは
同情してくれるのですが、でも、僕、
けっこう好きなんですよ、受験勉強とか、資格試験って。

熱心な読者の方ならご存じでしょうが、僕って、
大学を一度卒業してから医学部に入ったのですが、
前の大学では卒論を書きながら受験勉強をしてたんですよ。
でもね、周りがいうほど苦痛でもなくて、かえって
「大変なのねぇ」
なんて言われると、単なる穀潰しの身分としては
申し訳なくなっちゃうわけですよ。

人によっては苦痛に感じられることでも、
ある人にとってはそれほど苦痛ではないことって
あるんですよね.......

で、今回の質問は「痛み」なんです。
(おお! 珍しく流れるような前振りだ(笑))

というわけで、色々と能書きをたれようかと思ったのですが、
実は、この件についてはすでに学会で解決済みなのです。
以下、「痛みの国際単位」に関する記事を引用いたします。
ちょっと長いのですが、面白いのでぜひ全文読んで下さい。


・・・・・・・・・・・・・・・
(ジュネーブ発 西山 章宏) 
スイスの保養地、ダヴォス・プラッツで
11月10日から11月14日まで行われた、
世界知覚認識学会(ミシェル・ポーター会長)で、
北海道大学医学部の斉藤信(まこと)教授が提唱した、
痛みを表す「hanage」と言う単位を、
世界で共通の単位とする事が承認された。
本来、痛みは、個人差が大きく、
同じ刺激でも主観によって感じ方が異なるため、
客観的に数値で表すことは、不可能であると思われていた。

しかし、斉藤教授は、
「鼻の粘膜は、人体の中で一番個人差が小さい」事に
注目し研究を進めた結果、1本の鼻毛を、
1N(ニュートン)の力で引っ張る時に生じる痛みを、
1hanageと定義出来ることを発見し、
そして今学会で単位として承認された。

斉藤教授によると、
足の小指を角にぶつけたときの痛みは、
2〜3Khanage(キロハナゲ)。
お産の時の痛み2.5〜3.2Mhanage(メガハナゲ)
になるのだそうだ。

「痛みを数値で表すことにより、正確な治療に役立つ。」(斉藤教授)
そうで、今回の発見は、大変画期的だそうだ。
「日本人の提唱する単位が、世界で認められるのは、
 非常に珍しい。」(京都大学 横田昌平教授)そうで、
日本発の「グローバル・スタンダード」は、驚きをもって迎えられている。



(「痛みの基準は鼻毛」ジュネーブ発 上山元)
日本や欧米各国の政府は、来年から痛みの統一単位、
「ハナゲ」を採用することを決めた。

ニュートン、ヘクトパスカルに続く新単位の登場で、
医療機器や薬品のメーカーは対応に追われている。
国際標準化機構(ISO)によれば、1ハナゲの定義は
「長さ1センチの鼻毛を鉛直方向に1ニュートンの力で
 引っ張り、抜いたときに感じる痛み」。

大気汚染と鼻毛の成長速度の相関性について研究していた
永井花外・室蘭市立医科大学助教授が、二年前、
鼻毛を鉛直方向に抜いたときの痛みに
性別差や個人差が全くないことを偶然発見したため、
この基準が採用された。

これまで、痛みについてはその程度を示す
明確な数値がなかったため、
「子供を産んだときはすごく痛かったわ」
「痔の手術のあとの抜糸は痛いなんてもんじゃなかった」
「ムチがいいか、ロウソクがいいかと問われれば、
 私は迷わずにムチを選ぶ」
といった論争が起こっていた。
「ハナゲ」の採用で、これらの無意味な論争にも
決着がつくとみられる。
中学生、高校生の間では番長選出制度の透明化への
期待が高まっている。

永井助教授によれば、
麻酔なしで虫歯を抜いたときの痛みは500ハナゲ、
タンスの角に足の小指をぶつけたときの痛みは2キロハナゲ、
分娩の痛みは2〜3メガハナゲ程度だという
(安産型骨盤の場合)。
 
なお、日本政府では恥ずかしさの単位として、
見知らぬ人の面前でお稲荷さんがぽろっと
露出してしまったときの恥ずかしさ、
「イナリ」を採用することも検討している。

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あ、怒った? (笑)

ご存じの人もいたかもしれませんが、ホントは、これ、
ちょっと前にネット上でけっこう流布していた与太話です。
でも、こんな風にスパッと痛みの単位が測れたら
面白いですよね。

例えば、プロレスラーが全て「痛み測定器」を付けて
リングに上がる。

「おーっと! 小川のV1アームロックが決まったぁ!
 橋本こらえるが、これは痛い。ギブアップか?
 .....あ、いや、でも、300hanageですか? 
 そんなに痛くありませんねぇ。
 これでギブアップしてはファンに申し訳ありませんねぇ」

なんて..... プロレスラーの皆さんに
怒られてしまうなぁ、こんなの。


さて、そろそろ本題に移るとしましょう。
確かに「痛み」の単位というものはありません。
ただし、「痛み」という基本的な症状については、
お医者さんは当然注意を払います。

診察診断学の教科書を繙けば、「痛みの問診」というと、

・どこが痛むのか
・どのくらい痛いのか
・それがいつから生じたものか
・突然生じたものか、ジワジワと痛くなってきたのか
・どのようにすると痛みが増すか、
 どのようにすると軽くなるか
・随伴する他の症状はないか
・今までかかった病気で関連しそうなものはないか

などを調べるように書かれています。
比較的よくある疾患や、重大な疾患の場合には
これだけで大方見当が付く場合があります。

例えば、狭心症という、心臓の血管が細くなって、
心臓の筋肉に十分な酸素が行き渡らなくなる
病気がありますが、これによって生じる胸痛は、

・前胸部全体に広がり、肩や首にも放散するので、
 「ここが痛い」と指で指し示すのは難しい
・運動中や後に発症することが多い
・突然に発症し、長くとも15分程度で収まる
・ニトログリセリンをなめると収まる
・多くの場合、以前にも似たような痛みを
 経験したことがある
・高脂血症、高コレステロール血症、高血圧などが危険因子

などの特徴があります。

こんなことを問診で尋ねている間に、
お医者さんはその人の状態を推測して、
当たりをつけてから身体所見を取るために心音や呼吸音を
聴診器で確かめたり、お腹を触ってみたりするんですよね。
で、どんな検査をオーダーしたらいいかを考えるというわけ。

この中で「痛み」というのが果たす役割ってのは
大きいんですよ。

でもね、僕は「痛みが定量化できる」ってことに対して、
あまり魅力を感じないんですねぇ。

「何で何で? 数字で測れたら便利そうじゃない?」

と、皆さんも意外に思われるかもしれませんが、
何となくそう感じるんですよ..........。


今回は、前振りと与太話が長すぎて、予定以上の分量に
なってしまいました。申し訳ない。

次回は
「なぜ僕が“痛みの測定”に魅力を感じないか」
を書いてみたいと思います。

それじゃ、また。

1999-09-05-SUN


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