ITOI
ダーリンコラム

<若さとバカさと春が>

もう何年くらい前になるんだろう?
ぼくは、オリンピックのテレビ中継に夢中になっていて、
娘と興奮しながら話していた。
「この次のオリンピックってさ、アトランタじゃん」
「うん。アトランタだよ」
「現場でオリンピック見たくない?」
「見たい」
「学校休んでオリンピック見に行くって、どうよ?」
「うん。いい!」
というようなバカ親子な会話をしていたわけだ。

娘は、学校に行って、それを友達に言った。
「あたしさぁ、次のオリンピック行くみたい!」
バカにはバカなともだちがいる。
「オリンピック、行くみたい!」に、過激に反応した。
「えっ?!ほんとに?!
なにで???!!!」

ふつうの読者は、これを聞いて、
アメリカだから飛行機に決まってるじゃん、バカだなぁ、と
思うことでありましょう。
ちがう!それは、ふつうのバカな話。
このおともだちの言う「なにで???!!!」は、
水泳なのか、砲丸投げなのか、体操なのかというような、
出場種目の「なに」だったのである。

思えば、そのバカたちの親である自分も、
どうやったらビートルズになれるかについて、
『明日のために その1』みたいなことを考えていた。
それは16〜17歳くらいのころだったから、
3年くらいでなんとかしなきゃと思っていた。
ビートルズは、もうジョンで24歳だったので、
それより若く世界を制覇するほうがいいと思いました。
第一歩はギターを手に入れるために
バイトをすることからのスタートでしたけどね。

若いって、バカで、かわいいなぁと思う。
無根拠で甘ったれで、根性なしで、
どうしょうもないんだけれど、
やっぱり、なんかしらの大事な宝物を持っている。

もう亡くなった劇画の上村一夫さんが、
酔っぱらいながら、ぼくに言ったことを、
いまでもいくつか憶えている。
「今日ね、家の近所の坂道で、
娘とすれちがったんですよ。
もう、ふだん会うことが少ないから、
目が合っても無視されちゃったりしたんですけどね」
「あはは」
「こう、ね、自転車で坂道を降りてくるんです。
ぼくが、二日酔いでふらふら坂を登っていくのと、
すれちがったんですけどね。
ああいう若い人っていうのは、おもしろいんですよね、
下り坂でも自転車のペダルを漕いでいるんですよ」
「あ、ああ。青春ですねぇ」
「青春は、下り坂でもペダルを漕ぐんですねぇ」

って、そんな話。
今週は、こんなところで。

そういえばさぁ、同い年のともだちが、
ケイタイのメールで、こんなこと書いていた。
『それにしても春で、
あと10回か、20回ほどかな?
なんていう歳になりもーした』
ついでのセリフだったけれど、
ここまでくると、かえって
下り坂でペダルを踏むようなことがあるのかもねぇ。

2001-03-19-MON

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