糸井 ぼくはいちいち
「ただしいこと」が
好きなわけでもなんでもないんですが、
納得してやったはずの仕事が
「じつはそれじゃありませんでした!」
とよくわからない人に
ひっくりかえされたら、
かなわんじゃないですか。

あるいは、
自分も周囲も含めて
競走馬みたいに走らされている……
「誰がいちばんなんだろうねぇ」
という視線ばかりになると、
ほんとうに先が見えなくなりますよね。

可士和くんの場合でいえば、
町をメディアにするだとか、
環境の中にアイコンを放りこむとか、
大きなコンセプチュアルアートが
しばらくおもしろいという時期ですよね。

そしてさらに幼稚園のこととかをとおして、
他のおもしろさにも気づいている……
するとデザイナーのやることが
どんどんふくらんでいくわけです。

だけどそういうことが重なって
「うわぁ! またおなじことを頼まれた」
となったら、
「それはもういいんです。
 自分はこれがやりたいんです」
とはっきりさせておかないと、
断ることもできなくなっちゃうんですよ。


つまり結局のところは、
ヘタでもいいから
自分でやる場所を
作ろうと思うようになる……
今度は幼稚園の園長さん役を
するようになるいう状況ですよね。

だからぼくは
自分がスポンサーじゃない仕事って、
今、一割もないんです。

ただ、その場合、
誰か他人がスポンサーだった時のほうが、
水準の高いものを作るだろうな、
ということはあるかもしれません。
つまり、
今できるものしかできないですから。

たぶんデザイナーの人の方が
不自由だと思うのは、
やっぱり最初から
いいものを出したいですよね?

ただ、ぼくの場合は、
俺ができるのはここまでだとか、
まだデザインはこんなもんだとか、
お金がないところはベニヤ板ですとか、
新人ぶってごまかせますからね。
佐藤 きっと、ぼくはデザイナーだから
縛られていることとか、
あるでしょうからね。
糸井 でも、きっと、変わりますよ。

宮藤官九郎さんが
映画を撮っていますよね。

彼も人のために
脚本を作っている時には
プロに徹して脚本を
作りこめるでしょうし、
自分が監督をした時には
脚本の完成度は低くなるかもしれません。

それでも
自分で監督をしたもののほうが
次のなにかが見えるんじゃないかなぁ、
と思うんです。

男の子の夢って
いつも最後に「都市計画」に
向かうかもしれなくて……
たとえば、
森ビルの気持ちを
味わってみたいというか。
佐藤 (笑)味わってみたいです。

糸井 可士和くんの作った
幼稚園の隣に
老人の集まる場所を作りたいなぁとか、
話はつながりますもんね。
つまり、人の住んでいる姿のすべてを
デザインしたくなるんですよね。

実際に
みんなのよろこぶ計画なら
お金は集まりますから、
ガマンして中途半端なことをやるより、
いちばんやりたいことを探すほうが、
後の自分のためには
いいんじゃないかなぁ。
佐藤 ぼくのやっていることは、結局、
コミュニケーションだと思います。

人はひとりではないから
かならず誰かと関係しますよね。
その関係をコントロールすると考えれば
なんでもできるかなぁと。


ぼくはアーティストに
憧れたところがありましたが、
今はどちらかといえば、
自分の絵を飾るだけでは
つまらないというか、
投げたら反応がほしいというか……
やりたいことは
自分でもよくわかりません。

デザインがやりたいんだか、
コミュニケーションがやりたいんだか。
もしかしたら、
ただ驚きたいだけなのかもしれませんし。
糸井 子供って
「おかあさんごっこしてるんだ」
とか、デタラメなことをいいますよね。

ごっこというだけで
遊びになるように、
可士和くんの目的も
「プレイ」自体なんだろうね。
佐藤 きっと、そうなんでしょう。
糸井 いま、幼稚園のほうは
どこまで進んでいますか?
佐藤 かなり現実的な段階にきています。
考えかたのモデルから、
ぼくが作りました。
糸井 おもしろいなぁ。
佐藤 巨大な遊具という
コンセプトなんです。

園舎がいちばんの
娯楽になるといいなと思いまして、
屋根にのぼれて、
それがすべてホンモノの木なんです。
『ゲゲゲの鬼太郎』
の家のばかでかいやつ?

糸井 うわぁ……思っていたより、
ずっといいね!
佐藤 いま手がけている幼稚園は、
予算とか、建築基準とか、
ぜんぶ考えながらやっているんです。

園児が何人だから何部屋必要だとか、
職員室はこうでとか……。
糸井 そうとう、広いですよね。
佐藤 でかいです。
六〇〇坪くらいあるんですよ。
園児が五〇〇人くらい。
糸井 そんな幼稚園はありえるんだ?
佐藤 ちょっと郊外ですからね。
今は現実的な設計を
かためているところですから、
そこでいろいろな条件を
満たすことができたら、
ついにゴーになるんです。
糸井 二年後くらいでしたっけ?
佐藤 そうですね。

工事だけなら
すぐにできますけど、
運営しながらやるからむずかしいんです。
仮設幼稚園をどこに作ろうか……
また仮設というのが何千万もするんです。

お金はカツカツでやっているのに、
そこで何千万を使うのは
もったいないからといって、
もしかしたら飛行機の格納庫とか
つぶれた自動車工場とかを
借りれないかなと話しています。

飛行機幼稚園とかいうことになれば
「もとのところに戻りたくない!」
とみんなが言うんじゃないかなぁとか。

お金がないわけではないから、
がんばればできそうな話なんです。
そこがおもしろいし
悩ましいところなんですね。
無尽蔵にお金があれば
かんたんに解決できますけど、
それは知恵を使わないというか……
わくわくしないんです。
糸井 物語にならないですよね。
佐藤 ならないです。
湯水のようにお金を使った料理って、
材料もほとんど捨てちゃったりするけど、
そういうのって、
もったいないじゃないですか。

カツカツのなかで
「なににいちばん
 金をかけようかなぁ」と
おいしいカレーをつくろうと
思っているようなところが
おもしろいんですけどね。


(明日に、つづきます)
2005-04-25-MON
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