ITOI
ダーリンコラム

<好きな人に会える場所は、
 好きな人の好きな場所>


ぼくが作詞という仕事をするようになったのは、
仕事としてCMソングの作詞をしたことがきっかけだ。
CMソングのつくり方と、
ポピュラーソングのつくり方と、
そうたいしたちがいがあるわけじゃない。
目的がちがうんだとか、決済の方法がちがうとか、
ちょっとはちがうこともあるのだけれど、
人が気持ちよく感じる部分というのは同じだ。
どういう目的の仕事であれ、
「人が気持ちよく感じる」ことをしているのだと、
ぼくは思っている。

「人が気持ちよく感じる」の内容にもいろいろあって、
ジェットコースターを設計する人なんかは、
悲鳴をあげさせるような仕事になるし、
ホラー映画の製作スタッフたちは、
怖がらせることが
「人が気持ちよく感じる」の実現になる。
魚を売ってる人だって、
クルマの運転をしている人だって、
仕事のいちばん大事なところは、そこなんだと思う。

だいたいの仕事は、
「人が気持ちよく感じる」ことなんだよ、
と言っても、ピンとこない人もいるかもしれない。
もっと見ればわかる、というような例をあげようか。
みんなが集まってダンスをしているとする。
そこにバンドがいると想像してみよう。
そのバンドのやっていることが、
「人が気持ちよく感じる」ことだと思えばいい。

目的がどうであれ、思想がどうであれ、
仕事というのは「人が気持ちよく感じる」ことについて、
技術を高めたり、気合いを入れたり、
方法を工夫したりすることだ。
つまり、ダンスバンドが楽器の演奏がへただったら、
「人が気持ちよく感じる」ことなんか
できやしないというわけだ。

そういう考え方でいえば、
CMソングの作詞も、ポピュラーソングの作詞も、
つくるにあたって、大きなちがいはない。
おそらくだけれど、短歌と俳句のほうが、
大きなちがいがありそうだ。

いや、この話をするつもりじゃなかった。

作詞をはじめるきっかけになったCMソングのことを、
いまさら、急に思い出してしまった。
そのことを言いたかったのだ。
九州のある駅前に
スーパーマーケットができることになって、
その開店に合わせたキャンペーンの仕事に、
ぼくも関わっていたのだった。
そのときにつくった歌詞が、こんな感じだった。
「好きな人に あえる場所は
 好きな人の 好きな場所さ」
どんなことを考えながらつくったかも、憶えている。

自分の好きな人が、静かに本を読むことが好きなら、
図書館に行けばあえるんじゃないか。
好きになった人が、スケートが好きなら、
スケートリンクに行けばあえると思う。
海を眺めるのが好きな人を好きになったなら、
海に行ってみれば、きっとあえる。
サッカー好きの青年を好きになったら、
サッカーの練習場か競技場に行けばいるだろう。

CMソングとしては、そういう場所に、
この駅前のショッピングセンターがなるといいね、
という気持ちが込められているのだけれど、
歌の力としては、その場所というのが、
「図書館」であっても「海」であってもかまわない。

人と人とが出合える場所というのは、
どちらかが好きな場所なのではないか、と、
この、自分が昔つくった歌のことを忘れて、
最近またそんなことを考えていたところだった。
「ほぼ日」を、ひとつの町のように考えて、
その町を、どういうふうにつくっていけばいいのかを、
こつこつとイメージし続けていたのだ。
昔の自分に、その答えに行きつくための
軽くてほんとうのヒントをもらったような気がする。

そうなんだよなぁ。
「好きな人に あえる場所は
 好きな人の 好きな場所さ」
というふうに考えていけばいいんだよなぁ。
それは同時に、
嫌いな人にあわないですむ場所を探したり、
たくさんの人にあえる場所に出かけたり、
というふうに応用もできそうだ。

たしか、
その歌の続きは、こんなふうだった。

「好きな人に あえる場所は
 好きな人の 好きな場所さ
 
 汽車の音が聞こえてきて
 人の波が かがやく場所
 行ってみれば きっとあえる
 手をふったり ほほえんだり」
 
うん。
そういう感じ、いまさらながら、いいなぁ。

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2007-06-18-MON

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