ITOI
ダーリンコラム

<イカルスの蜻蛉>

こどもの頃には、悪いこともするもので、
カエルの尻の穴から空気を吹き込んで、
フーセンのようにふくらませて爆発させるなんてことを、
平気でやっていた。
こどもの頃ばかりじゃなく、
大人になってからも、ちょっと内緒にしておきたいような
バカなことも実はけっこうやっていて、
そういう過去を知っている人がいると思うだけで
赤面しそうだ。
とにかくなんだかゴメンナサイだ。

しかし、こども時代であろうが、青春時代であろうが、
すっかり大人になってからだろうが、
ろくでもないことをやった「借金」は、
あとで成熟してから利子をつけて
返済しなきゃならないものだから、
世の中、うまくできてるものだ。

なんてことを、たまに、おじさんどうしで
語り合ってしみじみしたりしてます。
みんな「借金」が多いタイプの方々で、ねぇ。
タイムマシンがあったら、若いときの自分に
説教をしに行きたいものだね。

ま、それはそれとして。

中学の1年生の時に考えたろくでもないことがあってさ。
偶然に発見したんだけれど、スゴイんだ。
秋になるとトンボが、いっぱい飛ぶでしょう。
都会の学校は知らないけれど。
いまでも、いっぱいいるよね、トンボ。
ぴっぴぴぴーって。
その赤トンボを捕まえて、しっぽの部分を半分くらい
指でちぎりとっちゃうんだ。
(悪いことですよ、もちろん)
で、そこのちぎった部分に、そこらへんにある
細い小枝とか、松葉とかを、差し込むわけだ。
(ろくでもないことですよ、もちろん)
この差し込む小枝の重さが微妙に大事なんだけど、
ま、いわばサイボーグ化したトンボを、そのまま放すと、
解放されたトンボは、懸命に羽ばたいて飛ぼうとする。

羽ばたけば羽ばたくほど、そのトンボは、
上へ上へとのぼっていくしかないんだ。
ボディ全体の重さのバランスを壊しているので、
思った方向に飛べないわけだよ。
(ひどいことしてます、もちろん)
差し込まれた小枝が重すぎると、全体の重量オーバーで
引力にしたがって下がってしまうのだけれど、
ちょうどいい重さの重りをつけられたトンボは、
どんどんどんどん、空高く飛んでいってしまうんだ。

ひどく残酷なことをしているなぁと思ったのは、
トンボのしっぽをちぎっている時でも、
ちぎった部分に小枝を差し込んでいる時でもなかった、
飛べば飛ぶほど上昇していくトンボの姿を見て
うっとりしている時だった。
でも、たしかに、うっとりするんだよ、それを見ると。

力を出せば出すほど、地上から離れて、
高いところ、戻ってこられないところに向かってしまう。
そういうトンボを、なにかの寓話のように語りたかった、
というわけでもないんだ。
でも、誰でもちょっと思うだろうと思う。
「高い空をめざすことしかできないトンボ」は、
うれしいのか、切ないのかって。

こういう悪戯をしたぼくは、当然のことのように、
その悪いことの分も「借金」に上乗せされて、
返却を迫られているのだと思います。

この話、秋にいちど書きかけたんだけど、
トンボのいる季節だと、みんながついマネしたくなるから、
寒くなってから、あらためて書くことにしたんです。

2001-12-10-MON

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