ITOI
ダーリンコラム

<モテようとしているということ>

『その人は、誰ですか?』というゲームを考えて、
しばらく遊んでいたことがある。

道具もなにもいらない。
ともだちだの知りあいだのが集まって、
誰かゲームマスターの役をする者が、
特定の誰かのことを思えばいいのだ。

で、そこにいるメンバーが、
その人が誰なのかについて、質問していく。
「その人は、運転免許を持っていますか?」だの、
「その人は、35歳くらいですか?」だの、
適当なことを質問していくだけだ。
ゲームマスターは、
「はい」か「いいえ」のどちらかを答えるのだが、
つい、「はい‥‥だと思います」とか、
「いいえ‥‥だっけ‥‥よく知りません」なんてことに
なっても、何の問題もない。
全体に、とてもいい加減な遊びなのだから。

質問が続いていくと、
しだいに「その人」の輪郭がはっきりしていくる。
そうなると、質問が複雑なものになってくる‥‥。
「その人は、おとといくらいに、
 ちょっとケバイ女と
 スーパー丸正のところを歩いてましたか?」
もう、質問する人間は「あてがき」になっている。
こうなると、ゲームマスターも
その情報を知らなかったりするので、
「あ、そうですか!」なんてことを、
つい言ってしまったりする。
「その人は、歌舞伎町で5万円取られましたか?」
「取られました取られました!もうわかりましたね」
もう、みんなが「その人」は誰か、わかってしまっても、
ゲームは終わるものではない。

「う〜ん。あいつでいいのかなぁ。
 他にも歌舞伎町で5万円とられた奴なんかいるしなぁ」
などとしらばっくれて、
あとは、質問する人たちどうしが、
「その人」についての、
ばかばかしい情報を次々に出していく。
ここで、「その人」のばかばかしさや、せこさや、
ちょっとした見栄っぱり具合などが、
さんざん暴露されていくわけだ。

もういいか、と、飽きたところで、
「わかった、若松くんだ」などと、
わざとらしく終わりにすることが多い。
「そっかー、若松くんだったのかぁ」などと、
みんなも儀式として
「なかなかわからなかった」という演技をする。

基本的には、うわさ話をするというだけのことなので、
その場にいない人間がテーマになることが多いのだが、
遠慮なく、その場にいるメンバーが
「その人」になることもある。
自分のことだな、と気づいた時には、
「いやいや。その人はそういうつもりで言ったんじゃない
 ‥‥んじゃないですか」などと、
妙な調子でゲームに参加することになる。

このゲームを遊ぶには、ちょっとしたコツがある。
まず、ただの悪口にならないような
微量の「知性」みたいなものがあったほうがいい。
どこまでも紳士的にやる必要はないのだけれど、
本人がいても「セーフ」な感じでやらないとね。

もうひとつは、やっぱり質問のおもしろさだ。

「その人は、自転車に乗れますか?」だとか、
「その人は、自働販売機のおつりの出てくる穴を、
 そうとうしつこく探りますか?」だとか、
「その人は、とろろを食べると口のまわりが
 かゆくなって文句ばっかり言うような人ですか?」
などという具体的にくだらない質問もいいのだけれど、
もっと観念的で、
「ああ、そういえば」と考えさせられる質問が出てきたら
もっと楽しめる。

「その人は、うるさいですか?」
って、何をどういう基準にしていいかわからないが、
だいたいの人は、そういえば
「うるさい」か「うるさくはない」かに分類できそうだ。

いまでも、このゲームのなかで出てきた
傑作だったなぁと思う質問がある。
「その人は、モテようとしていますか?」というのだ。
モテているかどうかではなく、
モテるタイプかどうかでもなく、
「モテようとしていますか?」なのだ。
この質問は、その後も、よく思いだす。

じゃ、あなたもゲームマスターになって、
誰かのことを思ってください。
思いましたか?
じゃ、はじめましょう。
「その人は、モテようとしていますか?」

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2007-10-22-MON
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