ITOI
ダーリンコラム

<掘れる話>

いま、インパクの「イトイ式マトリックス」という企画で、
毎日横尾忠則さんと電話で話をしている。
なにせ、携帯電話を持ったことなんかないというお方だし、
機械のことなんか一切、もともと、
憶える気のない芸術家だから、電話が通じない日もある。
電話の、おたがいの声を全部まるごと流しているので、
聞きたい方は、
http://www.nhk-jn.com/inpaku/yokoito/
に、行ってみてください。

で、数日間、電話で横尾さんと話していて、
あらためて思ったんだけど、
話が、いくらでも「掘れる」んだよね。
横尾さんは、
特におしゃべりを仕事にしているわけでもないし、
おもしろいことを話そうと準備しているわけでもなくて、
ただ、自然に会話しているだけなんだけれど、
話がどこに転がっていっても、
キャッチボールが続くんだよなぁ。

ぼくは、いままでに、
何百人の人とインタビューしてきたんだろうけど、
話の「掘れる」人と、掘れない人とがいたと思うんだよね。
掘れるってのは、つまり、どういうことなんだろう、
情報のギブ&テイクができるっていうようなことかなぁ。
おたがいに、詳しい知識をやりとりするってことじゃない。
興味をキャッチボールするってことなのかなぁ。
ま、わざわざ自分が対談したり
インタビューしたりするという場面では、
あんまり「こりゃ無理だ」って人はいないんですけれどね。
ま、たまにはいますよ。
どう言ったらいいんだろうね、話が終わっちゃうの、すぐ。

「動物では何が好きですか」みたいな
当たり障りのない質問があってもさ。
「犬、かなぁ」では、いったん終わっちゃうじゃない。
次に「犬っていっても、いろんな種類がありますよね」
と続けていって、
「でかい犬が好きですね」で、これまた終わり。
仕方がないから、
「でかい犬飼っていたんですか」と
また質問するっきゃないですよね。
「いえ、ないです」と来たら、もう、完全に終わりね。

ところが、掘れる話のできる人っていうのは、
最初の「動物では何が好きですか」くらいの質問でも、
「犬は好きですね、犬って言っても、でかいのかなぁ」と、
もう、質問をふくらませて返球するでしょ。
そうすると、「グレートデンとか?」っと、
まさかというようなでかすぎるくらいの犬種を出せる。
「いやいや、グレートデンは無理ですよ、
大きいって言っても、ボクサーくらいの・・・」と続く。
「ボクサー、飼ってた?」とジャブを入れるだけで、
「いえ、飼いたいんですけどねぇ。家がねぇ。
いま、マンション暮らしでしょ」
「マンションで飼ってる人っていますよね、
どうやってごまかしてるんだろ」
・・・・なんて具合に、続くわけですよ。

このちがいっていうのは、相手を嫌いであるとか、
警戒心を持っているとかにも多いに関係するんだけど、
基本的には、その人の「理解しよう・されよう」という
欲望の大きさにも関わると思うのだ。
おしゃべり好きであるかどうか、ということは関係ない。
先日、テイ・トウワさんと長いこと話したけれど、
テイさん、たぶん無口に近いくらいの人だと思う。
でも、話はどんどん掘れて行くんだよなぁ。
噂でしか知らないけれど、
高倉健さんだって、決して黙っている人じゃないって。
いちど、スマップの番組に出演した健さん、
上手に話を掘っていたもんなぁ。

横尾さんとの電話、まだまだ続きますから、
ごくごく自然にゆるい球投げ合うキャッチボールを、
おたのしみください。

2001-01-22-MON

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