身近な医者の底力シリーズ かかりつけ医だから できること。

松村 それから、高齢になってくると、
もう病気としては治らないこともあります。
それは老化の過程であって。
そうすると、今度はどうやって、
その人の暮らしを保っていくかが
いちばん大事です。
ご本人もそうだし、ご家族にとってもそう。

病気が治らないにしても、
少しでも楽しく過ごせるように、
サポートできることはいっぱいあります。
それは、つらい、難しい病気であっても
同じだと思いますけどね。
本田 そうですね。
この病気とともに生きていこうという決意をもって、
その上で、健やかな生活を楽しめるような。
そんなかたがたへのお手伝いを、
わたしたちはやっていきたいなと思っています。
松村 うちの患者さんでも、
大きな病院で専門の先生にかかっていて、
専門的な検査はそちらの病院でやっているけど、
注射とか日常的なケアなどは
ここでやってるという人もけっこういますよ。
向こうの先生と連携を取りながら、ですね。
本田 じゃあ、先生とあちらの先生と、
手紙のやり取りをしたり?
松村 そうですね、手紙でやりとりしたり、行ったり。
実際、東京医療センターだったりすると、
診療を診に行ったりすることもありますしね。
本田 今もあそこに行っていらっしゃるんですか?
松村 ええ、たまに。
本田 そうなんですか。

あの、わたしが研修医をはじめた病院が
当時の「国立東京第二病院」、
今の東京医療センターなんです。
松村先生はそこでの先輩です。
ほぼ日 なるほど、はい。
綿貫 入院された患者さんを診に行くという、
そういうスタイルっていうのは
ちょっと珍しいと思うんですけど、
先生は自然とやっておられますよね。
松村 珍しくはないんじゃないかな。
綿貫 そうなんでしょうか。
松村 自分が診た患者さんのその後の様子は
気になるでしょう、やっぱり。
綿貫 気になります。
松村 入院してどうなったかなというのは気になるし、
町なかでご家族にも会ったりしますからね。
本田 それで、ご家族がその後の経過を
教えてくださったり?
松村 こちらから訊いたりします。
綿貫 なるほどー。
本田 大きな病院にいると、
そんな機会はほとんどないので、
それはすごくおもしろいですよね。
綿貫 いや、ほんとに。
本田 綿貫先生は、ふだん内科のお医者さんとして
都立府中病院にお勤めなわけですが、
そういう大きな総合病院で働く先生が、
松村先生のお仕事をごらんになって、
どのような感想をおもちですか?
綿貫 それはもう、いろいろあるんですけど、
なにより、大きな病院だと、
患者さんの生活って見えないんです。

「何とかの病気」ってことがまず先にきて、
何とかの疾患の人、たとえばこの患者さんは、
「肺がんの50歳の男性で、
 どういう健康上の問題があって、
 今回の入院の目標はここまでです」とか。
そんなふうに
医学的な、疾患のことが先行していくんです。
本田 ええ、そうですね。
綿貫 それがここでは、
さっき松村先生もおっしゃった通りで、
「この人は八百屋で働いてるAさんで、
 この病気で生活がちょっと
 うまくいってない部分があって、
 どうにかしてそれを元に戻したい」
というふうに、目標も違うし、
その人の捉えかたもまったく違う。
そのあたりがものすごく違うんです。
本田 ええ、ええ。
綿貫 ぼくも将来的には
こういう医療にかかわりたいと思っていて、
ただそれにはやっぱり、
ひとつひとつの疾患が診れないとだめなので、
今の病院で経験を積んでるわけですけれども、
いずれはこういう、人を診る、
その人の生活が見えるような、
家族を捉えるような医療に携わりたいと思って、
こちらで実習させてもらっているんです。
本田 そうですね。
急性期の病院にいると、その急性期の、
入院することになった原因がうまく収束すれば、
医者の役目はそこでおしまい。
綿貫 終わりです。
本田 でも患者さんには、その先に生活があって、
かかりつけのお医者さんは、
それにずっと伴走していくわけですね。
松村 そう、伴走していくということは、
つまり、継続性があるということなんですよね。

ぼくらは、ひとりの人、ひとつの家族を
ずっと診つづけていくことになるんです。

その人を診つづけるということは、たとえば、
このとき肺炎になった、この時期に骨を折った、
このときは仕事が忙しくてちょっと落ち込んでいた、
このときは家族に大きな出来事があった、
そういうことのすべてに、
ぼくらはずっとかかわるわけです。

治療そのものは、自分でやることもあるし、
専門の病院にまかせることもあるけど、
だとしてもそこで終わりになるわけではなくて、
ずっといっしょにサポートをしていく。
さっき言った、伴走者のような役割ですよね。

この「継続して診る」ということが、
かかりつけ医としてのキーの仕事なんです。
本田 継続性、ほんとにそうですね。
松村 もちろん、そのためには
きちんとした診断能力がなきゃいけないし、
それを常にアップデートしていかなきゃならない。
だって、何十年も前の治療法をずっと続けてもね、
それこそ、コンピュータもなかったような時代の
治療をしていたら患者さんも困りますから。
それを最新のものにキープしつづけるのは、
なかなかむずかしいことではあるけど、
そう努力していくことは必要なんですよ。
本田 開業医として地域で働く先生たちは、
地域ごとに医師会を作ってらっしゃいますけど、
その医師会でも定期的に勉強会をされてますよね。
わたしも時々呼んでいただいて、
HIVについてのお話をすることがあります。
松村 医療に限りませんけど、ある程度までいくと、
人工衛星と同じで、エンジンをかけなくても
ぐるぐるぐるぐる回っているんですよね。
ただ、そのまま回りつづけると
太陽電池の寿命が切れてしまうので、
定期的に太陽電池をチェックしないといけない。

もちろん、衛星はいきなり飛ばそうとしても無理で、
最初の人工衛星を飛ばすまでには、
1段目、2段目、3段目って
ロケットの段階をふまないといけないし。
そうやって、うまく回っているような先生たちは、
次はそれを錆びつかせないように
それなりにずっと努力を続けているんですよ。
ほぼ日 あの、今ずっとお話をうかがいながら、
思い出していたんですが、
そういえば子どものころって、たぶんみんな、
かかりつけの病院があって、
先生のようなお医者さんに
お世話になっていたんですよね。

(つづきます)



2010-04-08-THU