ITOI
ダーリンコラム

<オチはローリングストーンズです。>

犬にボールを投げてやると、
そいつを走って追いかけて、
くわえてもどってくる。

うちの犬には猟犬の血があるので、
そのゲームが特別に好きなのかもしれない。
なにかというと、ボールを
協力してくれそうな人の目の前に
ぽとりと落としては、
投げてくれるのを待っている。
とってきたときの誇らしげな態度といい、
追いかけていくときの捨て身な走り方といい、
強い職業意識のようなものを感じさせる。

こうなってくると、
生きものを交配やら訓練やらによって
品種改良してきた人間の側の執念を想像して、
おそろしいものだなぁと思ったりする。
だって、「狩猟」という仕事を
好きで好きでたまらない犬を、
人工的につくってしまったということだぜ。

ジャック・ラッセル・テリアという犬は、
ジャック・ラッセル牧師という人が、
いろんな犬を交配して理想的な猟犬として
つくったと言われているけれど、
闘犬は闘犬で、愛玩犬は愛玩犬で、
いろいろのことがおこなわれてきたんだろうなぁ。

いや、そのことが今回のテーマじゃないんだ。
ボール投げ、と言っているけれど、
ほんとうはボールは投げてないのだ。
かつては投げていたのだけれど、
投げる側の人間のほうが肩を痛めてしまったので、
ボールを転がすというやり方に変えたのだった。

さて、今回のテーマとは、なにか。
それは「転がす」である。
犬のことは、ほんとうに、ただのマクラだったが、
犬とのつきあいがなければ、このことは思いつかなかった。

犬に「転がす」ボールは、
ほとんど力を入れてないので、
犬がやめようとしないかぎり、
いくらでも続けられる。

「投げる」ではこうはいかない。
この場合、ボールが引力に従って落ちようとするからだ。
ボールを遠くにやろうとして「投げる」には、
相当の力が加えられなければならない。

でも、「転がす」は、もっとずっとラクなのだ。
人間のかける力は、「ひょい」程度で済むのだ。
軽いボールと重いボールではちがうのだけれど、
ちょうどいい重さで、弾力性のあるボールだと、
少ない力で、速く遠くまで転がってくれる。

ぼくは、力の使い方というと、
「押す」だの「ひっぱる」を
イメージすることが多かった。
しかし、あるとき、
「転がす」という力の使い方あったんだ、と、
いまさらうれしくなってしまったのだった。
(おれは、あほか‥‥。はい、あほです)
原始の時代の人たちが、「転がす」に気づいたときには、
どーんな気持ちだったろうか!?

そういえば、あっちもこっちも、
世の中は「転がす」だらけだったのだ。

ボールベアリングが、どんだけ世界を転がしていることか。
スポーツカーだって、トラックだって、
タイヤを「転がす」ことで
あんなに速く力強く走っている。
配達の人たちの使う、ぼくの大好きな「台車」も、
「転がす」という力の使い方のよい具体例だ。
まだまだある、と言いたいのだけれど、
「転がす」を考えることになれてないので、
うまい例がなかなか思い浮かばない。
でも、「転がす」という力の使い方が、
どんだけ世界に影響を与えていることかは、
感じてもらえるにちがいない。
すべての「車」と「球」が、このためにあるのだからね。

「歩く」だとか「走る」
「跳ぶ」「飛ぶ」「泳ぐ」「投げる」、
「滑る」「這う」「流す」‥‥いろいろ動き方はあるし、
それなりに使われ方があるのはわかる。
それでも「転がす」は、
いちばん効率のいい力の使い方なんじゃないかしらん。
だいたい、楽してお金を儲けるのに
「〜転がし」だとか言うことでも、それはわかる。

ぼくの頭の中に、
「転がす」という力の使い方があるんだ、と
記録されるだけでも、
きっと、なにかが変わると思うのだ。

仮にさ、ミーティングのときなんかに、
「それは押すより、引くほうがいいんじゃないか」
なんて場面があると思うのだけれど、
そんな場合にも、
「まてよ。押すとか引くよりも、転がせないかな」
などという思考が生まれるんじゃないかなぁ。
「あの件は、春用に転がせないものかな」とか、
「メディアを変えて転がしてみよう」なんてね。

恋愛の関係なんかでも、
「押す」だの「引く」に限定されてないかな。
ここにこそ「転がす」があるような気がしない?
恋愛じゃなくて、夫婦になってしまうと、
どうも「転がす」で持続しているようにも思うんだ。

そろそろ、用意しておいたオチをつけて終わりにします。

「ローリングストーンズ」って、
ほんとに、転がし続けてここまで来てるよね。
だから、年齢があれだけ高くなってもやっていけるし、
旧い曲も新しい曲も関係ないし、
力をうまいこと出し続けていられるんだと思う。
彼らこそが、「転がす」の達人だよな。

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2008-03-03-MON
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