糸井 ただ、
「そもそもなんだっけ」
という話を
永遠にしていたい人たちも
世の中にはいますよね。

答えを出さないまま話をしていても、
たのしいことはたのしいんですけど……

根源的なことを考えるたのしさから
抜け出るというか、
雪の降る露天風呂から
急に出なくちゃいけないみたいな、
具体化する決意みたいなのは、
可士和くんはどこにあるんですか?
佐藤 わりとせっかちなんで、
具現化のほうが好きなんです。
概念の話も好きですが、
はやく見えるかたちで
バーチャルからリアルにいきたいんです。

コンセプトが見えたら
もうそれを確認するだけなんです。
そこには、
優秀なパートナーがいないと
できませんけれど。
糸井 そうか、
キャッチボールじゃなきゃ
ダメなんだね。
ひとりでやるのはイヤなんだ?
佐藤 幼稚園は園長先生とやっているんです。
つまりクライアントと直にやっています。
糸井 そのキャッチボールができるためには、
その園長先生が、
幼稚園というものについて
佐藤可士和ぐらい
考えていないとダメですね。
佐藤 はい。

仕事をする前に、会って、
そういう話ができるかどうかを
すごく探ります。


糸井 つまり仕事相手は、
「人」なんだね。
佐藤 はい。
たとえば、今、
幼稚園を一緒にやっている
園長先生はおもしろいんです。

そもそも
なぜぼくに頼んだかというと、
まずは園舎が
物理的に古くなっちゃって、
とにかく建てなおさなくちゃ
ならなかったんですね。

築三〇年くらいで
カビが生えたり
雨漏りしたりしている……

彼はお父さんから継いだ
四五歳ぐらいの二代目の園長で、
建築家や設計会社にも頼んだけれども、
どんな幼稚園にするか、
夢を語っているのに、いきなり
現実的な話をされてしまったりして。

いろいろ意見やビジョンが合わなくて、
何回も打ちあわせをやって
断っちゃったりしたそうです。
そこで幼稚園界の電通が
「おもしろいのがいます」
とぼくを紹介したという。
糸井 「Smap」のあの色を見て、
ディック・ブルーナを想像できる
幼稚園長がいれば、
そこは一発でつながりますよね。
佐藤 糸井さんのおっしゃるとおり、
ぼくはブルーナが大好きです。
ものごころがつくころから
影響を受けていて、
たまたま仕事もできたんですが、
あれはうれしかったなぁ。

ロゴは作りましたが、
尊敬していたから
そのままを出せばいいと思いましたが、
ブルーナ・ジャパンに
ほめていただいた広告だそうです。
ブルーナのことを
わかっている人が作ったって。
糸井 ブルーナを
ちいさいころから
知っているというのは、
東京の子供だからですか?
佐藤 親父が芸大の建築を出てる建築家で、
わりと家のなかが
美術っぽい感じになっていました。
よく覚えているんですが、
ブルーナの本を見て父がいうんです。

「赤がちがう。
 これはヨーロッパの赤だ。
 ヨーロッパの赤には、
 赤のなかにちゃんと青が入っている。
 一滴、青が入ってるような色で、
 そういうことがすごく深いんだ」


そう言われて育ちました。
じゅうたんを見ても
「これはひねれてるいい色だ」とか。

糸井 価値体系を、
お父さんからもらっていたんだね。
佐藤 ぼくには弟と妹がいて、
親父はたぶん
同じように言ってたと思うんですが、
ぼくにたまたま響いたんでしょうね。
糸井 色を話せる家庭って、
そんなにないと思います。
ブルーナの絵本は
ウサギの話になったりするでしょうから。

そこで「この色は……」という話題は
そうとう高度ですよ。
佐藤 ディック・ブルーナは
ぼくのグラフィックデザインの
原体験でもあるんです。

たくさん絵本を見てたけど、
あれだけがちがうんです。

デザイン化されて、
片方がまっしろで、
絵本のサイズは正方形だし、
線がビビっているし、
タイポグラフィーがあって……

子供だから言葉で説明できなかったけど、
あれだけがちがっていて
「すごい!」と思っていました。
糸井 そういう話は、きかなくても
可士和くんの仕事のなかに入っていますね。

このあいだ広告賞の審査で会って
「幼稚園をやるんです」ときいたときに
「佐藤可士和はディック・ブルーナになるのか」
と思いましたから。
なにも教育しなくても
そこで教育になっちゃう場所というか……。
佐藤 なんにもしてないし、
「建物があるだけなんだけど、
 それが最高の情操教育」
というのはいいですよね。

環境の与える力はすごくて、
ここ(明るいビル)に来て
すごくいいなぁと思ったのは、
ここで話している雰囲気が、
いわゆる「会社」の会議室とはちがうから、
そういうことで
気分も変わっちゃうといいますか……。

人は地球というハコも含めて
どこかのハコのなかにいるわけだから、
そこから影響を受けないわけがないですよね。

だから環境や状況を作ると、
いろいろなことが、
ずいぶん変わるんだろうなぁと思っています。

(明日に、つづきます)
2005-04-21-THU
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